【ジェーン・オースティン生誕250周年】ジェーン・オースティン 著 パーカー敬子 訳『理性と感性』第一巻 第一章特別公開
@Press / 2025年1月22日 10時0分
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2025年は、ジェーン・オースティン(1775-1817)の生誕250周年にあたります。これを記念して、イギリスや世界各地で彼女を称えるさまざまなイベントが開催されています。
ジェーン・オースティンは、イギリス文学においてリアリズムや風刺を取り入れ、女性の社会的地位や人間関係を鋭く描いた独自のスタイルで大きな影響を与えました。彼女の作品は、18世紀後半から19世紀初頭のイギリス社会を詳細に観察し、中でも中産階級の女性の生活や結婚をテーマに、社会的規範や道徳を批判的に表現しています。
代表作のひとつであり、近代イギリス長編小説の傑作とされる6作品の中で最初に出版された『理性と感性』は、弊社よりパーカー敬子氏の翻訳で昨年5月に刊行されています。このたび、その『理性と感性』http://www.asa21.com/book/b643078.htmlの第一巻 第一章を特別に公開いたします。
『理性と感性』あらすじ
性格が対照的な姉妹、冷静で理性的なエリナと感情的で情熱的なマリアンが、それぞれの恋愛や試練を通じて成長していく物語。父の死後、一家は財産を奪われ、厳しい生活を余儀なくされます。エリナは恋人エドワードの秘密に悩み、マリアンは魅力的だが無責任なウィロビーに翻弄されます。しかし、姉妹は困難を乗り越え、真実の愛や家庭の安定を見つけることで、理性と感情の調和の大切さを知るのです。
『理性と感性』第一巻 第一章 より
ダッシュウッド家はサセックス州(イギリス海峡沿いの英国南東部の州)に長年住みついた旧家だった。所領地は広大で、その中心にあるノーランド荘パ ー園クの大邸宅に住み、代々品行方正な家柄で、近隣の人々の評判も良かった。ノーランドの先代は独身、長寿で、長年のあいだ姉が常の話し相手であり女中頭として家庭を取り仕切っていた。しかし十年前にその姉が亡くなって、老人の家庭には大きな変化が起きた。亡き姉の穴埋めに、老人は甥のヘンリー・ダッシュウッド氏一家を呼び寄せたのである。この人はノーランドの法律上の後継者であり、老人はこの人に財産の全てを遺すつもりでいた。甥一家に囲まれて老人の日々は安泰であった。彼は甥一家全員を前にも増して気に入っていた。ヘンリー・ダッシュウッド夫妻は、利益の点からばかりでなく、心からの善意に基づいて老人の望みを叶えることに常の注意を払った。それは、歳相応な実質的な心地良さを老人の日々にもたらした上に、明るい娘達は彼の日常に興を添えていた。
ヘンリー・ダッシュウッド氏は、先妻との間に息子が一人、今の後妻との間に娘が三人いた。息子ジョン・ダッシュウッドは真面目なしっかりした人で、亡き母の莫大な財産によって生活は充分に保証されていた。その大財産の半分は彼が成年に達した時に既に彼の所有となっていた。その直後の結婚によっても彼の資産は増していた。妻のファニーは現在でもかなりな金持ちだった上に、母の死後にはその遺産も当てにできる身の上だった。このような事情であるから、異母妹たちにとって重要なノーランド継承の件は、ジョンにとってはそれほど重要ではなかった。この姉妹三人は、父がノーランドを受け継いだ時に発する利益の他には、殆ど何も財産がなかった。母には財産がなく、父は年収七千ポンドを自由に使えるだけだった。というのは、先妻の財産の半分は息子のものであったし、夫の彼自身は存命中に残りの半分の財産を使えるだけだったのである。
ノーランドの主の老人は亡くなった。彼の遺書が読み上げられ、遺書の殆どがそうであるように、喜ぶべきことと失望とが半々だった。老人は自分の地所邸宅を甥のヘンリー・ダッシュウッド氏から取り上げてしまうほど不公平でも恩知らずでもなかったが、―遺書の言葉遣いが災いして遺産の価値が激減する結果となった。ヘンリー・ダッシュウッド氏は自分や息子のためよりは、後妻と娘達のために遺産の分け前がもっと大きかったら良いのにと思った。それなのに、遺産の大部分は息子ジョンとその息子で現在四歳の子に遺されてしまったのだ。老人の遺書は、ヘンリー・ダッシュウッド氏にとって最愛で最も経済的備えの必要な妻や娘達のために遺産を分譲したり、値の高い森の木々を売って助けとすることができないように設定されていた。遺産全体がこの四歳の幼児の利益になるように凍結されてしまったのだ。この子はたまに両親に連れられてノーランドを訪れ、二、三歳の子の常で回らぬ舌でしゃべろうとしたり、自分勝手なことをしたがったり、いたずらして面白がったり、騒々しくしたりして老人に可愛がられるようになり、ダッシュウッド夫人や娘達が長年してきた親切を無に帰する結果にしてしまったのだ。しかし老人は別に不親切なことをしたかったわけではなく、愛情の印として三人の娘それぞれに千ポンドずつを遺した。
ヘンリー・ダッシュウッド氏の失望は初め大きかった。しかし彼は朗らかで楽観的な人で、まだ何年も命がある筈だし、経済的に暮らし、既にかなりの量であり増加の見込みもある農作物を売って相当な額を蓄えることができるわけだ。しかし長らく待った財産は、たった一年しか彼の物ではなかった。伯父の死後一年のうちに彼自身も亡くなってしまったのである。伯父から受けた遺産も含めてたった一万ポンドが妻と娘達に遺されただけだった。
死が間近と分かると、息子ジョン・ダッシュウッドが呼び出された。その息子にダッシュウッド氏は病中の渾身の力を振り絞って、継母と異母妹達の面倒を見てくれと頼んだ。
息子のジョン・ダッシュウッドは一家の他の者ほど情の深い人ではなかったが、このような時にこのような頼みを聞いて心を動かされ、できるだけのお世話はしますと約束した。このような約束を聞いた父親は安心したが、息子の方はどうしたら慎重と思える範囲内で世話をするかと考えていた。
ジョン・ダッシュウッドは不親切な人ではない。かなり心が冷たく、かなり利己的なのを不親切と言わなければ、のことであるが。大体のところ彼は人の尊敬を受けていた。というのは、通常の仕事にかけては立派にやってのけたのである。もし彼がもっと情のある女と結婚していたなら、彼は今以上の立派な人間になっていたかも知れない。―若くして結婚し、妻を非常に愛していたのだから、彼自身がもっと情の深い人間になっていた可能性はある。しかし妻のファニーは夫を風刺したような人で、夫以上に狭量で利己的だった。
ジョン・ダッシュウッドは父に約束した時、異母妹達にそれぞれ一千ポンドを贈与しようと考えた。その時はそれができると自分でも本当に思っていた。今までの収入に加えて、ノーランドからは年収四千ポンド(土地貸借料、農民の家賃、自家農場の農作物売上金など)が上がる見込みだし、母親の遺産の分け前もある。そのため心が温まり気前良くできると思ったのだ。―「そうだ、三千ポンドを贈与しよう。気前良いことだし、大した額だ! あの一家は完全に楽になる。三千ポンドだぞ! こんな多額を分けてやっても別に不便ではない」。―彼はこの件をその日一日考え、その後何日も考え、後悔しなかった。
ヘンリー・ダッシュウッド氏の葬儀が済むや否や、義理の娘ファニー・ダッシュウッドが、義母に前もって知らせもせずに子供と乳母を連れてノーランドに乗り込んで来た。彼女にその権利があることには誰も異議を唱えられない。邸宅は義父の死の瞬間から夫ジョンのものである。しかし彼女の思いやりに欠けたやり方はただでさえ気に障るのに、義母ダッシュウッド夫人の立場から言えば非常に不愉快だった。夫人は鋭敏な正義感とロマンチックな心の広さを持つ人だったので、誰がしたにせよ、されたにせよ、この種の侮辱は拭い難い嫌悪のもとだった。ファニーは、大体のところダッシュウッド夫人一家から好かれてはいなかったが、必要とあらばいかに人の安泰に無関心になれるかを示す機会が今までなかっただけなのだ。
ダッシュウッド夫人はこの非礼を痛切に感じ、義理の娘の行為に愛想を尽かしたので、彼女が到着するやいなや断固としてこの家を去って行ったかも知れない。しかし長女エリナに懇願されて、まず、出て行くのが適切かどうかを考え、娘三人に対する愛情もあり、娘らと異母兄との喧嘩別れを避けたいという願いもあり、居留まることにした。
このように効果的な助言をした長女エリナは、しっかりした理性を持ち冷静な判断をする娘で、たった十九歳なのに、熱心なあまり軽率なことをしかねない母親にしばしば助言し、一家全員の役に立っていた。エリナは優れた心の持ち主である。愛情深い性質で、感性も強いがそれを制御する術すべを心得ていた。これは母親がまだ習得していないものであり、次女マリアンに至っては絶対に習得しようとしないものだった
マリアンの能力はと言えば、多くの点でエリナの資質と同等だった。分別があり頭も良い。しかし何事にも熱心で、悲しみにも喜びにも中庸というものを知らない。心が広く、愛すべき性質で、関心を持たせる人だが、何事にも慎重さがない。この点でマリアンは驚くほど母親に似ていた。
エリナは妹の過剰な感性を懸念しながら見ていたが、母はそのようなマリアンの感性を尊重していた。今ダッシュウッド夫人とマリアンは自分達の境遇を嘆いて互いの激情を煽っていた。最初に彼女ら二人を圧倒した極度の悲嘆が自発的に繰り返され、求められ、感じられていた。二人は悲しみに身を捧げ、思い出す度に惨めさを増長させ、未来に希望を見出すことには絶対反対だった。エリナも深く悲しんでいた。それでもエリナは自らと闘い、努力した。異母兄ジョンとは相談し、義理の姉ファニーが到着した時には迎え入れ、丁寧に接し、母には同様に努力し辛抱するようにと薦めた。
三女マーガレットは明るく素直な少女である。しかし彼女は、マリアンのロマンチックな傾向を多分に吸い込みながらも分別がなかったので、十三歳のこの少女が歳を重ねるにつれ姉二人と同等になるかは今のところ不明である。
書籍情報
タイトル:理性と感性
著者:ジェーン・オースティン
翻訳:パーカー敬子
ページ数 : 376ページ
ISBN : 978-4-86667-676-0
価格 : 2,200円(10%税込)
発行日 : 2024年5月14日
書籍紹介ページ:http://www.asa21.com/book/b643078.html
amazon:https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4866676760/asapublcoltd-22/
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著者・翻訳者 プロフィール
著: ジェーン・オースティン
Jane Austen(1775-1817)
英国南部ハンプシャー州生まれ。18世紀から19世紀イングランドにおける田舎の中流社会を舞台として、女性の私生活を結婚を中心に皮肉と愛情を込めて描き、その作品は近代英国長編小説の頂点とみなされている。また英語における自由間接話法(描出話法)の発達に大きく貢献したことでも知られる。主要作品は、本書のほか『誇りと偏見』『エマ』『マンスフィールド・パーク』『ノーサンガー・アビー』『説得』など。
翻訳:パーカー敬子
1957年東京女子大学文学部英米文学科卒業、カナダに渡る。1964年にトロント王立音楽院よりARCT(Associate of the Royal Conservatory of Toronto)の教師資格を得て、46年間音楽理論を主として教授。2016年に同音楽院より第一回 Teacher of Distinction賞を受賞。1950年代後期よりジェーン・オースティン研究を始め、1981年にJane Austen Society of North America(JASNA)に入会。バンクーバー支部長を務め、2007年バンクーバー市で開催された年例会の委員長を務める。1993年カナダ、バンクーバー市の University of British Columbia 大学院English Departmentより修士号を取得。1993年から2004年までShakespeareSociety of Vancouver の月刊 Newsletter の副編集長。2015年より2022年まで英語圏最大のエッセイコンクールJASNA Essay Conestの審査員の一人。1998年よりバンクーバー近辺の日系シニアの為に「音楽の会」(コロナ禍で休会中)を、また2011年かは「ジェーン•オースティンを英語で読む会」を主催、現在に至る。訳書にオースティン作の『エマ』、『説得』、『マンスフィールド荘園』(いずれも近代文藝社)、『誇りと偏見』(あさ出版)がある。
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