最速ライダーたちの要望に応え、劇的な進化を続けるレザースーツの世界!
バイクのニュース / 2020年7月9日 9時0分
レザースーツは、バイク乗りの正装と例えられることがありますが、安全性を確保しながらも最速で走るために作られた、ライダーの最強のウエアです。そのレザースーツは、いつから普及し始めたのでしょうか。現在までのレザースーツの進化を紐解きます。
■ライダーを怪我から守る鎧、レーシングスーツとは!?
レザースーツはライダーにとって最強の装備。サーキットやレースで戦う人には必要不可欠な鎧とも言える存在です。転倒したときに身体を守るべきさまざまな機能が装着され、空気の抵抗や流れを計算して、ライダーもバイクの一部となりマシンの性能をより強化するパーツとなるがごとく最新のテクノロジーが搭載されています。レザースーツとひとことでいっても、レース、走行会、峰不二子のようなロード系などなど、走るシーンやお財布の都合によってさまざまなバリエーションが用意されていますが、その、究極系といえるのが、レースに用いられるレーシングスーツです。
最新かつ最強のレザースーツに用いられている装備といえば、エルゴノミクスに基づいた設計、運動性を考慮した立体裁断にシャーリング、衝撃や摩擦を軽減する素材、エアバッグ、バックプロテクター、チェストプロテクター、バンプ(背中のコブ)、ニースライダー、エルボースライダーなどなどがありますが、これらはどのように生まれたのでしょうか。その進化をダイネーゼの歴史と共にちょっと振り返ってみたいと思います。
レザースーツが普及し始めたのは1950年代と言われています。それまでセパレーツで使用されていた、革ジャンと革パンツをつなげたツナギ状の革のレース用ウエアが制作され、それが欧米のレース先進国で定着し始めていました。それを受け、日本で初めてレザースーツを制作したのがクシタニなのです。
1963年日本人初のマン島TT優勝(GP50)した伊藤光夫もクシタニ製のツナギを着用
第1回浅間高原レースに出場するため、鈴木自動車工業(現スズキ)のレース担当者がクシタニに「上下つながった革のレースウエア」を注文したことが始まりで、目にしたこともないレザースーツを試行錯誤の上完成させたのです。1955年のことでした。レザースーツのことをツナギとも言いますが、完成したクシタニのレザースーツ第1号は、言葉のとおりに革ジャンと革パンをつなげただけのものでしたが、着用してレースに出場したライダーからの評判がよく、これにより日本でもレースにはレザースーツを着用することが定着したのだそうです。1960年代に入り、日本メーカーが世界GPに参戦するようになると、クシタニのレザースーツは日本人だけでなく、外国人ライダーたちからも愛されるようになりました。
そんなレザースーツは1980年代に入ってから劇的な進化の道を歩み始めます。まず、1979年にバックプロテクターが登場します。今やバックプロテクターは、レースシーンだけではなく、バイクに乗るときには必要不可欠な装備ですが、当時のレースシーンで速いがゆえにクラッシュも多かった、バリー・シーンが安全性を高める必要性を感じ、当時契約していたダイネーゼに改良を依頼したのが始まりでした。当時、バリー・シーンは背骨の保護を目的に、レーシングスーツの背中にラバーフォームを挿入していました。転倒が多かったからこそ、背骨を保護する目的の装備を早急に進化させる必要性をバリー・シーンは早くから訴えていたのだといいます。その要望を受け、ダイネーゼは柔らかなラバーフォームを重ね、それに連動するように複数のハードプレートを組み合わせた、ロブスターの殻のようなバックプロテクターを誕生させたのです。しかし、当時はバックプロテクターをつけると重装備になることに加え、その必要性が疑問視されなかなか普及するまでには至りませんでした。
しかし、1984年に行われた世界選手権で、フリープラクティス中にフレディ・スペンサーが引き起こした大クラッシュにより、その必要性が証明されました。コンクリートに背中を強く叩きつけられたにもかかわらず、フレディ・スペンサーは、ダイネーゼのバックプロテクターを装着していたことにより立ち上がることができたのです。ダイネーゼの創始者に強く進められ、この日に初めて装着したのだといいます。このことによりバックプロテクターの効果が実証され、多くのライダーが装着するようになったのでした。これが、バイクレースのために特別にデザインされた、最初のプロテクターとなったのです。
WGP500ccにホンダ・NS500で参戦したフレディ・スペンサー選手(1983)
1978年にケニー・ロバーツが世界GPに登場すると、彼によるこれまでにない深いバンク角のライディングスタイルが注目され、新しいライディングスタイルが主流になりました。いわゆる膝を擦るほどバイクを固めた「膝擦り」ライディングです。このことにより、2つの前後タイヤの他に、路面に設置する第3のポイントが必要となりました。レザースーツの革では路面の摩擦に耐えうるものではなく、スライドさせることもできなかったため、使い古しのバイザーをガムテープなどで膝にくくりつけるなどをしてしのいでいましたが、これによりメーカーが開発に乗り出し、ニースライダーが誕生しました。ダイネーゼでは1981年に最初のニースライダーが登場しています。1982年にはラウンド型に変化し、その後、さまざまな改良が進められ、今の形となったのです。
そして1981年にダイネーゼは、それまで普段の姿勢をベースに制作していたパターンを、バイクのライディングポジションにあわせたパターンに変更することにより、バイクに乗るときの運動性能やプロテクション効果、快適性を向上させ、1982年には、ソフトタイプのベースとハードタイプのシェルで構成することにより、衝撃を吸収し消滅させるタイプの複合プロテクションというコンセプトを誕生させ、よりプロテクション効果を高めることに成功したのです。
ダイネーゼ製レーシングスーツでMotoGPに参戦中のMonster Energy YAMAHA MotoGPバレンティーノ・ロッシ選手(2019)
背中のコブが登場したのは1988年のこと。ダイネーゼのスーツに初めてのハンプ(コブ)が装着されました。当時このハンプは、脊髄を守るためのバックプロテクターの延長線上の存在として開発されたもので、ヘルメットと背中の段差をなくすことで衝撃を緩和させ、バックプロテクターが届かない首を安定し保護する目的により用いられたものでした。しかし、数年後にこのバンプをつけていることにより、高速での走行が安定することが解ったのです。これにより保護性能に加え、空力性能についても研究されるようになり、風洞実験などを経て1990年代半ばに形状が新しくなり、ヘルメットから流れる空気を整流することにより、空気抵抗を少なくするエアロダイナミックハンプとしての役割も果たすようになったのでした。
そして最新の技術がエアバッグシステムです。バイク用のエアバックシステムを世界で最初に手掛けたのがダイネーゼであり、その開発は20年前の2000年より行われ、2007年のバレンシアGPにて「D-air Racing」を初めて実戦投入することとなったのです。2018年からは、MotoGP全クラスのライダーにエアバッグの装着が義務付けられるほど、実用的かつ重要なギアとしての存在が確率されたのです。ライダー用のエアバッグシステムは、ダイネーゼのD-airの他に、アルパインスターズのTECH-airが有名ですが、各メーカーがしのぎを削り、開発を進めたおかげで、現在の安全性が確保されることとなったのです。
レザースーツはバイク乗りの正装と例えられることがありますが、安全性を確保しながらも最速で走るために作られた、ライダーの最強のウエアと考えたら、そう例えられるのにも納得できできちゃいますよね。ダイネーゼのWEBサイトには、開発秘話や、バレンティーノ・ロッシ、ジャック・ミラーといったダイネーゼを愛用しているライダーたちのコメントなどが寄せられる「ダイネーゼジャーナル」(https://www.dainesejapan.com/demonerosso)という新しいコンテンツが登場しました。レザースーツのことをもっと詳しく、ダイネーゼやAGVのことをいろいろ知りたいという方は、是非覗いてみはいかがでしょう。
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