パナソニックが本気のベトナムは“1970年代の日本”だった
ASCII.jp / 2025年1月27日 7時0分
ホーチミン市の中心を走る大通りでは、無数のバイクがクラクションを鳴らしながら行き交い、道端にはフォーやバインミーなど国民食が並ぶ屋台が所狭しと軒を連ねる。カフェ文化も根付いており、街角のテーブル席では若い人たちがスマートフォンを片手に熱心に会話を楽しむ──。そんな熱気あふれるベトナムの日常風景は、急速に成長を続ける“いま”の勢いを象徴するかのようだ。平均年齢は約35歳と若く、まだしばらくは“人口ボーナス期”が続くとみられる。
こうした活況を見せるベトナムを、パナソニックが海外事業の重点国として注力しているのには2つの要因がある。1つは日本の人口減少に対し、ベトナムが豊富な若年層を抱えていること。もう1つは、交通インフラなどの街づくりが急速に進み始めたことだ。2024年12月22日、南部ホーチミン市では都市鉄道(MRT)の1号線が開通した。また、30km北に位置するビンズン省の新都市を貫くBRT(バス高速輸送システム)の計画も進んでおり、こうしたインフラ投資は人口増加と都市化のペースを一段と加速させる大きな要素となっている。
事実、ベトナムは2023年時点で人口が1億人を超え、アジアの中でも3番目の規模を誇る。近年は6〜8%のGDP成長率を維持し、特にビンズン省は多くの工業団地が集積する要衝だ。
ホーチミン中心部の工業団地が飽和状態になったことで、ビンズン省に企業が次々進出し、その結果、若い労働者層が職場の近くに住みたいというニーズも膨らんでいる。人口増加率は平均3%超と全国平均(約1%)を大きく上回り、さらに平均所得も国内トップクラス。こうした人口と所得の両面での上昇は、外資系企業にとって魅力的な投資環境をつくりだしている。
パナソニックが早い段階からベトナムに進出してきたのは、まさにこの将来的な需要拡大を見越しての戦略的判断だ。エレクトリックワークス社(以下、EW社)では、電設資材ビジネスユニットの海外展開としてインド、トルコ、そしてベトナムを特に重視した。その一環として設立されたのが、このビンズン省に生産拠点を持つパナソニックエレクトリックワークスベトナム(PEWVN)だった。配線器具やブレーカーといった電設資材でベトナム国内シェア1位を誇り、資本金90億円、2023年度の売上222億円、従業員1576名(うち日本人出向者20名)という規模まで成長を続けている。
PEWVNの成長を後押ししているのが、東急グループとベトナム国営企業ベカメックスIDCの合弁会社「ベカメックス東急」によるビンズン新都市開発だ。同社ディレクターの釣佳彦氏が指揮を執るこのプロジェクトでは、約1000ヘクタールもの広大な土地に、ビンズン省統合庁舎をはじめとした行政機能や警察・消防、大学などを集約。県庁所在地自体を旧市街から移転させることで、新都市の中心部に一括して都市機能を整備した。「SORA gardens SC」というショッピングセンターにはイオンやニトリ、無印良品、コーナンなど日系企業が進出し、幅広い業種を取り込んでいる。
「MIDORI PARK The GLORY」や「MIDORI PARK The TEN」などの高級マンション開発も続き、日本の住宅設備や家電を取り入れた“日本風の暮らし”がベトナム人の憧れとして広まり始めている。スイッチやブレーカー、換気設備といったインフラに直結する製品を供給するパナソニックにとっては、自社の“高品質・適正価格”をアピールする絶好の舞台であり、実際に採用を増やすことでさらなるブランド価値の向上につなげている。
こうした急速なインフラ整備と豊富な若年層、そして活力に満ちた生活文化が混ざり合うベトナムは、まさにかつての高度経済成長期の日本をほうふつとさせる。MRTやBRTが本格的に稼働を始めれば、人とモノの流れはますます活発化し、投資環境がさらに整っていくだろう。
ホーチミン市からビンズン省へ向かう幹線道路では、バイクの洪水が道を埋め尽くす一方、工業団地へ通う若者の姿も目立つ。仕事を終えればショッピングセンターで買い物を楽しみ、夜は屋台料理やカフェで語り合う。そんなベトナム人の暮らしを背景に、パナソニックの製品が生活の基盤を支えているのだ。
パナソニックは、こうした現地の成長力を確実に取り込み、「日本式の高品質」を広めることでシェアを拡大し、さらには近隣のASEAN諸国へ事業を広げる戦略を描いている。1970年代の日本と重なるような躍動感を放つベトナムは、今後のアジア全体の市場動向を占う意味でも、極めて重要なカギとなるだろう。
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