「将来」にフォーカスするドミニカ、「今」にフォーカスする日本(前編)

ベースボールキング / 2019年6月18日 17時13分

「野球離れ」が進む中、海外での経験に裏打ちされたユニークな指導法で注目されている阪長友仁氏に、ドミニカ共和国の野球と「球数制限」について聞きました。




■ドミニカ共和国では「球数制限」はそもそも必要ない


ドミニカ共和国には「球数制限」のルールはありません。そもそも必要ないんです。
指導者の間に「子供たちの未来を考える」あるべき姿が確立されていますから。
指導者の評価は、目の前の勝敗ではありません。将来、子供が活躍したほうが指導者の評価は高まります。

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そういう価値観が確立している中で、子供に100球、150球投げさせたとなれば、仮にその時ケガをしなくても、この指導者は危ないな、ということになる。だから、自ずとそういうことはしなくなります。
いろんなメジャー球団で話を聞くと、試合では日本の17、8歳でおよそ80球くらいが目安になっているようです。85球でもケガをする子が増えることはないでしょうが、80球で十分という考え方です。
ドミニカ共和国は3か月のリーグ戦で、週6試合、計72試合をします。ローテーションで何回も登板機会が回ってくるので、十分に経験を積むことができます。

■「子供にたくさん投げさせる」という言葉が辞書にない


その下の年代のドミニカ共和国の子供たちは、メジャー傘下のアカデミーに行くことを目標にしています。そうした15,6歳の子供たちのレベルでも、全国大会はありません。スキルアップのために地元中心のリーグ戦を行っています。
もちろん、勝利を目指してはいますが、指導者も選手も「次のステップ」を目指しています。MLB球団とマイナー契約を結んでもらうことが目標になっているのです。
だから試合に勝っても90球投げた、100球投げた、挙句にケガをした、疲労したでは、トライアウトでベストパフォーマンスができないので意味がありません。そういう認識は、みんな持っています。
ドミニカ共和国には「子供に、たくさん投げさせる」という言葉が辞書にないんですね。


■何に「フォーカスするのか」が違う


ドミニカ共和国の教育水準はそれほど高くはありません。学校の授業のレベルは日本の方が上です。教育水準は間違いなく日本のほうが高いでしょう。でも、何に「フォーカスするのか」が違うんです。
ドミニカ共和国では「将来」にフォーカスしている。でも、今の日本は「今」にフォーカスしてしまう。
これは野球だけではありません。本来、教育とは「将来豊かに生きていくために、今、こういう勉強や経験をすべきじゃないか。100点取らなくてもいいけど、知っておくほうがいいね」ということを学ぶことではないかと思います。

日本では、本来「手段」であるべき「教育」を「いい点を取る」という「目的」にしてしまうことで、本質を見失ってしまう恐れがあると思います。
野球で言えば、みんなプロ野球選手になれるわけではありません。みんな野球で生きていくわけでもありません。でも、野球を始めたからには少しでもうまくなりたい、長く現役を続けたいと思っている。そして野球をしたことを人生に役立てたいと思っている。
今の高校以下の野球が、そういう目的に合っているかどうかですね。
ドミニカ共和国からは、日本よりもはるかに多くのメジャーリーガーが生まれています。だから、子供のころからメジャーを目指すのは当たり前だと思うかもしれません。

でも、決してそうではありません。メジャーリーガーになれるのはドミニカ共和国でもほんの一握りです。
でもドミニカ共和国では子供も指導者も「メジャーになんかほとんど行けないのだから、俺らはここで燃え尽きてもいい」とは思っていません。そもそも「燃え尽きたい」と思える甲子園のような大きな大会がありません。仮に燃え尽きても誰も評価してくれません。
大人たちも子供たちに何をさせるべきかを、フォーカスを「将来」に向けて当てて考えています。それはメジャーリーガーになれなくても、子供の将来にプラスになるはずです。(取材・写真:広尾晃)

後編に続きます。




阪長友仁氏
新潟明訓高校時代に甲子園に出場、本塁打も記録している。立教大学硬式野球部では主将も務める。その後、一般企業勤務を経て、世界の野球の現場をつぶさに見て、学び、指導者としての見聞を広める。現在は堺ビッグボーイズのコーチとして野球少年を指導。特にドミニカ共和国の野球指導の優秀さを日本に紹介している。

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