スポーツアドベンチャーバイク!? ヤマハ「テネレ700」開発陣の思いが細部に宿る納得の走り
バイクのニュース / 2020年12月19日 11時0分
2020年6月に国内販売開始されたヤマハの新型アドベンチャーモデル「Tenere 700」は、オフロードでの走破性とツーリングでのユーティリティ性を高次元でバランスさせた大型バイクです。海外のメディア向け試乗会にも参加した松井勉さんがあらためて試乗します。
■ヤマハ「Tenere 700」が目指す、冒険ってナンだ!?
2020年の夏、国内に投入された「Tenere 700(テネレ700)」の開発者達は「Tenere 700はアドベンチャーバイクカテゴリーではありますが、オフロードモデルを造る気持ちで開発したバイクです」と機種の方向性を語っています。
「ナ、ナナヒャクでオフ車ですか!?」
「まあ、聞いて下さい。長距離を走り、国境を跨ぐようなスケールの冒険ツーリングに出たとします。家を出てそこに至るには、市街地、高速道路、ワインディングはもちろん、未舗装路もあるでしょう。目指す冒険フィールドまでのあらゆる道を楽しみ、目的地で最高のライディングを味わう。多用途に強い仕立ての軽量スポーツアドベンチャーバイク、それがテネレ700です」
搭載するエンジンは「MT-07」、「XSR700」と同型の直列2気筒。不等間隔爆発によるトラクション特性の良さ、低い回転から感じる味わいの深さが特徴です。ダブルクレードルフレームや快適さをもたらすフェアリングパネルもライダーの視界を妨げないようスクリーン部分以外もクリアパネルとしています。フェアリングまわりのステー類もファイバーコンポジットプラスチックを採用することで軽量化にもこだわっています。
サスペンションストロークはフロントが210mm、リアが200mmとタップリ。エンジン下部と地面とのクリアランス(最低地上高)も240mmを確保しています。その分、シート高は875mmと高め。足つき性は褒められませんが、これはお買い物用自転車とロードバイクの違い同様、目的をしっかり見据えた結果であり機能美のひとつだと言えます。
205kgという車重も、排気量1000cc以上のアドベンチャーバイクと比較したら50kg前後軽量ですし、250ccクラスのアドベンチャーモデルが、単気筒エンジン搭載モデルで150kg台、2気筒エンジン搭載車では180kg台前半から後半となることを考えたらテネレ700が軽量志向で造られたのかが解ります。とにかく、バイクの場合は目方より乗った時に感じる重さがないか、が大切なのです。早速跨がってみます。
高速道路の移動でも余裕の排気量と優れたウインドプロテクション効果によりラクラク
着座位置は確かに高いですが、足つきエリアの車体とシートが細く不安は感じません。真下に足が届く感じです。そしてハンドルバーを高めの位置にレイアウトし、オフロードで使うスタンディングポジションが取りやすい。
サイドスタンドセンサー(サイドスタンドを出したままギアを入れるとエンジンが停止する機能)をオフロードで走行時にブッシュや深い轍などで干渉しない位置に配置してトラブルの芽を摘み取っていたり、リアフェンダーの裏側にグリップハンドル代わりになる掴み所を設けたり、外観をスッキリかつ重量物を増やさず機能を持たせているディテールが隠されているのもファン心理をくすぐる部分です。
ほかにも、ブロック高のあるオフロードタイヤに履き替えた際に、フロントフェンダーに泥がつまらないようフェンダーの高さを微調整できる機能を持たせているのもこだわりのひとつ。ステップが装着されるプレートをアルミ鋳造ではなく鍛造とすることで転倒時のタフネスさをしっかり持たせつつ、外観にもキラリ感を足しているのはさすが。
クラッチをつないでスタートさせると動き出しもじつにパワフル。オフ車的に比較的ローギアードとしたファイナルレシオが効いていて、蹴り出し感が軽いのです。市街地走行でも4、5、6速まで守備範囲に入ります。これだけで「Tenere 700」を操る充実感が増し、まるで大きな「セロー」のような一体感を味わうのです。
勿論、高速道路では排気量なりのパワフルさで100km/h巡航もラクラク。安定感に頼もしさがあります。ウインドプロテクション性能も高く、長時間のライディングが苦になりません。ローギアードなため速度をさらに上げるとエンジン振動が気になってきますが、120km/h制限の道でも快適性は確保しています。
大型アドベンチャーモデルの中では、じつは軽量クラスのヤマハ「Tenere 700」
「エンジン特性で勝負して、トラクションコントロールは着けませんでした! 軽量化のためその他電子制御も載せませんでした!」という開発陣には申し訳ありませんが、ここまで快適だとクルーズコントロールは欲しいところ。
ワインディングでもストロークの長いサスペンションながら、ブレーキング時のピッチングも適度で扱いやすく、コーナーを切り取って行きます。じつはブレーキまわりに軽量なブレンボキャリパーを使い、タッチや特性作りにもこだわりがあります。オフロードでの扱いやすさと舗装路では握り込みやすいという良きバランス点にあるのが解ります。
タイヤのグリップやハンドリングの粘りなど、ブロックタイヤから想起される不満もありません。サスペンション設定も納得のもの。ストロークが長い分、しっとり動かす特性でグリップ感が常に保たれている印象です。
さて、肝心のオフロードです。ダートではエンジンのトルクを回転上昇とともに引き出しやすい特性と、低めのギアリングのコンビネーションがとても良く、不安無くアクセルを開けていけます。
試乗当日、滑りやすい土の上も走りましたが、回転をあげるほどトルクもパワーも出てくるタイプのエンジンながら、3000回転付近の滑らかなトルク特性もあって、そろりそろりと坂でも登ってくれました。無駄に後輪を空転させるこがありません。リアをスライドさせて回り込もうとするならしっかりアクセルを開けてゆくスキルは必要ですが。
ヤマハ「Tenere 700」は、オフロード走行を堪能できるよう開発されたスポーツアドベンチャーバイク
そんな性格なので、林間のタイトなトレイルやジャンプでも「なるほど! Tenere 700はいいね!」と太鼓判を捺せる身のこなし。パッケージとして心からオフロードを堪能することができたテストとなりました。
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