【試乗記】「カミソリよりもシャープ!」 メルセデス「SLS AMGブラックS」(ビデオ付)

Autoblog JP(オートブログ) / 2013年4月20日 17時0分

【試乗記】「カミソリよりもシャープ!」 メルセデス「SLS AMGブラックS」(ビデオ付)


Gallery: 2014 Mercedes-Benz SLS AMG Black Series: First Drive



メルセデス・ベンツのスポーツブランド、AMGのブランドスローガン「ドライビングパフォーマンス」を体現した特別モデル「ブラックシリーズ」。2006年の「SLK55 AMG ブラックシリーズ」に始まり、2008年には「CLK63 AMG ブラックシリーズ」、2009年には「SL65 AMG ブラックシリーズ」、2013年には「C63 AMG ブラックシリーズ」が発売された。その5台目として登場したのが今回試乗した「SLS AMG ブラックシリーズ」だ。ベースモデルの「SLS AMG(クーペ)」はレーシングカー並みのパワーと高い回頭性を備えつつ、快適な乗り心地を実現している。ベース車である SLS AMGが特別感を持ったクルマだけに、それをブラックシリーズ化することに意味はあるのだろうかと正直、筆者はその有効性を疑っていた。
しかし、その疑問に「SLS AMG ブラックシリーズ」は見事に応えてくれた。同車には、軽量化やエンジンの出力向上、特別な装備、前後のエアロパーツなど多くの改良がなされている。SLS AMGにハマった人なら、よりどっぷりとその魅力に漬かれるだろう。ハマらなかった人には実はあまりオススメできるモデルではない。評価がどちらであっても、"SLS AMGのバリエーションの中で最高のモデル"というのが実際に試乗した感想だ。

このクルマの開発に際し掲げられたモットーは、「公道での究極のパフォーマンス」「街乗りのレーシングカー」といった、これまでのブラックシリーズとあまり変わらないものだったそうだ。しかし、「SLS AMG ブラックシリーズ」は他のブラックシリーズ化したモデルとは違い、レーシングモデルの「SLS AMG GT3」からインスピレーションを受けている。「SLS AMG GT3」は2012年の数々のレースに参戦し43度の勝利を記録した他、FIA-GT1世界選手権/FIA-GT3ヨーロッパ選手権でのチーム・ドライバー両タイトルを含む9つのタイトルを獲得した常勝のレーシングカーだ。




メルセデスAMG社のCEO、オラ・カレニス氏はこのクルマについて、「モータースポーツの技術を100%ロードカーへ注いだ完璧な研究の成果の賜物だ。世界で活躍するカスタマースポーツレーシングカー、SLS AMG GT3に、コンセプト面と技術面の両方でインスピレーションを受けている」と語っている。

ここで問題なのが、フランス南部のポール・リカール・サーキットで行われた「SLS AMG ブラックシリーズ」の試乗イベントでのAMGの開発チーフ、トビアス・メールス氏の発言だ。同氏によれば、技術の移行はその逆の方向、つまりロードカーから始まってレーシングカーにも採用されることの方が多いという。これは要するに、あなたがディーラーで販売されているロードカーを買ったときにはそれがすでにかなり高度な技術で開発されているため、もうサーキットのパドックに持ち込む途中まで来ているということだ。同じようなことはアウディ「R8」のレーシングモデル「R8 グランダム」にも言える。レース用マシンは市販モデルの段階で半分以上が出来上がっていて(例えばR8 グランダムのエンジンは市販車のR8から3つのパーツしか変更されていないそうだ)、大きな違いはボディパネルくらいだという。SLS AMG GT3ではロードカーのSLS AMGで採用されたカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)製のドライブシャフトが使われているし、「ブラックシリーズではエアコンを撤去しなかったのか?」と訊いたときには「GT3でさえエアコンが付いています」との答えが返ってきた。つまり、非常に高い技術がすでに投入されているロードカーのSLS AMGをベースに開発されたGT3マシンから、さらにモータースポーツで培われたノウハウを再びロードカーへフィードバックさせたものが、SLS AMG ブラックシリーズである、ということになりそうだ。




また、同氏に開発にあたっての目標はどのようなものだったのか聞いてみたところ、「ホッケンハイムのベストパフォーマンスカーとして名を連ねたかった」と語ってくれた。ドイツの『スポーツオート』誌がテストコースとして使用することで知られるホッケンハイムのショートコースで、「SLS AMG GT」(エンジンの出力アップやサスの見直しなどを行ったモデル)よりも2.5秒速いラップタイムを出したかったそうだ。ブラックシリーズは同コースで1分8秒を記録したそうだが、もしラップ記録を掲載している『fastestlaps.com』のリストが確かだとすると、同じ1分8秒台のラディカル「SR3 SL」(ロードバージョン)とシボレー「コルベットZ06」(Z07パフォーマンスパッケージ)の間に食い込むということになる。1分8秒台には、他にポルシェ「911 GT2 RS」、ランボルギーニ「アヴェンタドール LP700-4」、マクラーレン「MP4-12C」などが名を連ねている。

具体的な改良点だが、まずはエンジンから見ていこう。「SLS AMG ブラックシリーズ」は6.3リッターV型8気筒自然吸気エンジンを搭載。最高回転数はGTの7200rpmから8000rpmまで引き上げられ、最高出力はGT比で39hp上回る622hp/7400rpmに向上している。一方で最大トルクはGT の66.3kgmから64.8kgm/5500rpmへと下げられている。また、振動を受け止めるため、エンジンとボディの間にはガスを封入したストラットが取り付けられており、またトランスミッションを固定するためにもガスストラットが使用されている。



強靱な手足を持たなければ強靱な心臓も力を発揮できない。ブラックシリーズの7速デュアルクラッチトランスミッション「AMGスピードシフトDCT」は、(標準モデルの鍛造アルミニウムダイキャスト製に替わって)CFRP製のトルクチューブによってエンジンと連結されており、さらに制御プログラムの変更によってより反応が速い変速と正確なダウンシフトの回転合わせを実現した他、取り付け位置を10mm 低くし、車両の重心が下げられている。また、CFRP製のボンネットやバルクヘッドパネルを採用したことも重心を下げるために一役買っている。

「AMG RIDE CONTROL パフォーマンスサスペンション」を採用した足回りは「SPORT」と「SPORT+」の2段階のモードに切り替えることができる。「SPORT」は田舎道や起伏に富んだ道、つまりニュルブルクリンクのような高低差の大きいトラックでの走行に適しており、「SPORT+」はポール・リカールのようなフラットなトラック向けだ。

車重はベース車と比べ、全体で70kgの軽量化を達成している。具体的には、チタン素材のエグゾーストシステムの採用で約13kg、CFRP製のトルクチューブへの変更で14kg、カーボンセラミックブレーキの採用で16kg、専用マットブラックペイントの19/20 インチ「AMG 10スポークアルミホイール」の採用で4kg(タイヤはミシュラン「Pilot Sport Cup 2」)、リチウムイオンバッテリーの採用で8kg減らされている。もっと軽量化することも出来たと思うが、AMGは状況を問わず充分に楽しめるクルマにしたかったのだろう。公道で乗ることを考えれば、これ以上は(例えばエアコンを外したりウインドーを樹脂製に置き換えたりすれば)やり過ぎとなる場面も多々ある。



随所に軽量化が施されたその最終的な重量は1550kg。これは、ポルシェの新型「911 GT3」より約90kgだけ重い計算になる。

外装には際立った軽量化は見られないが、随所に見られるAMGのエアロダイナミクス技術が「SLS AMG GT3」を連想させる。トレッド幅が拡大したことにより広がったフェンダーやエアインテーク/エアエクストラクター、カーボンファイバー製のエアアウトレット付ボンネットやフロントエプロン、サイドスカート、幅のあるリアディフューザーなど、非常にスポーティーなスタイリングとなっている。また、オプションで用意されているガーニーフラップ付きのカーボンファイバー製リアウイングを装備すれば、時速200kmの走行時に60kgのダウンフォースを得られるという。ブラックシリーズの最高速度が196mph(315km/h)と、SLS AMGよりも1mph伸びが足りないのはこのためだ。

ポール・リカールでの試乗では、"ミスターDTM"とも呼ばれるレーサーのベルント・シュナイダーが熱い走りで先導してくれた。ちなみに最初の「SLS AMG」はちょっとした運転ミスで不安定になり、少しでも気を抜くとリアが外に出てしまいがちだった。数年後にサスペンションのセッティングが改良されてから制御しやすくなったものの、依然としてハンドリングはシビアなままだ。




まずは今回ポール・リカールで利用したコースのレイアウトをご紹介しよう。コースは右回りで第1コーナーの90度の右カーブを過ぎると、すぐにまた90度の右カーブが待ち構えている(こちらのカーブは第1コーナーよりもオープン)。その先の90度の左カーブまでちょうどアクセルを強く踏み込める程度の距離の短めの直線となっている。直後の90度の右カーブと左カーブ(この左カーブはRが後半に進入するほど大きくなっている)を過ぎると長い直線コースへ。続いて緩やかな高速コーナーと複合コーナーを曲がり、きつめの右コーナーを曲がるとホームストレートに戻る。

ベースモデルであれば、最初のカーブ続きの区間のせいで全体のラップが台無しになってしまうことだろう。数か月前にドイツのアウトバーンをSLS AMGで3桁のスピードで走行していただけに、少し不安になった。

ブラックシリーズはそういった不安を解消してくれた。カーボンファイバー製のフルバケットシートに座り、「いざコースへ」といったところで2つの驚きがあった。ブラックレザーとアルカンターラを組み合わせたシートの座面は薄く、D型のハンドルはとても軽い。軽量化が施されている全ての部分に適切に改良が加えられていると言っていいだろう。慣れるための努力は必要かもしれないが、「ここをこう出来たはず」といったような不満は無い。




エンジンに火が入り、いざ出走。チタン製となった新しいエキゾーストシステムからは車の中から外まで轟音が鳴り響く。アクセルを踏むとすぐにスピードが上がり、エンジン音や排気音を聞いただけでクルマを操っている感覚がダイレクトに伝わってくる。

第1コーナー前で減速させ、カーブをいくつか通り過ぎバックストレートへ。ここまですんなりとたどり着くことができたが、その理由は以下の3つが考えられる。1つは硬めのサスペンションがコーナー進入時の応答力やコーナー中盤での安定性を高めていること。2つ目は、更なるCFRPの採用でシャシー全体の剛性が高まったこと。そして3つ目は、新開発の電子制御式リアデフ(LSD)の採用だ。優れたトラクション性能を実現し、ESPを入れたままコーナーを攻めても安定した走りを感じることができた。

行きと帰りの直線コースで100mph(約160km/h)を優に超える速度を出しても標準的なロードカーで味わうような不安感は一切なかった。「直線がもっと長ければ」と思ったほどだ。ぜひともこのクルマで「スピード出しすぎなのでは?」というくらいの速度で長い直線を駆け抜けてみたい。



AMGによると、「SPORT+」モードがポール・リカールのような「平らな」トラックに適しているとのことだが、そんなポール・リカールの路面でさえ、 「SPORT+」の設定は固く感じられる。ブラックシリーズでは、標準モデルのSLS AMGが持つ手に負えない操縦性は確かに改善されているが、すっかり飼い慣らされてしまったというわけではないのが嬉しいところだ。ドライビングに対して絶え間なく返してくるフィードバックは、サーキット走行に本気で合わせてチューンされたマシンを運転しているということを決して忘れさせないし、正しい判断力が常に求められる。コース外へ飛び出してしまうことを心配するよりも、「このクルマを乗りこなしてやろう」という気持ちで運転に没頭することができた。

「SLS AMG ブラックシリーズ」は米国では今年の夏に販売される予定だ(日本ではすでに2月22日から予約販売を開始、納車は8月下旬 から順次開始の予定)。少量限定生産で、ボディカラーなどのオプションも数えられるほどしか用意されていない。ボディカラー以外には、サーキット走行時のラップライムなどを「COMAND」ディスプレイに表示する標準装備の「AMGパフォーマンスメディア」の取り外し(これで5.9kg減量できる)や、1000Wの「Bang & Olufsen BeoSound AMGサウンドシステム」の選択(日本仕様は標準装備)、カーボンファイバー製の各種外装パーツをどれくらい取り付けるかなどだ。

乗りやすいスーパーカーは他にもあるが、それらのクルマは扱いやす過ぎて物足りない節がある。カウボーイが穏やかな飼い牛ではなく荒馬や荒牛のロデオに挑んだ先には、必ず挑戦したことへの報酬が待っていることだろう。「SLS AMG ブラックシリーズ」は手に負えないほど扱いにくいわけではなく、乗ってみたいと人を引き付けるような、ほど良いバランスの一台だ。

【基本情報】
エンジン: 6.3リッターV型8気筒エンジン
パワー: 最高出力622hp 最大トルク64.8kgm
トランスミッション: 7速DCT(AMGスポーツシフトDCT)
0-100km/h : 3.6秒
最高速: 196mph(315km/h)
駆動方式: 後輪駆動
車両重量: 1550kg
座席数: 2
燃費: 市街地 13mpg(約5.5 km/ℓ)、高速道路 19mpg(約8.1 km/ℓ)
メーカー希望小売価格: 3250万円(日本価格)

By Jonathon Ramsey
翻訳:日本映像翻訳アカデミー

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