パナソニック製品を売りまくるベトナム社長が、中国企業を恐れるワケ──コスパではなく「スピードと順応性」が脅威だ
ASCII.jp / 2025年1月27日 7時0分
2025年1月22日、ベトナムの家電や電設資材などを取り扱うナノコ(Nanoco)グループのルーン・リュク・ヴァンCEOが、ホーチミン市内でメディアの合同取材に応じた。ナノコグループはパナソニックエレクトリックワークスベトナム(以下、パナソニック)との30年にわたる共同事業を担い、近年ではベトナム全国をカバーする広大な販売・物流ネットワークの構築を進めている。同社は、さまざまな販路を統合するオムニチャネル戦略や、BtoB向けECサービスの開発など、積極的な事業展開が特徴だ。売上は非公開ながら「9ケタドル規模」に達し、パナソニック製品の売上も前年比12%増と好調さを維持している。
一方で、ルーンCEOは「今後、中国企業が東南アジア、特にベトナム市場へさらに攻勢をかけてくる」と予測する。驚くべきは、その脅威の本質を「コストや品質」ではなく、「スピードと順応性」にあると指摘している点だ。
30年続くパナソニックとの協力関係
ナノコグループは1991年に設立され、当時はベトナムでも数少ない民間企業のひとつだった。創業期からパナソニック(旧・松下電器)と関係を築き、1994年には松下エレクトリックワークスとのパートナーシップを締結。1997年以降、パナソニックブランドへ移行しても協力関係が続いている。グループ傘下には6社の子会社があり、そのうち5社がパナソニック製品を扱う。事業領域は電設資材、家電、照明、配管など多岐にわたる。
2024年には30周年記念のイベントを開催するなど、パナソニックとの長年の連携を誇示している。ルーンCEOは「これから先30年、40年と関係を継続し、さらに発展させたい」と強調する。一方、パナソニック側もベトナム国内での事業展開を大きく加速しており、そのパートナーとしてナノコグループは欠かせない存在となっている。
ベトナム全国をカバーする販売ネットワーク
ナノコグループが構築する販売網はベトナムの63省全域をカバーする。ディーラー、近代的チェーンストア(MT)、建設案件単位のプロジェクトセールス、そしてオムニチャネル(直販)と、多岐にわたるチャネルを通じて顧客にアプローチ。EC(電子商取引)の盛り上がりが著しいベトナムでも、ナノコグループのディーラーや顧客がオンライン販売を希望すれば柔軟に対応するという。
さらに全国21ヵ所に営業所をもち、販売・在庫管理・配達・アフターサービスをワンストップで扱う。この物流拠点網は事業の競争力を高める要素だ。ロケーション選定には相当な投資をして、1万平米規模の建屋やフォークリフトなどの設備も自前で備える。こうした拠点では取り付けや修理などのサービス対応までする「質の高いアフターサービスを提供することがブランド価値を支える」とルーンCEOは説明する。
社内開発のBtoB向けECシステム「Ampo」
もうひとつの強みが、独自に開発したBtoB向けECサービス「Ampo(アンポ)」だ。ナノコグループでは内製のソフトウェア開発チームを擁し、受注や在庫管理をはじめとする業務を一元管理している。単に型番検索だけでなく、多彩なキーワード検索や地域ごとの言語表現にも対応し、ユーザーが使いやすい操作性を追求。どの倉庫に在庫があるのか、いつ配送可能なのかがリアルタイムで見える化されるため、顧客満足度の向上に寄与しているという。ルーンCEOによれば「他社が真似しようとしても、開発ノウハウを持たずに失敗することが多い」とのことだ。
中国企業への最大の警戒ポイントは「スピードと順応性」
世界の“工場”として台頭してきた中国企業は、ベトナム市場を東南アジア最大級の潜在市場とみている。歴史的に中国と対峙してきたベトナムは「外来勢力の侵入を追い返す国民性がある」とされるが、ルーンCEOが懸念するのは安さや品質ではなく、その「対応の早さ」だと述べた。ニーズがあれば瞬時に品質基準を変えて安く生産でき、技術をコピーして改良もすぐする。こうした驚異的なスピード感と柔軟さは、中国企業と取引をしたことのある人なら誰もが感じる要素だろう。
しかし、パナソニックとナノコグループが強みとするのは、逆に「一定の品質を死守すること」と「顧客の声を拾う速さ」の両立だ。ベトナム全国をカバーする物流網と「Ampo」の連携により、顧客からの要望やクレームを短時間で吸い上げる体制を整えた。さらに、「日本製品」に対する高いブランドイメージが支えとなり、高所得層を中心に「パナソニック製品を持つことがステータス」となりつつある。「長持ちする良質な製品」を選ぶ層が確実に存在することが、中国企業の攻勢に対する一定の防波堤になるとの見立てだ。
日系企業のローカライズの遅れ
他方で、ルーンCEOは「日系企業の強みは評価が高いものの、現地ニーズへの適応(ローカライズ)が遅れがちだ」と指摘する。その点、パナソニックは30年をかけて地道にベトナム国内でのブランド力と販売網を築いてきた。「もっと現地化が必要」との声が上がる一方、「厳格な品質基準が日本ブランドらしさを支えている」という見方も根強い。今後、ベトナムが不動産や建設法の改正などで経済成長をさらに加速させるなか、柔軟なローカライズ戦略と“メイド・イン・ジャパン”のブランド力をどう両立させるかが大きな課題となるだろう。
パートナーシップが切り拓くベトナム市場の未来
ベトナム国内では政策や法律の改正によって開発案件が増え、建設関連や電設資材などの需要が膨らむ見通しだ。ナノコグループは、パナソニックをはじめとするパートナーや政府との協力を強化し、「グローバルの価値をローカルに根付かせるとともに、ローカルの価値をグローバルへ還流させたい。そうすることで、ベトナム北側の強い大国に負けず発展できると信じている」と意欲を示す。
30年前、ルーンCEOの父である創業者が小さな一歩を踏み出したとき、ここまでの成長を予想できた人は多くなかった。しかし今では、ベトナムを代表する電機・家電流通グループへと躍進し、パナソニックとの協力関係も深まっている。変化の激しい東南アジア市場において、中国企業のスピードと柔軟性を上回るべく、ナノコグループとパナソニックは顧客への迅速かつ丁寧な対応に磨きをかけている。彼らが見据えるのは、品質とブランド力の維持だけでなく、地域に根ざしたサービスとイノベーションの追求であり、それこそが“本当の脅威”を跳ね返す最大の武器になるのかもしれない。
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