【女優・橋本愛さん】インタビュー「今はゴリゴリ自分のために生きています」
美人百花デジタル / 2024年3月16日 20時40分
対峙した瞬間「すごく緊張しています」と笑い、逆にこちらの緊張を解いてくれた。そんなナチュラルな気遣いができる橋本さんの言葉は虚飾がなく、芯を食っていて、心に刺さるパワーワードの宝庫でした。
本当の自分というものに一度も固執したことがないのかも
「10年ぐらい前から、いつかすごく狂ってみたいと思っていました」
――映画「熱のあとに」の出演動機を聞いてみたら、いきなりエキセントリックな言葉が返ってきた。しかもお風呂上がりのような、さっぱりとした表情で。
「日頃生きていると、社会的にも立場的にも狂うことって許されないじゃないですか。でも映画の中だけは許される。それで解放されたいみたいな気持ちがずっとあって、この脚本を読んだとき(主人公の)沙苗は自分の愛を突き抜いた人だなと。彼女自身は正気だけど、周りから見たら狂気に見えるという人物像で、すごくやりがいを感じました」
――沙苗はかつて愛したホストを刺し殺そうとした過去を持つ女性。激情が過ぎ去ったあとの虚無を抱える姿は終始、無表情、無感情。でもなぜだろう、観ているとヒリヒリ痛くてしょうがない。
「沙苗は心の中で泣いているんです。悲しくて苦しくてしょうがないけど、涙としてそれが出てこない。内側の表情と外の表情がまったく違い、ずっと夢の中を漂っているような人なので、撮影中はずっとふわふわしていました。ただいつもそうなのですが、私は演技について監督に聞かないことが多くて。『質問する前に自分で答えを出せよ』ってスパルタな教師が自分の中にいて(笑)、しかも今回はいろんな解釈ができる脚本だったので、監督に意図とか全部聞いちゃうと、それを代わりに表現するだけの人になってしまう。そうなると映画がかしこまってしまう気がしたので、あえて頭で理解せず、自分が感じたまま沙苗として漂っているようにしました」
――でも彼女が1回だけ泣くシーンでは感情が高ぶり「終わっても若干過呼吸みたいになってしまった」という。現場の臨場感、演者の〝狂気〟が伝わる、ちょっとすごい話である。
「最初、私自身は沙苗の愛し方を理解できなかった。否定まではいかないけど、ある種、裁く目線で見ていたんです。でも彼女に寄り添い、追いつこうと準備をして最終的に同じ目線に立ったとき『これが愛だ』だって心から思えた。その瞬間から新しい形の愛が私の中に入ってきて、より自分が豊かになったような感覚になりました。だから今はどんな愛の形を見ても、押し付けることもなく否定することもなく、それも愛だねってちゃんと表明することができる。沙苗を通して、そんな新たな自分の側面が生まれた気がしています」
――以前とあるインタビューでも「自分の中にはいくつもの人格があり盛り沢山で楽しい」と語っていた。普通はいろんな自分を抱えていると、矛盾や葛藤が生まれ苦しくなってしまいそうだが、それを「楽しめる」極意は何だろう?
「どうなんでしょう? 意識したことがないのでわからないけど、私は本当の自分ってものに一度も固執したことがないのかもしれません。こうしてまともにしゃべろうとがんばっているときも、家で人には見せられない格好をしているときも、全部が自分で全部が〝素〟じゃんって思っていて。偽りの自分なんてどこにもいないから、自分を見失うとか、どれが本当の自分だろうとか悩んだことがないんですよね」
今はゴリゴリ自分のために生きています(笑)
――「全部が本当の自分」。当たり前のようにそう言える人がどれだけいるだろう。橋本さんのキャパシティーは私たちが思うよりはるかに大きく、その言葉は固定観念を無効化してくれるやわらかな破壊力がある。
「私の中には映画や音楽、出会った人から入ってくる言葉でも『自分の言葉です』って言えるものと『これを私が口にしたら言葉を盗んだことになる』っていうものの明確な感覚の線引きがあって。そもそも言葉はみんなで共有しているものですが、自分の血が通っていれば胸を張って『自分のもの』って言えると思うんです。そうやっていろんな言葉や概念に触れて、自分がどんどん変わっていくのが面白くてしょうがない。新しい武器を手に入れたような、でも本来の自分が取り戻されて行くような感覚もあって、刷新と逆行が同じラインにある感じ。私は自分のことを宇宙だと思っているので、まだ知らない私も今の自分より先に行っている私もすでに存在している気がするんです。だから『未来のことがわからなくても大丈夫』って安心感があって、夢も見られるんですよね」
――その「夢」とは何だろう?
「超究極的に言うと世界平和。今は絶対叶わないからこそ、その夢を持っているかぎり自分がこれからも生きる理由として担保されているかなと。あと個人的な夢だと海外の映画祭で受賞している自分。そういう自分を想像していると、すべてがそこまでの過程になるから気張らずに生きられる。おばあちゃんぐらいになって夢が叶ったら『これで死ねる』って思えるかもしれません(笑)」
――いや、後者は近々に叶う予感が(笑)。昔は「生きづらかった」というが、今の橋本さんからは力強く前向きな可能性しか感じない。
「最近は生きづらいと思っていなくて、むしろこんなに生きやすくて大丈夫かなって感じ(笑)。そうなれたのは自分の苦手なことを任せられ、支えてくれる人がいるからで。そこはもう感謝しかない。私はひとりで生きるって何でも自分でやれることではなく、できないことを知り、誰かに頼れることだと思うんです。それこそ『熱のあとに』のときも、こんなに重くて緊張感のある作品なのにこんなに明るく健康的でいいの?っていうぐらい、みんな仲が良く助け合えた奇跡みたいな現場で。そんな作品に巡り合えたこと、そしていつでも頼れる状態にしてもらっていること、すべてがうれしくて、すごく息がしやすいです」
――橋本さんにとって美人とは「生きることを楽しんでいる人」。それを理想として掲げ、ようやく近づいてきたという。そんなご自身がいま作品を通して伝えたいことは?
「作品に関しては届くべき人には届いてしまうっていう、コントロールできない縁みたいなものを信じているので、むしろ何も考えずに作っています。もちろん自分が出た作品が誰かにとっての大事な1本になることが一番の幸せですが、そこを大前提とした上で、まずは自分。自分のために生きられる人が結局は誰かにパワーを与えられる。周りの人を守りつつ、自分がやりたいようにやったほうがエンパワーメントできるんじゃないかなと思うんです。なので、今はゴリゴリ自分のために生きていますよ(笑)」
――あらゆる経験を繊細に受け止め、タフに乗り越え、丁寧に自画像を描いてきた人。そんな印象がある。その輪郭は凛として濃く、穏やかな表情は吸い込まれるほど美しかった。
Profile
橋本愛(はしもとあい)
1996年1月12日生まれ。映画「告白」、「桐島、部活やめるってよ」などで注目。以後、数々の話題作に出演するほか音楽活動や写真、コラム連載など幅広く活躍。今後は映画「ハピネス」が待機中。
Information
映画「熱のあとに」
2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされたオリジナル作品。愛するあまり殺そうとしたホストへの愛に翻弄されながら、平穏な結婚生活を送る主人公・沙苗。そんな彼女がたどり着いた〝愛し方〟の結末とは?
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生他
配給ビターズ・エンド
公開中
掲載:美人百花2024年3月号「幸福美女図鑑」
撮影/女鹿成二 スタイリング/清水奈緒美 ヘアメイク/ヘア/夛田恵子 メイク/NOBUKO MAEKAWA 取材・文/若松正子 再構成/美人百花.com編集部
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