スペックの定説を乗って確認 エンジンの「ボア×ストローク」による特性の違い、実際どうなのか?
バイクのニュース / 2020年10月29日 11時0分
バイクのスペック(仕様)には様々な定説があります。その定説(固定観念?)に注目し、スーパースポーツモデルを題材に「実際のところ、どうなの?」を体感してみることにしました。
■スペックの定説を乗って確認、シリンダーの「ボア×ストローク」に注目!
バイクのスペック(仕様)には様々な定説があります。その定説(固定観念?)に注目し、スーパースポーツモデルを題材に「実際のところ、どうなの?」を体感してみることにしました。
今回のテーマはエンジンにまつわる定説「ショートストローク」や「ロングストローク」についてです。実際のところを体感してみるため、クローズドコースに5台のスーパースポーツモデルが集結しました。
■ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」(以下、RR-R SP)
■ヤマハ「YZF-R1M」(以下、R1M)
■スズキ「GSX-R1000R」(以下、GSX-R)
■カワサキ「Ninja ZX-10R KRT EDITION」(以下、ZX-10R)
■BMW Motorrad「S1000RR Mパッケージ」(以下、S1000RR)です。
エンジン特性の定説として、ショートストロークは低回転でトルクが弱く、高回転でパワーが盛り上がる。ロングストロークは低回転からトルクを生み出す、というものです。
そもそもエンジンにおけるストロークとは、エンジン内部にあるシリンダー内をピストンが上下に移動する片道の距離のこと。テスト車両は全て直列4気筒エンジンで、シリンダーが4本並びます。
バイクのスペック表にある「ボア×ストローク」は「内径×行程」とも言われ、行程がストロークにあたります。つまり、算数的に言うと直系×高さでもあり、このふたつからシリンダー容積を計算し、気筒数を合算したものがそのエンジンの排気量となります。
5台の排気量は997ccから999ccとほぼ同等。しかし、シリンダーの「ボア×ストローク」を見ると、次の通り様々です(ストロークが短い順)。
■ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」81mm×48.5mm
■BMW Motorrad「S1000RR Mパッケージ」80.6mm×49.7mm
■ヤマハ「YZF-R1M」79mm×50.9mm
■カワサキ「Ninja ZX-10R KRT EDITION」76mm×55mm
■スズキ「GSX-R1000R」76.0mm×55.1mm
全車異なります。最もショートストロークなRR-R SP、ロングストロークなGSX-Rでは6.6mmの差があります。
テスト車両はすべて排気量1000ccクラスの水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブエンジン搭載(写真はホンダ「CBR1000RR FIREBLADE」のエンジンカットモデル)
ピストンはシリンダー内で上下運動を繰り返します。ストローク量の一番上、一番下をエンジン用語で「上死点」、「下死点」と呼びます。ピストンは上昇から下降へ、下降から上昇へと動きを変えるため上死点と下死点で“一旦停止”します。この往復運動をコンロッドで結ばれたクランクシャフトに伝え、回転運動に変換し、その力がエンジンの動力となるわけです。
ちなみにRR-R SPは最高出力を14500rpm時に、GSX-Rが13200rpm時に発生します。「rpm(rotations per minute)」とは1分間あたりのクランクシャフトの回転数なので、1秒間で計算するとRR-R SPは241.7回転ほど。GSX-Rで220回転しています。
クランクシャフト1回転でピストンは上死点と下死点を1往復するので、RR-R SPのピストンはその時、1秒間に合計で23.44m、GSX-Rは24.24mの距離を移動する計算です。RR-R SPのほうがより回転数が高いのにピストンの移動距離は少ない、これはショートストロークのメリットのひとつです。
ではストロークが短いと低回転でのトルクが稼ぎにくいのか、という定説ですが、ピストンの移動量が少ない、ということはクランクを回すコンロッドの距離も短くなり、回す力(つまりトルク)が低い回転数だとロングストロークに比べ弱いから、と考えられるからです。もちろん、吸排気系の諸元やECUの設定、車重などもあるので、じつは簡単には言えないのですが、今回はその点は置いておきます。
コーナー立ち上がりからの加速で「ボア×ストローク」の定説を体感。ホンダ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」はテスト車両の中でもっとも「ストローク」が短い
前置きはこの辺にして、早速実験です。まず5台の中で最もストロークが短いRR-R SPでコースに出ます。ギアは2速、タイトターンからの立ち上がりでアクセルに対する反応を見ます。
現在のスーパーバイク達は、1速でレッドゾーンまで回すと150km/h以上、2速で200km/hを超すモノも珍しくありません。タイトターンを30から40km/hで立ち上がるのは、エンジンに対する低回転から負荷であることは間違いありません。
クローズドコースなので、ためらわずフルバンクからアクセルを開けていきます。確かにアクセルを開けた瞬間、ゴリゴリとした低回転トルクは感じません。しかし、フルバンクからアクセルを開けても車体の挙動に影響を出すことなくスルスルと速度をのせてゆき、ある程度回転が上がれば、迫力のある加速に変化します。
GSX-Rで同じコーナーを走ります。旋回性はRR-R SPよりも手応えがありますが、トルクが盛り上がる感覚はRR-R SPよりも早く立ち上がるような気もします。扱いやすい。しかしこれは、クリッピングまでアクセルオフ、立ち上がりでアクセルを開けた瞬間の違いの印象で、その先、エンジンの回転数が上がるにつれて、回転上昇のフィーリングやマフラーから発せられる音などで、それぞれにバイクのキャラクターの違いがあり、どちらも甲乙付けがたい。そんな印象でした。
ちなみに、GSX-Rとストローク量がわずか0.1mm違いの55mm(つまりほぼ同じ)のZX-10Rでも、GSX-Rとはまた異なる印象です。トルクの出方が滑らかかつ充分なので、ライダーとしては満足感のある立ち上がりを楽しめます。
そして今回の5台の中では中間的なR1M(50.9mm)では、クロスプレーンという異なる爆発間隔が生むエンジンのパルス感も手伝って、充分な加速感に満たされます。実際もたつく印象は全くなく、MotoGPマシン「YZR-M1」と同じ系統のサウンドにうっとりしつつ走りに没頭できます。また、RR-R SPに一番近い80.6mmのストロークであるS1000RRも、加速に不足はなく、トルクが足りないという印象はありません。
BMW Motorrad「S1000RR Mパッケージ」に試乗する筆者(松井勉)。コーナー立ち上がりからの加速で「ボア×ストローク」の定説を体感
アクセルを開けた時の印象や、その瞬間に扱いやすいトルクであればライダーは不足を感じないし、音や車体のパッケージが醸し出す走りの個性により、エンジンのストロークにまつわる定説だけで5台を計ることはできませんでした。
カタログスペックにこだわらず、走りを楽しむ。また進化した電子制御活かし、バイクを自分の好みに近づける、と言うほうが楽しさへの近道、それが今回の結論です。
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