本日、発表!第29回(2019年度) Bunkamuraドゥマゴ文学賞小田光雄『古本屋散策』選考委員:鹿島茂

@Press / 2019年9月4日 10時30分

1990年の創設以来、Bunkamuraドゥマゴ文学賞は、毎年変わる「ひとりの選考委員」によって受賞作を決定してまいりました。第29回となる2019年度の選考を務めたのは作家、フランス文学者であり、古書コレクターでもある鹿島茂氏です。
受賞作に選ばれたのは、小田光雄著『古本屋散策』。小田氏がこれまでに蒐集した厖大な古書を読み込む中から、戦前・戦中・戦後に渡る日本における出版および文学の流れを横断する作品となっております。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/192512/LL_img_192512_1.jpg
古本屋散策

名称 :第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞
主催 :株式会社東急文化村
受賞作 :『古本屋散策』(2019年5月 論創社刊)
受賞者 :小田光雄(おだ みつお)氏
選考委員:鹿島茂(かしま しげる)氏
授賞式 :2019年10月16日(水) 於:Bunkamura
賞 :正賞 賞状+スイス・ゼニス社製時計
副賞 100万円


【受賞作概要】
人と本と古書店を繋ぐ
蒐集した厖大な古書を読み込み、隣接する項目を縦横に交錯させ、近代出版史と近代文学史の広大な裾野を展望する。『日本古書通信』に17年間にわたり連載した200編を集成!
戦前・戦中・戦後の知を横断する!


【受賞者プロフィール】
1951年、静岡県生まれ。早稲田大学卒業。出版業に携わる。著書『〈郊外〉の誕生と死』、『郊外の果てへの旅/混住社会論』(いずれも論創社)、『図書館逍遥』(編書房)、『書店の近代』(平凡社)、『出版社と書店はいかにして消えていくか』などの出版状況論三部作、『出版状況クロニクル』I~V、インタビュー集「出版人に聞く」シリーズ、『古本探究』I~III、『古雑誌探究』(いずれも論創社)、訳書『エマ・ゴールドマン自伝』(ぱる出版)、エミール・ゾラ「ルーゴン=マッカール叢書」シリーズ(論創社)などがある。個人ブログ【出版・読書メモランダム】( http://odamitsuo.hatenablog.com/ )に「出版状況クロニクル」を連載中。


【Bunkamuraドゥマゴ文学賞とは】
パリの「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、1990年に創設。権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探りたいと考えています。受賞作は、毎年交代する「ひとりの選考委員」によって選ばれ、選考委員の任期は1年です。


[選評]新しいものは常に古いもののなかにある
第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞選考委員 鹿島茂


選考委員が一人だけというのが意外に重荷になったと歴代の選考委員が例外なく述懐しておられますが、ジャンルを問わないというのもまた困惑を誘う規定でした。出版不況が叫ばれて久しいのに新刊点数は増加し続けているので、一人でフィクションとノンフィクションの全領域をカバーするのは大変なのです。
しかし、そんなときにふと、新刊の洪水という現象そのものにメスを入れた本はないのだろうかという考えが閃きました。そう思ったとき、たまたま眼についたのが小田光雄さんの『古本屋散策』でした。小田さんは『出版社と書店はいかにして消えていくか』『出版状況クロニクル』I~Vなどの著作を通して、出版と流通の問題を社会構造から考えるという視点を採用している数少ない著者の一人で、出版不況が激化すればするほど出版点数が増えるという出版流通業界の謎にも取り組んでおられます。
『古本屋散策』はというと、こちらは、日々、古書店の均一本コーナーなどで購入した古本を介して、自分と本とのかかわりを個人史的に回想しながら、先に述べた謎の淵源に迫る試みと解することができます。本書のコアは、古本収集そのものにあるのではなく、入手した古本に含まれる様々な情報(著者、編集者、出版社、発行人等々)を量的に蓄積することで初めて見えてくる「日本の出版・流通文化」の「無意識」の分析です。
「神田に代表される日本の古書業界は、世界に匹敵するものがないといわれているが、それは取次を中心とする特殊な流通システムが必然的に誕生させたものであり、近代出版流通システムの補完装置として始まったのではないかと考えられる」
すなわち、明治末に返品可能な委託制が導入されたことから取次が書籍流通と金融の主体を担うようになり、大量生産、大量消費という近代出版流通システムが出来上がっていったのですが、そのなかで、古書業界がこの量産システムからこぼれ落ちた本たちを救い上げるセーフティネットとして機能するようになったのです。その意味で、「日本の出版・流通文化」の「無意識」はこの古書業界からの逆照射というかたちでしか解明のしようがないのです。
通説では昭和初期の円本ブームが量産システムの嚆矢となったといわれますが、その一方では大手取次のネットワークに拠らない中小出版社の流通ルートが存在し、文学史に残る作家たちの処女作の多くはこうした中小出版社の流通ルートを通って読者のもとに届けられたはずです。小田さんが本書で企てようとしたのはこの幻の流通ルートの解明です。
「その(近代出版流通システムの成長の)かたわらで、現在の言葉でいえば、リトルマガジン、少部数の文芸書、翻訳書、研究書を主とするインディーズ系出版社は、読者に向けての作品を出版し、予約直接販売、会員制方式、組合システムといった近代出版流通システムとは異なる流通と販売に立脚し、成長していく出版資本とは別の出版活動を模索していたのではないだろうか」
では、なぜ幻の出版流通システムの復元がいま必要なのでしょうか?それは、近代出版流通システムがいずれ機能不全に陥ることが明らかな以上、代替システムを模索しておく必要があるからです。新しいものは常に古いもののなかにあるというのが古本収集の与える最大の教訓ですが、この場合も例外ではありません。
しかし、手掛かりとなる資料はほとんどありません。古本を手に入れ、内容を読み込むと同時に、後書きや奥付に記された編集者、発行人、出版社といった情報を抽出して「失われたネットワーク」を復元してゆくしか方法がないのです。本書はまさにこの絶望的に困難な企てを、著者個人の読書史・集書史と絡めながら綴った傑作古書エッセイです。
一人の選者が勝手な基準で受賞作を選ぶことができるというBunkamuraドゥマゴ文学賞のユニークな基準をうまく利用できたことをまことにうれしく思います。


【選考委員プロフィール】
鹿島茂(かしま しげる/Shigeru Kashima)
作家・フランス文学者・古書コレクター。現在、明治大学国際日本学部教授。神奈川県横浜市出身。19世紀フランス文学を専門とし、1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞受賞、1996年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、1999年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ風俗』で読売文学賞、2004年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。その他、著書多数。
書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」( https://allreviews.jp/ )を主宰。


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プレスリリース提供元:@Press

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