アルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」の米国第II相臨床試験 罹病期間が短い患者群での認知機能低下の進行を統計学的有意差をもって大幅に抑制 脳脊髄液中のリン酸化タウの減少、脳内の海馬の萎縮抑制の2つの画期的な効果を確認
@Press / 2017年7月19日 18時15分
富士フイルム株式会社(社長:助野 健児)は、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症(以下AD)患者を対象としたAD治療薬「T-817MA」の米国第II相臨床試験において、下記の臨床効果を統計学的有意差をもって確認したことをお知らせします。
・罹病期間が短い患者群(患者全体の中央値2.6年以内)での認知機能低下の進行を大幅に抑制
・脳脊髄液評価対象患者において、リン酸化タウ(以下p-Tau)の減少
・Volumetric MRI(*1)評価対象患者全体において、海馬(*2)の萎縮抑制の傾向
◆詳細はWebページをご覧ください。
⇒ http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_1205.html?link=atp
一方、マサチューセッツ総合病院神経科副理事のRudolph Tanzi博士が行った、ADのリスク遺伝子を発現させたミクログリア細胞(*3)に対する「T-817MA」の効果を確認する研究では、「T-817MA」がミクログリア細胞に作用し、アミロイドβ(以下Aβ)の排除を促進することも明らかになりました。
これらの結果から、「T-817MA」はADの主要な原因物質であるp-TauやAβに作用し、ADの病態の改善に関与することが示唆されます。
今後、富士フイルムは、FDA(米国食品医薬品局)を含めた規制当局と米国第II相臨床試験結果について協議し、第III相臨床試験に向け検討を進めていきます。
ADは、記憶などの認知機能の異常を主症状とする疾患です。タンパク質であるAβが脳内で線維化して塊(老人斑)となり蓄積することで、神経機能の異常が現れると考えられています。特に、神経細胞の軸索を構成するタウタンパク質の過剰リン酸化・蓄積による異常凝集物の形成(神経原線維変化)やシナプス(*4)の減少、海馬をはじめとする脳の委縮などの異常は、病気の進行に深く関わっています。
認知症の患者は、現在世界中に4,400万人いると推定されており、人口の高齢化とともに2030年には7,600万人に増えると予測されています。その内、ADは認知症患者の半分以上を占めており、今後もその傾向は続くと予想されています。
現在、ADの治療薬として、ドネペジル塩酸塩をはじめとするアセチルコリンエステラーゼ阻害薬などが用いられていますが、これらの治療薬は、神経伝達能の増強などによる一時的な症状改善にとどまるため、新たなAD治療薬の登場が待たれています。
「T-817MA」は、富士フイルムグループの富山化学工業が見出したAD治療薬です。シグマ受容体(*5)の活性化により強力な神経細胞保護効果や神経突起伸展促進効果を示し、病態動物モデルにおいて高い治療効果を発揮することが確認されています。
高齢化社会の進展に伴って急速に増加しているAD患者に対して、「T-817MA」は高い治療効果が見込める革新的な薬として期待されています。富士フイルムは、パートナーとの協業も視野に入れて「T-817MA」の開発を進めるとともに、革新的な医薬品の提供を通じて社会課題の解決に貢献していきます。
*1 Volumetric MRI測定とは、MRIで撮影した2次元の画像をもとに、コンピューター処理によって体積を測定する方法。
*2 海馬とは、大脳の中にあり記憶に関係する領域。ADでは神経細胞が脱落し、海馬が萎縮することが知られている。
*3 ミクログリア細胞とは、中枢神経系の構成細胞であるグリア細胞の一種。脳内での免疫防御を担う。神経細胞の異常に対する修復に関与し、Aβの凝集を除去する機能をもつ。一方で、過剰に活性化されたミクログリア細胞は中枢神経組織で細胞障害にも関与することが知られている。
*4 シナプスとは、ニューロンとニューロンの接合部分で、電気信号が送られ神経細胞に情報を伝達する。
*5 シグマ受容体とは、細胞内の小胞体膜上に存在するタンパク質であり、中枢神経系では神経細胞障害の軽減等の機能を有する。
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