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スチールボディの国産スクーター 三菱最後の2輪モデル「三菱シルバーピジョンC140」は渾身の意欲作だった

バイクのニュース / 2020年9月29日 11時0分

ベスパやランブレッタ、ラビットやシルバーピジョンなど、近年旧車ファンの間で人気が高まっているのが、スチールボディを持つスクーター「鉄スクーター」です。今回は国内唯一の鉄スクーター専門誌「WELLERマガジン」に掲載された珍しい国産スクーターの姿をお届けします。

■1963 三菱シルバーピジョンC140

 ベスパやランブレッタ、ラビットやシルバーピジョンなど、近年旧車ファンの間で人気が高まっているのが、スチールボディを持つスクーター「鉄スクーター」です。ここではかつて三菱ブランドで販売されていた、現存する希少な1台をご紹介します。

 戦後の高度経済成長期に華々しく幕を開けた日本のモータリゼーション。1940年代後半から60年代にかけて四輪車がまだまだ高嶺の花だった時代に、庶民の足として普及したのがモーターサイクルでした。最盛期には国内で200社以上メーカーが乱立するほど勢いのあった小型モーターサイクル市場でしたが、1960年代に入ると時代の流れとともに多くのブランドが淘汰され、そして姿を消していきました。

「三菱シルバーピジョン(Mitsubishi Silver Pigeon)」もそんな時代の波に揉まれて消えていったモデルです。この車名を見て、その姿が思い浮かべられるのは、それなりの旧車マニアでしょう。シルバーピジョンとは、かつて三菱ブランドで販売されていたスクーターシリーズの総称です。

 戦後ほどなくして、スクーターの試作モデルを完成させた三菱重工業は、1950年に分社化した中日本重工からシルバーピジョンの生産をスタートさせました。

 戦後の復興期を経て豊かな国へと変貌していく当時の時代背景もあって、三菱シルバーピジョンは国産スクーターの中では比較的高額なモデルでありながら、50年代には富士重工のラビットシリーズと人気を二分するほど国内のスクーターシーンではメジャーな車両だったといいます。

 しかし、1960年代に入ると徐々にその人気にも陰りが見え始めていました。そんな折、1963年に発売された125ccスクーターが、この「三菱シルバーピジョンC140(Mitsubishi Silver Pigeon C140)」なのです。

フェンダーとレッグシールドが一体となったフロント周りと、リア周りのプレスラインが印象的なサイドビュー。ロー&ロングな車体は全長1,980mm。現行125ccスクーターのベストセラー、ホンダ「PCX」の全長1,925mmと比べれば、この車両がいかに大柄な車体かが分かる(写真/Kentaro Yamada)

 何よりもまず目を引くのは流麗かつ個性的なボディワークです。まるでレトロSFに登場する宇宙船のようなデザインを手がけたのは、当時の三菱で四輪デザインを手がけていたアメリカ人デザイナー、Hans Bletzner(ハンス・ブレッツナー)という人物でした。

 アメリカのGM(ゼネラル・モータース)でも腕を奮っていたというHans氏は、当時三菱の四輪モデルも手がけており、じつは初代デボネアやコルト1000のデザインも彼の手によるものでした。

Hans Bletznerがデザインした初代「デボネア」。1964年に初代モデルが登場し、その後は細かなマイナーチェンジを加えながらも、Hansの手によるデザインを大きく変えることなく、なんと1986年まで生産。「走るシーラカンス」との異名でも有名な車両(写真提供/三菱自動車工業)

「シルバーピジョンC140」は2ストローク空冷並列2気筒の排気量124ccエンジンを搭載する原付2種モデルですが、併売されていた143ccのC240と共通の車体ということもあり、ボディは非常に大柄で、ピンク色のナンバーを見ない限りは軽二輪車と勘違いしてしまうほどです。

 現在の125ccスクーターと比較しても全長がはるかに長い、ゆとりのボディサイズを誇ります。ともすると、デザインばかりに目がいってしまうシルバーピジョンですが、この車両最大のハイライトはその豪華すぎる装備にある、と言っても過言ではありません。

 エンジンにはセルスターターとキックペダルを併用し、フロントフォークには油圧ダンパーをセット。さらにメーターにはギアポジションインジケーターを装備するほか、鍵穴を照らすためだけに設けられた小さなランプ、テールランプ&ウインカー一体型のテールユニット、エンジン回転数に応じてポジションライトとヘッドライトを切り替えるギミックなど、当時としては他に類をみない先進的な装備を採用していたのです。

キーシリンダーの脇には小さなランプを装備。暗い場所で鍵穴を照らすためだけの装備で、レッグシールド左側のスイッチを操作して点灯(写真/Kentaro Yamada)

 一度見たら忘れられないスタイリングと豪華な装備を引っさげて登場したものの、残念ながらセールスは芳しくなく、三菱もこのC140とC240を最後に国産スクーターの製造から手を引くこととなったのでした。

 シルバーピジョンC140はその生い立ちを知れば、たしかに不人気車だったかもしれません。ただ、当時の三菱の意気込みを随所に感じられる作りを見ていると、現代のモーターサイクルにはない不思議な魅力の虜になってしまうのも、自然なことなのかもしれません。

撮影協力/Tokusuke Tsujimoto(車輌オーナー)

■【画像】ROLLER MAGAZINEのInstagram

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