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「小さなことからコツコツと」J・ミルとスズキをタイトルへと導いた“一貫性”

バイクのニュース / 2020年11月21日 13時0分

2020年MotoGPクラス参戦2年目のジョアン・ミルが、第14戦バレンシアGPで王者に輝き、所属するチーム・スズキ・エクスターも初のチームタイトルを獲得した。

■マルケスに主導権を握らせない、わずかなライダーのひとり

 最高峰クラス2年目のジョアン・ミルが、MotoGP・第14戦バレンシアGPで2020年のMotoGPクラス王者に輝き、所属するチーム・スズキ・エクスターも初のチームタイトルを獲得。2冠を達成した。

 4年連続チャンピオンのマルク・マルケス(Repsol Honda Team)が怪我のためシーズンを通して不在だったものの、第13戦ヨーロッパGPで優勝、バレンシアGPが終わった時点で7回表彰台(優勝×1、2位×3、3位×3)に立っての戴冠は、十分な価値を持つものだ。また、4位に終わった第6戦スティリアGPでもトップを快走し、他のライダーが起こしたクラッシュによる赤旗中断がなければ初優勝間違いなしと思わせる走りを見せた。

 表彰台登壇回数が示す通り、“一貫性”がミルの強みだが、それは23歳とまだ若いにも関わらず、精神的に成熟していることによるものだろう。

 以前に会見でプレッシャーについて聞かれた際には「新型コロナウイルスによる経済悪化で家賃を払えなかったり、仕事を失って苦しんでいる人たちが感じるのが最悪のプレッシャー。それに比べれば自分のプレッシャーは良いもので、大きな問題じゃない」と冷静に答えており、この回答からも成熟ぶりがうかがえる。

参戦2年目の2017年全18戦中10勝し、Moto3の世界チャンピオンを獲得

 ミルは2016年からの2年間、Moto3クラスにレオパード・レーシングからフル参戦。2017年には全18戦中10勝、17戦でポイントを獲得し、ランキング2位のロマーノ・フェナティに93ポイント差を付ける圧倒的な走りで世界チャンピオンになっているが、最小排気量クラスでその前に2桁勝利を挙げたのは、125ccのマルク・マルケス(2010年・全17戦中10勝)、さらにさかのぼると同じく125ccのバレンティーノ・ロッシ(1997年・全15戦中11勝)とビッグネームが並ぶ。

 レオパード・レーシングのテクニカルディレクター、クリスチャン・ランドバーグは当時を振り返り、「ジョアンは非常に速く、最初のテストで恋に落ちてしまったよ(笑)。おしゃべりに興じることもなく、常に頭を抱えて何かを考えていた」と話すが、特にタイトルを獲った2017年のことが印象に残っているという。

「私たちを落ち着かせたのは彼でした。いつもマシンを表彰台に導き、勝つことがわかっていた。チームに自信を与えました」

 2018年にエストレージャ・ガリシア・0,0・マーク・VDSから1年だけ参戦したMoto2時代を除いて、いずれもフル参戦2年目でチャンピオンに輝いており、このようなキャリアは冷静なレース運びとあわせ、同様に参戦2年目で125cc、250cc、500ccの王座に就いたロッシを思わせる。ブレーキングがうまいことも両者の共通点だ。

生きる伝説バレンティーノ・ロッシと同じレース装備で戦うジョアン・ミル

 ロッシと同じAGVのヘルメットとダイネーゼのレーシングスーツで戦うマヨルカ島出身の若者が、どこまで“THE DOCTOR”を意識しているか定かではないが、「通常、すべてのカテゴリーで最初の年、経験がないためにスピードを発揮できない時は、非常にアグレッシブに走る」と語るようにルーキー・イヤーを勉強に当て、2年目に結果を出しているのは確かだ。

「去年は多くの間違いを犯したけど、今年は労力を減らし、すべてをより管理できるようになった。Moto3でも最初の年は一緒だったけど、2年目はずっとスムーズに落ち着いてできた。今はMotoGPバイクがどのように機能するかを理解し、良い場所にいることができている」という言葉が、その姿勢を裏付ける。

 また、ランドバーグはこうも話している。
「ジョアンは(マルク)マルケスに心理的な主導権を握らせない、わずかなライダーのひとりだ。ライダーの90%は走る前からマルクに精神面で敗北しているが、ミルはいずれマルケスと対等に走り、打ち負かせると考えていた。その強い気持ちが、今年はライバルたちに対するアドバンテージとなった」

■ひとつずつ問題を解決していくのがスズキのやり方

 ライバルがレースごとにリザルトを乱高下させる中、最も“一貫性”のある成績を残し続けたのが、今シーズンのミルだ。これはライダーとしてのスキル、メンタルに加え、熟成が深まったGSX-RRの性能がもたらしたものだろう。

 以前からコーナリング性能に定評があったが、今年はミシュラン・タイヤとの相性も良く、さらに競争力を向上させた。

熟成が深まったGSX-RRの性能とライダーのマッチングは、他メーカーの追従を振り切ることに成功した

 前後重量バランスによるものなのか、はたまたエンジンの出力特性によるものなのか、スズキのマシンはタイヤの耐久性に優れ、大パワーゆえにタイヤマネジメントが勝負の鍵を握るMotoGPクラスでは、それが大きな武器となっている。シーズン後半、リアタイヤのスピニングやオーバーヒートによる内圧の変化でグリップ不足に苦しめられた、ファビオ・クアルタラロ(PETRONAS Yamaha Sepang Racing Team)、マーベリック・ビニャーレス(Monster Energy Yamaha MotoGP)らヤマハ勢とは対象的だ。

 その一方で前輪への荷重分布が相対的に少ないため、限られた周回数の中で最速タイムを競う予選ではフロントタイヤが十分に温まらず、スズキ勢の課題となっているが、ルーキー・イヤーからミルを担当するベテランのクルーチーフ、フランチェスコ・カルチェディは、楽観的に捉えているようだ。

「ジョアンの予選順位が低いのは、決勝レースを重視するスタイルによるもの。実際、全ての面でバイクは目に見えない進化を果たしているし、当面のターゲットは常時2列目に並ぶこと。そして予選順位に“一貫性”が見られてきたら次の問題に取り組む。それがスズキのやり方なんだ」と話す。

テストライダーを務めるシルバン・ギュントーリは、チーム・スズキ・エクスターには欠かすことのできない存在だ(左からジョアン・ミル/アレックス・リンス/シルバン・ギュントーリ)

 開発の“一貫性”も功を奏した。テストライダーを務めるフランス人、シルバン・ギュントーリの存在も大きいようだ。ギュントーリは2シーズンにわたってMotoGPクラスにフル参戦した経験を持ち、2014年にはWSBK(スーパーバイク世界選手権)を制している。

 カルチェディによると「ジョアンとシルバンのフィードバックが似ているんだ。昨年の12月にテストしたGSX-RRと現在のバイクでは、おそらく約80%が違っているが、ふたりのコメントが似ていることで開発がスムーズに進んだ」ということだ。

 2輪モータースポーツを専門に統括する『スズキ・レーシング・カンパニー(SRC)』を2019年に設立したことの効果も表れてきた。意思決定がよりスピーディーになり、参戦するカテゴリーの選択と集中を図ったことで、MotoGPだけでなく、EWC(世界耐久選手権)でもSERT(Suzuki Endurance Racing Team)が、4年振り16回目となるタイトルを獲得した。

スズキ創業100周年、世界GP参戦60周年にチャンピオンを獲得したチーム力は見事

 2020年、スズキ陣営は大きな果実を手にした訳だが、1960年のマン島TT初挑戦から始まった世界GP参戦60周年、そして創業100周年のアニバーサリー・イヤーに向け、一歩ずつ階段を上ってきたライダー、マシン、チームの“一貫性”を持った姿勢が、タイトルへと導いたといえるだろう。

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