新セーブ王、楽天・松井裕樹の“ハラハラドキドキ劇場”【短期連載:タイトルを狙う男たち】

ベースボールキング / 2019年9月26日 18時15分

◆ 第4回:剛球左腕が初タイトル

 楽天の守護神・松井裕樹のセーブ王が確定した。

 9月24日のソフトバンク戦で今季68試合目のマウンドに上ると38セーブ目を記録、松井を追うソフトバンクの森唯斗らとの残り試合数の関係で初タイトルを手中にした。この試合でチームのAクラスも同時に確定し、就任1年目の監督・平石洋介にとってもクライマックスシリーズ進出が決まったうれしい白星となった。

 もっとも、試合後の松井の表情は晴れやかとはいかない。

「(大事なゲームで)気合いが入りすぎた。監督には“ちゃんとやれ”と怒られました」

 3点差の9回、満を持してマウンドへ送り出されたが、いきなり柳田悠岐に安打を許すと、四球と味方の失策もあって無死満塁。ここから三振で一死、犠飛で二死ながら2点差とされ、さらに代打・明石健志に右前打を喫するなどアップアップの内容。何とか最後は牧原大成を打ち取って胸をなでおろした。

 この試合終了時点の今季成績は、68試合に登板して2勝8敗12ホールド38セーブ。防御率1.94は守護神にふさわしい数字だが、負け数の多さが何とも気になる。胸のすく快投も多いが、肝心な場面で痛打を浴びる。見る側からすれば“ハラハラドキドキ”。これも松井という守護神の特徴だ。

 神奈川・桐光学園時代から「奪三振王」として全国に名を知られていた。2年夏の甲子園大会では、今治西戦で22奪三振という圧巻投球を演じている。150キロ超の直球と右打者の懐に鋭く食い込むスライダーを武器に、プロ1年目から一軍のマウンドに立ち続けてきた。先発から抑えへの転向は2年目のこと。この年、監督に就任した大久保博元が松井の奪三振率の高さに着目して、思惑通りに33セーブをマークするのだから、非凡な素質は疑う余地もない。


◆ その先に広がる風景は?!

 プロ6年目の今季も奪三振率13.82は群を抜いている。先発と抑えの違いはあるが、ソフトバンク・千賀滉大の同記録が「11.33」なのだから、いかに三振を奪う能力に長けているかがわかるだろう。投球の幅を広げるためにチェンジアップらの球種も習得した。だが、勝負所になるとストレートとスライダーで三振を狙う投球スタイルは変えられない。そこに、力むと制球がままならない悪癖が加わり“ハラハラドキドキ劇場”となる。

 とは言え、23歳の若さで通算セーブ数は「139」を数える。不振で二軍落ちも経験した昨季は、わずか5セーブに終わったが、それでも100セーブの史上最年少記録を樹立。抑え転向から実働5年、このペースでセーブを積み重ねれば、10年後には400セーブを超す計算となる。元中日・岩瀬仁紀の日本記録(407S)に肩を並べて尚、33歳なのだから、故障や先発再転向がない限り、とんでもない記録を残す可能性がこの男にはある。

 今季は抑え受難の年と言われた。昨年まで絶対的守護神と言われた広島・中崎翔太やヤクルト・石山泰稚、ロッテの内竜也らが相次いで戦線離脱、ソフトバンクの森も一時、ファーム調整を余儀なくされている。

 先発は多少の失点があっても打線次第で勝利投手の権利が生まれる。これに対してストッパーは、ゼロに抑えるのが当たり前。打ち込まれればチームの敗戦を背負うだけでなく、他人の白星まで奪ってしまう。そんな過酷な職場を続ければ、勤続疲労も生まれる。こうしたスランプを乗り越えて、松井は初のタイトルを手にした。

 次の大仕事は10月5日に開幕するクライマックスシリーズ、ファーストステージのソフトバンク戦。その先に西武とのファイナルステージ、さらに勝ち進んで日本シリーズと夢は広がる。松井の存在が際立ったとき、それは楽天の下剋上を意味する。やはり背番号1の剛球左腕から目が離せない。※この項、終わり。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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