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東日本大震災で創出された湿地水域で、“川えび”の新種を発見

@Press / 2019年4月11日 11時0分

【概要】
東京農業大学・生物産業学研究科(北海道網走市)、千葉県立中央博物館(千葉県千葉市)、首都大学東京・都市環境科学研究科(東京都八王子市)、NPO法人「森は海の恋人」(宮城県気仙沼市)からなる研究グループが、気仙沼市の河川において、十脚目甲殻類(エビ類)の新種を発見し、国際専門誌Zootaxaで公表されました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/181139/LL_img_181139_1.jpg
図1.キタノスジエビ 第二胸脚のハサミ部(矢印)の長さが特徴


日本国内で“川えび”と称される淡水性のエビ類のうち、テナガエビ科にはスジエビ属とテナガエビ属が知られています。これまでに国内の淡水域に生息しているスジエビ属はスジエビ Palaemon paucidens 1種のみでしたので(外来種を除く)、この新種は2種目の淡水性スジエビ類となります。分布域が東北や北海道にあることから、本新種をキタノスジエビ Palaemon septemtrionalisと命名しました(図1)。


【詳細】
東京農業大学、首都大学東京、NPO法人「森は海の恋人」では、東日本大震災の津波と地盤沈下によって創出された湿地およびその周辺水域の保全を主目的とした調査の一環で、2012年から宮城県気仙沼市において底生動物(ベントス)相のモニタリングを行っています。その過程で、東京農業大学大学院の加藤木 侑一(博士後期課程1年)が、スジエビ属に分類されるものの、これまでに報告のない形態的特徴を持ったエビを採集しました。

この採集標本は国内で広く分布しているスジエビ属のスジエビ Palaemon paucidens De Haan 1884に形態的に酷似するものの、胸脚のハサミ部(図1、2)がスジエビよりも長いという特徴が見られました。そこで、十脚目甲殻類分類学を専門とする駒井 智幸博士(千葉県立中央博物館)に協力を依頼して標本を精査した結果、その特徴は種の違いを反映したものであることが明らかとされ、新種として公表されることになりました。ミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子の配列による分子系統解析からも、この結果が支持されています。

千葉県立中央博物館、国立科学博物館に所蔵されている標本および日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録されている塩基配列情報から、本新種は北海道から兵庫県までの日本海側と青森県から宮城県までの太平洋側に分布することが分かりました。本新種の学名については、北海道~東北地方に分布するという点を考慮し、ラテン語で「北方の」を意味するseptemtrionalisを用いてPalaemon septemtrionalisとし、和名をキタノスジエビとしました。
スジエビ属のエビは世界で87種が知られており、日本国内では在来の11種と、近年、国内に侵入した外来種チュウゴクスジエビの計12種が報告されていました。このうち、河川や湖沼に生息する淡水性種は、外来種チュウゴクスジエビを除けばスジエビのみでしたので、本新種キタノスジエビは2種目の国内在来の淡水性種となります。

図1.キタノスジエビ 第二胸脚のハサミ部(矢印)の長さが特徴
https://www.atpress.ne.jp/releases/181139/img_181139_1.jpg

図2.第二胸脚のハサミ部の拡大図
https://www.atpress.ne.jp/releases/181139/img_181139_2.jpg


【本研究のポイント】
日本人にとって川に棲むエビ類は“川えび”という呼称でもって、産業的にも文化的にも古くから馴染みのある動物です。その中でも、スジエビは国内では北海道から九州まで広く分布しているので、“川えび”を代表する一種と言えるでしょう。今回発見した新種キタノスジエビは、スジエビと形態的に酷似していることから、これまで種として見過ごされてきた“川えび”であると考えられます。スジエビとされていたエビ類の遺伝的な変異については、研究者の間では古くから知られており、本研究はその変異が別種レベルの変異であったことを形態学と分子系統解析の両面から明らかにしたものです。
本研究の成果は、進化的観点および保全的観点から興味深い発見でもあります。新種キタノスジエビは地理的に広く分布していますが、少なくとも今回調査した宮城県気仙沼市周辺の複数の河川では、本新種が生息する河川は限られていました。つまり、新種キタノスジエビの地域的な分布には、河川環境の性質が関係していることが推察されます。なぜ、このような分布様式になったかについては、本種の進化的背景も含めて大きな疑問です。また、現在調査中ですが、この新種は生活史の一時期をやや塩分のある汽水域で過ごすため、河口域の湿地の保全状態との関係も推察されます。したがって、新種キタノスジエビの生態特性は、今後、明らかにしていく意義が大きいと考えています。


【論文情報】
著者 : YUICHI KATOGI, SUSUMU CHIBA, KATSUHIDE YOKOYAMA,
MAKOTO HATAKEYAMA, SHIGERU SHIRAI & TOMOYUKI KOMAI
タイトル : A new freshwater shrimp species of the genus
Palaemon Weber, 1795 (Decapoda: Caridea: Palaemonidae)
from northeastern Japan.
掲載誌 : Zootaxa
巻(号)ページ: 4576巻(2号)239~256ページ
公表日 : 2019年4月2日
URL : https://www.mapress.com/j/zt/article/view/zootaxa.4576.2.2
DOI : http://dx.doi.org/10.11646/zootaxa.4576.2.2

*この研究は科学研究費補助金・基盤研究A「河川護岸の開削による震災湿地の水交換操作実験と物質循環・汽水生態系の応答解析」(18H03799、代表・横山 勝英)の助成を受けて行われたものです。


【著者】
■加藤木 侑一(かとうぎ ゆういち)1、千葉 晋(ちば すすむ)1, 2、
白井 滋(しらい しげる)1, 2
1. 東京農業大学大学院 生物産業学研究科、2. 東京農業大学 生物産業学部 海洋水産学科
■横山 勝英(よこやま かつひで) 首都大学東京 都市環境科学研究科
■畠山 信(はたけやま まこと) NPO法人「森は海の恋人」
■駒井 智幸(こまい ともゆき) 千葉県立中央博物館


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プレスリリース提供元:@Press

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