武田科学振興財団、「2014年度 武田医学賞」受賞者を発表 ~ 11月12日(水)東京・ホテルオークラにて贈呈式を開催 ~
@Press / 2014年9月29日 11時30分
公益財団法人 武田科学振興財団(理事長:横山 巖、所在地:大阪市中央区)では、このほど「2014年度 武田医学賞」を下記の3氏に贈呈することを決定しました。
受賞者には、賞状、賞牌・盾のほか一件につき1,500万円の副賞が贈呈されます。
なお、贈呈式は、11月12日(水)午後6時よりホテルオークラ(東京)において行います。
「武田医学賞」は、医学界で顕著な業績を挙げ、医学ならびに医療に優れた貢献を果たされた学者・研究者に贈呈されるもので、1954年、武田薬品工業株式会社の創業170周年記念事業の一つとして設けられ、1963年 当財団の設立と同時に継承され今日に至っています。
今年で58回目を迎える「武田医学賞」の受賞者総数は、本年度を含めて120名となります。
<高井 義美 博士(たかい よしみ)>
神戸大学 特命教授(66歳)
受賞テーマ:「細胞間接着の機能と制御機構」
<長澤 丘司 博士(ながさわ たかし)>
京都大学 教授(53歳)
受賞テーマ:「造血幹細胞と血液・免疫細胞の産生を調節する微小環境(ニッチ)の解明」
<濡木 理 博士(ぬれき おさむ)>
東京大学 教授(48歳)
受賞テーマ:「細胞膜を介した物質輸送の分子機構の研究」
■高井 義美 博士の研究業績
受賞テーマ:細胞間接着の機能と制御機構
私達の体の組織や臓器は隣り合う同じ種類の細胞同士と隣り合う異なった種類の細胞同士が互いに接着してできており、この細胞同士の接着が異常になるとがんや認知症など色々な病気がひきおこされる。これまで同じ種類の細胞同士は竹市 雅俊 博士が発見したカドヘリンと呼ばれている接着分子によって接着することがわかっていたが、この細胞同士の接着がどのような仕組みで調節されるかはわかっていなかった。また、異なった種類の細胞同士の接着の仕組みはカドヘリンだけでは説明できなかった。高井 義美 博士は、ネクチンと命名した新しい接着分子を発見し、この接着分子がカドヘリンによる同じ種類の細胞同士の接着を調節することと、異なった種類の細胞同士を接着させることを明らかにした。また、ネクチンは細胞同士を接着させるだけでなく、細胞の形態形成や運動、生存、増殖、分化などさまざまな細胞の重要機能を制御することも明らかにした。ネクチンの発見後、この分子の異常ががんや認知症など色々な病気の原因と関連することがわかってきている。
■長澤 丘司 博士の研究業績
受賞テーマ:造血幹細胞と血液・免疫細胞の産生を調節する微小環境(ニッチ)の解明
私たちの体の臓器の構成単位である組織を構成する成熟細胞の多くは常に細胞死で失われているが、各組織の組織幹細胞が補給を続けることで恒常性が維持され、傷害されても再生すると考えられている。組織幹細胞は、その組織を構成する複数種類の細胞に分化できかつ何度でも自己複製する能力を持った細胞である。このような特性を持つ組織幹細胞は、発生学や幹細胞生物学において重要であるのみならず、臓器や組織の再生でのツールとなること、多くのがんの発生源となることから、再生医学・医療の他、がん研究においても大いに注目されている。更に、組織幹細胞は、居場所の「ニッチ」とよばれる特別な微小環境によって維持され、ニッチは幹細胞の司令塔として働く。したがって、組織幹細胞ニッチの理解は、幹細胞自身の研究と共に、幹細胞研究において車の両輪をなすが、その実体や機能は長年の謎であった。長澤博士は、血液細胞の組織幹細胞である造血幹細胞の維持と血液細胞の産生(造血)に必須のサイトカインを発見し、これを基盤に長年不明であった造血幹細胞と造血の司令塔であるニッチを構成する細胞を発見、更に幹細胞ニッチの実体と、作用と形成の分子機構を脊椎動物および哺乳類ではじめて明らかにした。
血液細胞とは血管の中を流れている細胞で、体の隅々にまで酸素を運搬する赤血球、細菌やウイルス等の病原体から体を防御する免疫系の主役であるリンパ球等の白血球、血管の損傷を修復する血小板を含む生命の維持に欠かせない細胞群である(血液・免疫細胞)。一方、骨の中心部分は空洞で、骨髄と呼ばれる組織で占められており、成体のほぼすべての血液細胞は、骨髄で造血幹細胞より産生される。
1977年に英国のDexter博士が骨髄の未分化な血液細胞を3ヶ月間培養することに成功し、その際、未分化な血球(造血前駆細胞)が増殖する前に観察されるストローマ細胞と呼ばれる細胞がニッチ細胞であると推定されたが、その実体や骨髄での局在、機能は不明であった。また、2003年、米国のLi博士らが骨を造る骨芽細胞が造血幹細胞ニッチであると報告したが、生体での幹細胞ニッチとしての機能は明らかではない。長澤博士は造血幹細胞の胎生期での胎児肝から骨髄への移住(ホーミング)と骨髄での維持、骨髄での免疫細胞の産生に必須のサイトカイン(ケモカインCXCL12)すなわち造血の鍵となる生理活性分子を発見した。更に、骨髄でCAR細胞(CXCL12を高発現する突起を持った細胞)を発見し、CAR細胞が脂肪・骨芽細胞の前駆細胞であること、生体で骨髄の造血幹細胞と造血ニッチとして機能することを証明した。次に、フォークヘッドファミリーに属する転写因子で先天性緑内障と水頭症の原因遺伝子として知られていたFoxc1が骨髄ではCAR細胞で高発現することを見出し、Foxc1は発生の過程でCAR細胞をニッチとして働かせると共に、脂肪細胞に分化してしまうことを抑制していることを明らかにした。この発見により、哺乳類ではじめて幹細胞ニッチ細胞系列が存在すること、その形成と維持の鍵となる分子が明らかになった。
長澤博士の造血幹細胞の生着に必須のサイトカインの発見は、癌の化学療法に欠かせない骨髄移植療法の主流になりつつある末梢血幹細胞移植において重要な臨床応用につながっている(米国企業による末梢血中に造血幹細胞を湧出させるCXCR4阻害剤の上市)。長澤博士の成果は、将来、白血病や炎症性疾患など多くの難治性疾患の原因となる造血幹細胞と造血の異常に対して、ニッチを薬物で調節することによって治療したり、皮膚の線維芽細胞やiPS細胞等から人工的に造血ニッチ細胞を作製することで、試験管内でより正常に近い造血を再現して利用する再生医療に役立つことが期待される。
■濡木 理 博士の研究業績
受賞テーマ:細胞膜を介した物質輸送の分子機構の研究
濡木 理 博士は、一貫して高等真核細胞の脳神経、循環器、腎臓、消化器などの細胞機能に重要な膜輸送体に焦点を当てて、これらの輸送体の基質識別機構、輸送駆動機構、輸送制御機構を明らかにし、ここ10年余りの間に国際的に先駆的な成果を挙げてきた。膜に埋め込まれた膜輸送体タンパク質は、細胞内外のイオン、糖、代謝産物、異物(薬物など)の輸送を的確に行うことで、この細胞内環境を維持しているナノマシンである。ヒトの遺伝子の30%以上が膜蛋白質をコードしており、創薬ターゲットの50%以上が膜蛋白質であることから、膜蛋白質研究は生命原理の探求のみならず、医薬学への応用にも極めて重要である。濡木博士は、まず受動輸送をするチャネルに着目し、Mg2+チャネル MgtEの細胞質ドメインが「Mg2+センサー」として働き、イオン透過孔を開閉することで、細胞内のMg2+バランス維持に働くことを明らかにした。さらに濡木博士は光によって駆動される新規の陽イオンチャネルの研究を進め、脳神経化学の分野で極めて重要なツールとなっているチャネルロドプシンの分子機構を解明し、本構造に基づいて性能が改善されたChR変異体を創出し、神経生物学や神経病理学の分野に貢献する研究を推進している。
次に濡木博士は、能動輸送をする共役輸送体に着目し、Ca2+/H+交換輸送体において、2本のヘリックスからなる構造ユニットがコアとなる構造の上を回転しながら滑ることにより細胞外開構造と細胞内開構造を切り替えることを明らかにした。さらに濡木博士は栄養分子や薬剤の共役輸送体の研究を進め、小腸でのオリゴペプチドの吸収に働くPOTや異物および薬剤の排出に働くMATEが、プロトンの流入と共役して基質分子を輸送する分子機構を明らかにした。特に多剤耐性病原菌の原因となるMATEに関しては、ペプチド創薬の道を開いた。
さらに濡木博士は、低分子でなく蛋白質の輸送を行う輸送体の構造機能研究に研究を発展させ、タンパク質の膜透過チャネルであるSecYE、新規のプロトンチャネルであり膜シャペロンとして働くSecDF、膜タンパク質を膜に組み込む膜透過因子YidCの結晶構造を次々と発表し、世界の当該分野をリードした。
濡木博士は、基礎研究だけでなく、遺伝子疾患の治療に資するゲノム編集ツールとして脚光を浴びているCas9とガイドRNA、ターゲットDNAの複合体装置の結晶構造を決定し、簡易に生細胞・個体のゲノムを編集できるツールシステムの開発も進めている。
▼受賞者略歴・賞罰および武田医学賞FAQ
http://www.atpress.ne.jp/releases/51458/att_51458_1.pdf
【公益財団法人 武田科学振興財団の概要】
武田科学振興財団は、「科学技術の研究を助成振興し、国内外の科学技術及び文化の向上発展に寄与する」ことを目的とし、武田薬品工業株式会社からの寄附を基金として1963年に設立されました。詳細については、財団ホームページをご覧ください。
URL: http://www.takeda-sci.or.jp
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プレスリリース提供元:@Press
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