神奈川歯科大学、ポリデキストロースの新機能を発見 腸内発酵により唾液中IgAレベルが上昇
@Press / 2020年7月3日 10時0分
神奈川歯科大学大学院歯学研究科 口腔科学講座 環境病理学 槻木 恵一教授、神奈川歯科大学短期大学部 歯科衛生学科 山本 裕子講師らの研究グループは、血糖値の上昇を抑え腸内環境改善効果がある人工の水溶性食物繊維ポリデキストロース*1をラットに摂取させることが、唾液中Immunoglobulin A(IgA)*2レベルを上昇させることを発見しました。さらに解析の結果、唾液中IgAレベル上昇には、ポリデキストロース摂取により盲腸で産生が増加した短鎖脂肪酸*3が、腸内環境が改善した盲腸から速やかに吸収されたことが影響していると判明しました。
唾液中IgAは粘膜免疫の最前線で上気道感染症予防に重要な役割を果たしており、易感染性である高齢者の肺炎予防において、ポリデキストロースのような難消化性糖類*4摂取による唾液中IgAレベル上昇の効果が期待されています。
本研究成果は2020年6月11日に「Nutrients」に掲載されました。
【研究の背景】
IgAは粘膜免疫の主役であり、呼吸器・消化管の粘膜表面で極めて重要な感染防御機能を担っています。「呼吸器と消化管の入り口」として重要な役割を果たす口腔の唾液中にはリゾチーム・ラクトフェリンといった多種の抗菌物質が含まれていますが、中でもIgAが最も主要な抗菌物質で、唾液中IgAが上気道感染症の感染防止に大きく関与していることは数多く報告されています。超高齢社会の日本では上気道感染症から引き起こされる高齢者の肺炎の増加が社会問題となっており、早急な予防対策が求められています。唾液中IgAレベルを食品摂取で上昇させることができれば易感染性高齢者の肺炎予防に効果的と考えられますが、唾液中IgAレベル上昇のメカニズムは十分に明らかになっていませんでした。
【これまでの研究の経緯】
本研究グループでは大腸でIgA産生を増加させる難消化性糖類に注目し、ラットに4週間フラクトオリゴ糖*5を摂取させると盲腸内容物中IgA濃度だけでなく、唾液中IgA分泌速度も上昇すること、顎下腺のIgA濃度とIgAを唾液中に輸送するPolymeric immunoglobulin receptor(pIgR)*6発現も上昇することを明らかにしました。またフラクトオリゴ糖摂取時に盲腸で産生が上昇する短鎖脂肪酸が唾液中IgA分泌速度上昇に影響していることを明らかにし、腸管が唾液腺に影響を与えている「腸-唾液腺相関」という新しいメカニズムを発見しました。しかし唾液中IgA上昇に影響を与えているのが盲腸内容物中の短鎖脂肪酸濃度であるのか、あるいは盲腸から吸収された短鎖脂肪酸であるのかは不明のままでした。
【研究の成果と意義】
本研究では、ラットを用いた動物実験により、盲腸から吸収された短鎖脂肪酸が唾液中IgA分泌速度に与える影響を解析しました。摂取することで盲腸での短鎖脂肪酸産生は上昇するが盲腸内容物中短鎖脂肪酸濃度が低下することが報告されているポリデキストロースをラットに継続摂取させ、唾液中IgA分泌速度、盲腸内容物中短鎖脂肪酸濃度、盲腸から吸収された短鎖脂肪酸の指標となる門脈血中短鎖脂肪酸濃度を測定しました。4週後、盲腸内容物中短鎖脂肪酸濃度は低下、門脈血中短鎖脂肪酸濃度は上昇し、唾液中IgA分泌速度は上昇しました(図:1)。
ベイジアンネットワーク*7による解析により、唾液中IgA分泌速度には盲腸内容物中短鎖脂肪酸総量と門脈血中短鎖脂肪酸濃度、盲腸内容物水分量が影響を与えていることが明らかになりました(図:2)。
ポリデキストロース摂取により盲腸で産生が上昇した短鎖脂肪酸が、腸内発酵に伴う内容物水分増加による拡散の上昇で盲腸から速い速度で吸収され、門脈血中短鎖脂肪酸濃度が上昇し、その結果唾液中IgA分泌速度が上昇した可能性が明らかになりました(図:2)。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/217516/LL_img_217516_1.jpg
図:1
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/217516/LL_img_217516_2.jpg
図:2
【今後の展開】
本研究により、大腸における短鎖脂肪酸産生上昇と大腸から速やかに血液中に吸収された短鎖脂肪酸が、唾液中IgAレベル上昇に影響していることが判明し、我々研究グループがその存在を発見した「腸-唾液腺相関(図:3)」のメカニズム解明に一歩近づきました。また血中コレステロール減少作用や腸内環境改善効果が知られているポリデキストロースに、「唾液中IgAレベル上昇」という新しい機能があることも判明しました。ポリデキストロースは安全性が確認されており、既に添加された様々なプレバイオティクス製品が発売されています。今後ポリデキストロース摂取がヒトの唾液中IgAレベルや上気道感染症予防に与える効果を検討していく予定です。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/217516/LL_img_217516_3.jpg
図:3
【論文】
英文タイトル:Faster Short-Chain Fatty Acid Absorption From the Cecum Following Polydextrose Ingestion Increases the Salivary Immunoglobulin A Flow Rate in Rats.
タイトル和訳:ポリデキストロース摂取による盲腸からの短鎖脂肪酸の速い吸収がラット唾液中IgA分泌速度を上昇させる
掲載誌 :Nutrients
DOI :10.3390/nu12061745.
【研究支援先】
本研究は、文部科学省科学研究費補助金No. 15H06809, 17K11694 の支援により行われました。
【用語解説】
*1:ポリデキストロース
トウモロコシ由来のブドウ糖を主原料とし、人工甘味料ソルビットとクエン酸を加えて生成された人工の水溶性食物繊維。血糖値の上昇抑制、血中コレステロール減少、腸内環境改善といった効果が知られている。
*2:Immunoglobulin A(IgA)
免疫グロブリンのクラスの一つで、分泌液の主要抗体タンパク質
*3:短鎖脂肪酸
脂肪酸の一部で、炭素数6以下のもの。具体的には酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸、コハク酸を指す
*4:難消化性糖類
ヒトの消化酵素により消化されない糖質
*5:フラクトオリゴ糖
スクロースのフルクトース側に、フルクトースが最大3個までくっついたものの総称
*6:Polymeric immunoglobulin receptor(pIgR)
多量体免疫グロブリンレセプター。二量体IgAはpIgRと結合し、細胞内を輸送され管腔内に分泌される
*7:ベイジアンネットワーク
「原因」と「結果」の関係を複数組み合わせることにより、「原因」「結果」がお互いに影響を及ぼしながら発生する現象をネットワーク図と確率という形で可視化
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プレスリリース提供元:@Press
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