2度の全国優勝を誇る監督が「勝利至上主義」を捨てた理由

ベースボールキング / 2019年7月1日 16時51分

堺ビッグボーイズは、近年「勝利至上主義」を見直した選手本位の指導、育成で注目されている。代表の瀬野竜之介氏に少年野球指導者の立場から、考えを聞いた。




■何か変えないといけないな


私は堺ビッグボーイズの一期生です。1992年から2000年まで、チームの監督を務めました。全国優勝も2回経験し、世界大会でも監督を務めました。
監督就任当時は、漠然と、中学時代に注目され、活躍した選手はそのまま甲子園に行って、プロでも活躍しているものと思っていました。
でも、指導者になってから、自分がかかわった選手や、対戦したチームの有力選手のその後を見ても決して想像するような活躍をしていないということを感じるようになりました。
すごいといわれた投手がケガや手術をしたり、投手をやめて野手になったり、野球をやめたりしている。そのまま上の野球でも成功した選手は少なかったんですね。
何か変えないといけないな、と思うようになった。

■改革を断行


そういうことが見えてきて、今後は自分がやってきたことを改めなければならない。指導方法を全面的に改めようと思いました。
「球数制限」
「変化球制限」
「練習時間の短縮」
「指導者は怒声罵声を浴びせるのではなく、選手を見守る、観察する」
「自主練習の時間を設ける」
などが主要な改革でした。

こういう改革をしてから、どこかが痛いと訴える子はいなくなりました。
もちろん、小学校時代の投げすぎによる疲労や、成長痛をもって入団してくる子はいますが、中3になって故障で投げられない投手はいません。残念ながら他のチームにはたくさんいるのが現状ですが。
また、試験的に反発係数が低い金属バットも使っています。子供たちに良いと思ことはどんどん取り入れています。

■良いことばかりではなかった


この改革が、良いことばかりだったかというと、そうではありません。
高校に上がった子に「どう?」と聞くと、「堺ビッグボーイズのやり方はよかったけど、こんなところは苦労しました」ということも出てきました。
スライダーという球種は、勝利に近づくボールです。高校野球でも有効です。でも幼少期に投げすぎるとひじを痛めるリスクがあります。うちの選手は禁止をしているので、一切投げていません。
でも、高校に行けばすぐに結果を求められる。
「お前、こんな変化球も投げられないのか」
と言われることもあります。
それはある程度、予測できたことではあります。でも、即、結果を求められる日本の高校野球の現状を完全に無視することもできません。

もう一つ、試合での勝利数が減ったのも問題でした。
相手チームは、堺ビッグボーイズの投手はまっすぐしか投げてこないのがわかるから、思い切って振ってくる。それにより、打ち込まれることもあります。
大人は、先を見越して育てているからそれでいいんだよ、と説明しますが、中学生ですから自信を無くして「僕、(進路は強豪私学ではなく)公立高校でいいです」ということもあります。
ドミニカ共和国なら、「メジャーに行く」が目的ですから、今この場で打ち込まれても自信を無くしたりはしません。
つくづく思うのは「ここは日本だ」ということですね。

■気がかりは小学生の指導者


しかしそれでも子供たちの健康被害をかなり少なくすることができたのは、大きなことだと思います。
高校、大学で肩ひじが痛くなって投げられなくなったり、手術を受けたりする選手の中には中学、小学校時代の酷使が原因である例が多くあると思います。でも、当の少年野球の指導者は、そのことをほとんどわかっていません。
自分の教え子が大学に進んでから手術をした、肩ひじの故障で野球をやめたと聞いても、
「ひょっとして俺らの指導に原因があったのでは」と思う小中の指導者は皆無だと思います。
問題は、そういう指導者の意識にあるのではないでしょうか。

■自分をコントロールできる子もいる


永年やってきた中で、父母の反応も変わってきました。
堺ビッグボーイズの指導法を聞きつけて、愛知県、滋賀県、京都府、兵庫県、和歌山県からも子供を連れてくる親御さんもいます。
その反面、小学校の強豪チームにいた子供の親の中には
「これでは勝てない」「いい高校に行けない」と、堺ビッグボーイズを敬遠する人も現実にいました。
その子たちが隣のチームに入部して、そこで酷使をして結果的にケガをしてしまう。そしてそのチームにうちが負ける、というパターンをよく見てきました。隣のチームは勝つけど、選手の寿命は縮まる。悲しい現実です。悔しいし、無力感を抱きます。

アメリカには「無理をする」という発想がありません。「甲子園」がないからです。
甲子園があるから、選手は「あそこに行きたい」と思い、親も指導者も「行かせてあげたい」と思う。
しかし甲子園に行こうと思ったら、時間がないから、やらなければならないことも多くなる。無理もする。結局、問題の核心は「甲子園」によるものが大きい、ということになるでしょう。

■どこからでも変わろう、という機運が


高校野球の「球数制限」は、もちろん導入した方がいいと思います。
でも、それ以上に重要なのは「日程」でしょう。
1日に投げる球数もさることながら、続けて投げるリスクは高いと思います。
新潟高野連が導入しようとしたことで、皆さんの頭に「球数制限」という言葉が入りだしたのはいい傾向です。「やらなければならないなあ」という認識が広がっていけばと思います。

少し前まで、高校が球数制限をやれば、中学、小学校もそれに倣うだろうと言う人が多くいましたが、先駆けて今年の春から全日本軟式野球連盟が学童野球で導入を決めました。
また、私たちのボーイズリーグでも関東地区で一部、テストケースとして、球数制限を用いる大会が開催されました。
「高野連が変わらないと」といっていたのが、今はどこからでも変わろう、という機運になっています。そうなったら高校野球はどうするのか、という問題になってきますね。
中学校、小学校の意識改革が進む中で、高校野球はどうしていくのか、それを今後も注目したいと思います。(取材・写真:広尾晃)

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