熟成のV型4気筒エンジン搭載 ホンダ「VFR800X」とのツーリングで確認できた要注目モデルの魅力
バイクのニュース / 2020年10月31日 11時0分
ホンダ「VFR800X」は、スポーツモデル由来のV型4気筒エンジンを搭載し、アップライトなライディングポジションと豊富なサスペンションストロークを持つクロスオーバーモデルです。
■ホンダが導き出した答えのひとつ、スポーツとツーリングのクロスオーバー
“バイクの基本はツーリングだ”とは先輩の言葉です。なるほど走ってこそ見える気持ち良さと、その奥にある作り手の情熱。長い時間を走ることでバイクに込められた思いが解ったり、気持ちの変化を時間や季節、走る場所それぞれで味わう。同じ瞬間は二度とない、と。
ここに紹介するホンダ「VFR800X」は、そんな時間を楽しむための、いわばパートナーです。かつて「VFR」はレースの世界に挑みながら成長したDNAが封入されています。VFR800Xにはいったいどんなスパイスが効いているのでしょうか。
このバイクはエンジン、フレームなどをスポーツモデルの「VFR800F」と共用する兄弟車です。もちろん、車体のチューニングなどは異なり、サスペンションストロークは前後とも「F」より25mm長く、最低地上高を165mm確保することでダートや荒れた舗装も恐れるに足りません。
またアップライトなライディングポジションの採用や、可動式のウインドシールドを備えるほか、12Vの電源ソケット、グリップヒーター、ETC2.0の標準装備化など、長時間、遠距離走行への備えをしっかり整えています。
VFR800Xが搭載するエンジンは、排気量781ccの水冷V型4気筒DOHC4バルブです。もともとレース参戦に向けた市販車をベースにしたエンジンだけに、高回転高出力はお手のもの。しかし、ツーリングに求められるのは最高出力発生時の半分程度の回転数まで。そこで、このエンジンにはそうした領域のエンジン特性を向上させるため「V4 VTEC」(HYPER VTEC)というバルブ制御機構が搭載されています。
1気筒あたり吸気側2本、排気側2本あるバルブのうち、吸排気それぞれ対角線上のバルブ1本だけを運用をする(吸排気バルブの各1本を休止させる)ことでシリンダー内に混合気を吸入する時に発生する渦で充填効率を向上させる、低回転でのトルクアップや低燃費化を狙うというもの。
排気量781ccの水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブエンジン搭載
ちなみに、2バルブから4バルブへの変換点は6400rpmを基本として、運転状況により多少回転数を上下させる制御で、4バルブから2バルブへと切り替わる回転数は6100rpmです。
直列4気筒エンジンの「CB400SF」に搭載される「HYPER VTEC」と基本的に同様のメカニズムですが、V4エンジンのコンパクトな中にそれを搭載することは設計者にとって大きな挑戦だったといいます。
跨がると、いわゆるアドベンチャーバイクに近いポジションながら、ハンドル幅はさほど意識させません。ステップの位置も適度、スクリーンの高さも前方視界を妨げることがありません。
走り出す瞬間、クラッチミートの時だけはトルクの細さを感じます。それもそのはず、このV4エンジンは、MotoGPマシン「RC213V」よりもショートストロークの48mmです。しかし、動き出だせば1000ccクラス同等以上のトルク感です。バルブ制御機構が生むトルクの厚みがしっかりサポートしている印象です。
さらに2000rpm付近からモリモリとしたトルクがあり、高めのギアでもしっかり走れます。246kgある車重ながら走行中は左右への寝かし込み、停止直前のフラフラ感も無く、バランス良く乗れる印象です。市街地でもその点では乗りやすく感じます。
ホンダ「VFR800X」カラー:キャンディープロミネンスレッド
メーターパネルはスクリーンが凹面になっており、外光の影響か少々映り込みがあり、クリアに見えないのが少し残念。ライダーの座高などによって見え方が異なるので個人的なものかもしれません。また、標準装備されるホンダのグリップヒーターの握り幅がもう少し広いといいな、とも感じます。
高速道路のクルージングは快適そのもの。6000rpmを越えてアクセルを大きく開けると、スイッチが入ったように加速が強まる印象です。これも「V4 VTEC」の特徴です。あくまでスムーズに、シームレスに加速が強まるものの、ショートストロークエンジンに勢いが付いたときのワープ感は、このエンジン、ホントに107馬力だけですか? と頬が緩みます。
ワインディングでも同様で、トルクフルな6400rpm以下、パワフルなそれ以上をたくみに使いながら走ると、スポーツバイクとして楽しめます。ブレーキ、サスペンションのバランスもこうした場面でも物足りなさがありません。容量20リットルの燃料タンクと足のフィット感もよく、ライディングに集中できます。左右の切り返し、そこからアクセルを開けて旋回……こんな場面でV4エンジン持ち前のコンパクトさが活きてきます。
ツーリングバイクとスポーツバイクのクロスオーバー、走るほどそんなキーワードが浮かびます。
バルブ制御機構の恩恵で高速道路の移動でも力強く快適にクルージングできる
いまや熟成されたV4エンジンとすべての答えを走りの中で見せてくれたパッケージ、ライダーの好みでサスペンションをいじれば、その変化を解りやすく走りで応えてくれる応答性の良さなど、ツーリング仕様になっても「VFRはVFRだ!」と隠れた名車として要注目な1台です。「VFR800X」で長い距離を走り、それを再確認出来たテストでした。
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