1/4マイルで世界最速の記録を持つ日本人 トップ・ドラッグレーサー「重松 健」選手の活躍を振り返る
バイクのニュース / 2021年1月9日 13時0分
日本において、モータースポーツの社会的地位は未だ高いとは言いづらい状況にありますが、1/4マイルの直線で競い合うドラッグレースの世界では、世界記録を持つ日本人ライダーがいます。どのような記録を残してきたのでしょうか。
■ドラッグレースの本場で活躍する日本人ライダー
新型コロナウイルスの感染拡大防止を受け、2020年は開幕が6月にズレ込み、例年の143試合から120試合に縮小され、開催されたプロ野球ですが、シーズンが終わり、オフに入ると「フリーエージェントの権利を獲得した選手の誰がアメリカのメジャーリーグに挑戦するのか?」というニュースが毎年のように話題となります。
1964年、当時の『南海ホークス』から野球留学で米国のマイナーリーグに派遣された村上雅則投手が同年にサンフランシスコ・ジャイアンツへ昇格を果たし、2シーズン活躍した後に日本球界に復帰したことで開かれた『米国メジャーリーグへの扉』ですが、1971年のプロ野球オールスター戦で今もなお破られていない「9者連続三振」の伝説を達成した江夏豊投手が『アメリカのメジャーリーグ』に初挑戦したのも1985年。しかもこの時は入団合意とならず、1995年から2008年まで米国で活躍した野茂英雄投手が活躍するまで10年以上の月日が流れています。
その後、2000年にシアトル・マリナーズに入団した『日本人野手初のメジャーリーガー』であるイチロー選手や2002年にニューヨーク・ヤンキースに入団した松井秀喜選手、他ジャンルでもサッカーやバスケットボールなど今では多くの選手が『海外』で活躍していますが、『ハーレーダビッドソンのドラックレースの世界』、その頂点となる『トップフューエルクラス』の第一線で活躍する人物が『TPPトップフューエルハーレー』の重松 健(しげまつ たけし)選手です。
重松健(しげまつ たけし)1965年生まれ 愛媛県出身。アメリカ・アリゾナ州のメカニックスクールである“MMI”に在学中の1992年にドラッグレースに出会い、ストリートクラスに参戦した後、日本に帰国後、ガソリン仕様のプロストックレーサーを製作。日本でドラッグレースの普及につとめる。また1998年に再び渡米し、プロフューエルクラスのレーサーを入手。練習走行を経て最初に参戦したAHDRA(アメリカのハーレーのみで開催されるドラッグレース団体)で7.25秒のタイムを叩きだし、デビュー戦にして日本人初の優勝を果たす。2002年からは最高峰のクラスである“トップフューエル”にステップアップし、2007年にはAHDRAへフル参戦。バンス&ハインズレーシングのダグ・バンシルと年間チャンピオン争いを展開。その後2008年よりスポット参戦での“最速タイム”に目標を切り替え、2017年にジョージア州のバルドスタレースウェイで開催された“マンカップ”でハーレー史上最高となる6.021秒のタイムをマーク。2019年には全米最大のドラッグレース団体であるNHRAでも6.10秒のレコードを樹立する。名実ともに世界の舞台で活躍するトップドラッグレーサーです
ちなみにドラッグレースとは『1/4マイル(402.33m)の直線で2台のバイク(もしくはクルマ)がスタートからゴールまでのタイムを争う』という米国発祥のモータースポーツで、たとえるならサーキットでの耐久レースがマラソンだとしたらドラッグレースは陸上の短距離走のようなものです。日本では『ゼロヨン』といった方が分かりやすいかもしれません。
この競技のバイクで行う『プロクラス』はナイトロメタンという燃料を使った『トップフューエル』と『プロフューエル』、ガソリンエンジンのマシンを使った『プロストック』や『プロガス』などに分類されているのですが、その中で頂点といえるのが『トップフューエル』です。
そこに参戦するマシンのトップグループはゼロヨンで6秒台。ガソリンエンジンと比較して同排気量で2~3倍のパワーを得られる排気量3300ccのナイトロエンジンで、しかもそこにターボやスーパーチャージャーも装着可能なこのクラスのマシンは、おそらく「人間が扱えるモーターサイクルとして限界」であろう加速とパワーを誇るものとなっています。
■ドラッグレースの世界で初めて優勝した日本人
何やら本題に入る前にかなり長い前置きとなってしまいましたが、それも重松健選手という人物の『世界での位置』を分かりやすくお伝えしたいと思ったがゆえ。1992年、米国アリゾナ州にあるメカニックの養成学校“MMI”に留学中だった時代にドラッグレースに触れ、1998年に『プロフューエルクラス』にステップアップを果たすと、AHDRA(ハーレーのみで開催される米国のドラッグレースの団体)第2戦のアリゾナ・フェニックス戦でデビューウィン。米国のドラッグレースは「1/4マイルの距離での加速を2台のバイクで競うトーナメント方式」となっているのですが、この時の記録は7.25秒。いうまでもなく彼が米国のドラッグレースの世界で初めて優勝した日本人です。
ピットで自らのマシンを整備する重松選手。米国のドラッグレースの世界ではライダーが自らマシンを整備することがベーシックなスタイル。大げさ抜きに命をかけたレースゆえ、運命は自らの技術に委ねます(撮影 合屋重信)
またその偉業は2002年に最高峰の『トップフューエルクラス』にステップアップしてからも続き、2007年にはAHDRAのシリーズ戦にフル参戦し、『バンス&ハインズレーシング』のダグ・バンシル選手と年間チャンピオン争いを展開。この時は惜しくも年間2位となってしまったのですが、それ以降はスポット参戦に切り替え、『前人未踏の5秒台の壁』に挑む方向にシフトし、2017年には今もなお破られていない“6.021秒”というタイムをジョージア州のバルドスタレースウェイで開催された『マンカップ』で記録。
さらに2019年には米国最大のドラッグレース団体であるNHRAでも“6.10秒”というナショナルレコードを樹立します。この偉業をあえて分かりやすく説明すると『野球で日本人選手がメジャーリーグの本塁打王になる』ことと等しいかもしれません。
たとえば2020年、『モナコGP』や『ル・マン24時間耐久レース』と並び『世界3大レース』の『インディ500』でレーシングドライバーの佐藤琢磨選手が3年ぶりの優勝を果たしたにも関わらず、その報道の扱いの小ささに「日本におけるモータースポーツの社会的地位の低さ」を痛感することもしばしばありますが、ハーレーダビッドソンのドラッグレースの世界も然り。この記事をとおして「20年以上に渡り世界に挑み続け、その頂点に立つ人物」が存在することを少しでも多くの方にお伝えできれば、と願うばかりです。
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