秋から冬にかけて気持ちが落ち込む…どうして?「季節性感情障害」について医師がアンサー!
美人百花デジタル / 2021年11月11日 20時15分
秋から冬にかけて気力がなくなる、元気が出なくなる……そんな症状に身に覚えはありませんか? もしかするとそれは、「季節性感情障害」かもしれません。今回は「虹の森クリニック」院長・坂野真理先生に「季節性感情障害」について詳しくお話をお聞きしました。
季節性感情障がい(SAD)とはどのような症状か教えて下さい
季節性感情障がいとは、これまで冬季うつ病として知られてきた疾患です。冬季うつ病は、秋~冬になるとうつになるものの、春になると自然に回復する疾患で、特に北欧、イギリスなどの高緯度の地域に多いことが指摘されてきました*1。
現在では、米国精神医学会による診断基準(DSM-5)においては、「双極性障がいおよび関連障がい群」の「季節型」もしくは「抑うつ障がい群」の「季節型」として位置づけられています。つまり、決まった季節にうつ状態になる方の中には、うつ病だけではなく、躁うつ病のうつ状態の方も含まれていることが分かっています。
一般的なうつ病や、躁うつ病のうつ状態では、
・憂うつな気分
・興味のあったことや楽しかったことが楽しめない
・不眠
・食欲低下、体重減少
・集中力や思考力の低下
・疲れやすい
・自分に価値がないと感じたり、自分を責める考えが浮かぶ
・イライラして落ち着かない
・死について考える
といった症状が見られます。
一方、季節性感情障がい(SAD)におけるうつ状態の場合、一般的なうつ状態とは比べ、
・過食(特に炭水化物の過剰摂取)
・体重増加
・過眠(特に朝が起きづらい)
がみられることがあります。
また一般的なうつ病と比べて、気持ちが沈むという憂うつ気分の症状よりも、
・意欲低下(いつもだったら好きだった趣味や活動に対して興味が持てなくなったり、楽しいと思えなくなり、何をするのも面倒くさい気持ちになる)
・全身倦怠感(特に激しく動いたわけでもないのに、エネルギーがなくなってしまったようになり、疲れやすくぐったり横になってしまう)
・集中力や思考力の低下(いつもより仕事や学校で忘れ物やミスが多くなり、集中したり何かを決断することが難しくなる)
が目立ちます*2。
*1 Rosen, Leora N., et al. “Prevalence of seasonal affective disorder at four latitudes.” Psychiatry research 31.2 (1990): 131-144.
*2 Tam, Edwin M., et al. “Atypical depressive symptoms in seasonal and non-seasonal mood disorders.” Journal of Affective Disorders 44.1 (1997): 39-44.
季節性感情障がい(SAD)の原因を教えて下さい
原因についてはさまざま議論されてきていますが、いまだに結論がはっきり出ていません。
もっともよく議論されているのは、冬に日照量が少なくなることが原因だとする説です。気分を調節する脳内の神経伝達物質の1つであるセロトニンを作る過程に日光が関係しているため、日照量が減るとうつ状態を発症しやすくなるということです*3。その他にも、睡眠リズムを調節する脳内のメラトニンという物質が、日照量が少なくなるとうまく睡眠を調節できなくなり、その結果うつ状態になるという説*4や、日光により活性化されてセロトニンの効果に影響を与えるビタミンDが関係しているという説*5があります。
一方、「躁うつ病」のうつ状態の場合、躁うつ病はうつ病と比較して遺伝性が高いことがわかっており、家族に躁うつ病にかかった人がいるなど、遺伝的な要因も原因として考えられます*6。また、冬季にうつ状態になりやすいのは、女性が男性の5倍であるという研究があり、性別も関係している可能性もあります*7。
従って季節性感情障がいの原因は、日照条件だけではなく、他にもさまざまな原因が複雑に関係していると考えられます*8、*9。
*3 McMahon, B., et al. “P. 1. i. 037 Patients with seasonal affective disorder show seasonal fluctuations in their cerebral serotonin transporter binding.” European Neuropsychopharmacology 24 (2014): S319.
*4 Wehr, Thomas A., et al. “A circadian signal of change of season in patients with seasonal affective disorder.” Archives of general psychiatry 58.12 (2001): 1108-1114.
*5 Berk, Michael, et al. “Vitamin D deficiency may play a role in depression.” Medical hypotheses 69.6 (2007): 1316-1319.
*6 Sher, Leo. “Genetic studies of seasonal affective disorder and seasonality.” Comprehensive psychiatry 42.2 (2001): 105-110.
*7 Wirz-Justice, Anna, et al. “Prevalence of seasonal depression in a prospective cohort study.” European archives of psychiatry and clinical neuroscience 269.7 (2019): 833-839.
*8 Menculini, Giulia, et al. “Depressive mood and circadian rhythms disturbances as outcomes of seasonal affective disorder treatment: a systematic review.” Journal of affective disorders 241 (2018): 608-626.
*9 Galima, Samuel V., Stephen R. Vogel, and Adam W. Kowalski. “Seasonal Affective Disorder: Common Questions and Answers.” American Family Physician 102.11 (2020): 668-672.
季節性感情障がい(SAD)の治療法を教えて下さい
一般的なうつ病や躁うつ病の治療が基本的に行われます。
うつ病と躁うつ病の基本的な治療には、
・薬物療法
・認知行動療法などの心理療法(カウンセリング)
が主に挙げられます。薬の治療では、うつ病に対しては抗うつ薬、躁うつ病に対しては気分安定薬が使われることが一般的です。特に毎年繰り返している方や長年にわたって同じ状況のある方は、薬の服用も長期にわたることが多いでしょう。
認知行動療法は、うつ状態に対して効果が認められている方法です。その他、対人関係療法など、さまざまな心理療法があります。心理療法は効果が認められるまで時間がかかりますが、時間をかけて取り組むことで、症状がいったん軽快した後の再発の予防などより長期的な効果が期待できます。
なお、特に季節性感情障がいの治療として、光療法を行っている医療機関もあり、市販のライトボックスを購入することもできます。ただし、様々な研究がこれまでなされてきていますが、光療法に効果があるという研究と効果がないという研究が両方あり、確実に効果が出るとはまだ完全に結論づけられていません*10、*11。しかし、副作用が少ないので、試してみる価値はあるかもしれませんね。
*10 Nussbaumer, Barbara, et al. “Light therapy for preventing seasonal affective disorder.” Cochrane Database of Systematic Reviews 11 (2015).
*11 Golden, Robert N., et al. “The efficacy of light therapy in the treatment of mood disorders: a review and meta-analysis of the evidence.” American Journal of Psychiatry 162.4 (2005): 656-662.
そのほか、何かアドバイスがございましたら教えて下さい
治療ではありませんが、下記のような対処法も参考にして下さい。
対処法1:自分のうつのパターンを把握しよう
季節性感情障がいの場合、自分のうつ症状が悪化する予測がつくのは、対処するためのメリットの一つでもあります。うつ症状といっても人によって現れ方はさまざまですので、自分がどのような症状が出やすいのかを把握し、冬が近づくにつれ症状のサインが少しずつ出てきたら、食生活や生活リズムを整えたり、仕事量を無理しないように調整するなど準備をしておきましょう。
対処法2:自分が心地よいと思う行動をしてみる
うつ状態に効果があるとされている認知行動療法の一連の治療の中で、うつ状態の改善にもっとも効果があるのは、「行動活性化」という過程であることが指摘されています*12。少し抑うつ気分が軽くなってきたら、良い気分になれる行動を始めてみるとよいでしょう。例えば、軽い運動や、室内での気分転換、外出など、自分にあったものを行ってみましょう。ただし、うつ状態の症状があまりにひどい時はなかなか難しいので、そこで無理する必要はありません。特に、周囲の人が無理に勧めて症状を悪化させないように気を付けましょう。また、開始するとしても1日だけがんばってぐったりするような行動をとるのではなく、一週間くらいは続けられる程度のほんの少しの行動から始めるようにしましょう。
対処法3:日光にあたり、睡眠リズムを保つ
日照量の不足が影響しているという説から、冬季うつの場合、晴れている日は、なるべく自然の陽の光にあたるとよいとされています。特に網膜に入る光を通じて睡眠リズムを調節するメラトニンの産生が制御されるので、光の方に視線を向けることが大事です。外に出られない場合は窓越しの日光でもいいですが、明るさがやや屋外よりも低めになってしまうので、少し効果が落ちるかもしれません。
*12 Cuijpers, Pim, Annemieke Van Straten, and Lisanne Warmerdam. “Behavioral activation treatments of depression: A meta-analysis.” Clinical psychology review 27.3 (2007): 318-326.
教えてくれたのは
「虹の森クリニック」院長 坂野真理先生
東京生まれ。日本医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院小児科およびこころの発達診療部、日本精神神経学会精神科専門医。医療福祉センター倉吉病院精神科などで勤務。この間、公益財団法人松下政経塾にも在籍。38才で英国キングスカレッジロンドンの精神医学・心理学・神経科学研究所に留学し、修士号取得。帰国後鳥取県倉吉市に虹の森クリニックを開業。2020年より英国ロンドンに虹の森センターロンドンを開設。日英両国を行き来しながら、診療や情報発信を行っている。
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