バイクに3気筒エンジンが少ないのはナゼ? じつは魅力的なトリプルエンジンの個性と歴史
バイクのニュース / 2021年1月22日 11時0分
バイクに搭載されるエンジンは単気筒や2気筒、4気筒が主流ですが、3気筒や6気筒エンジンを搭載する現行の量産市販車も存在します。歴史も古い3気筒エンジンについてご紹介しましょう。
■現行モデルで3気筒エンジンを採用するメーカーは少ない?
現在、3気筒エンジンを採用しているメジャーなブランドは、MVアグスタ(イタリア)、トライアンフ(イギリス)、そしてヤマハの3つです。
どのメーカーの、どのモデルも独特のサウンドとバイブレーションを武器に多くのファンを獲得。とくにMVアグスタとトライアンフにとっては、ブランド面でもビジネス面でも欠かせない主力ユニットになっています。では3気筒はどんな歴史をたどってきたのか? ここからは過去を簡単に振り返っていきましょう。
■かつてはさまざまなメーカーが採用していたトリプルエンジン
現存する最古の3気筒は、1916年にロイヤルエンフィールド(当時イギリス)が試作した、その名も「ロイヤルエンフィールドIII」で、スチールパイプフレームにエンジンを縦置きで搭載。構造は2ストロークでした。
トライアンフ「TRIDENT(トライデント)」(1968-1975年)の並列3気筒エンジン(排気量750cc)を搭載したレースマシン“Slippery Sam”
時代は一気に飛び、レースの世界で目立ち始めたのが1950年代に入ってからのこと。DKW(ドイツ)が開発した350ccクラスのワークスマシンが先駆けとして知られています。そのエンジンは並列2気筒と単気筒を組み合わせたV型で、最高出力は45PS以上を公称。世界GPではランキング2位(1956年)へ上り詰めています。
それからしばらく経ち、圧巻の速さを誇ったのがMVアグスタです。中でも突出しているのが1968年から1972年のことで、この間、イタリアの英雄ジャコモ・アゴスティーニが500ccクラスと350ccクラスを5年連続で制覇。その両クラスのマシンに搭載されていたエンジンが、4ストロークの並列3気筒だったのです。
時代が進み、1980年代に入るとフレディ・スペンサーに託されたホンダ「NS500」(2ストロークV型)が500ccクラスのタイトルを奪取(1983年)。軽量コンパクトな3気筒がパワフルな4気筒を退け、その市販バージョンである「RS500」は多くのプライベーターを支えたのでした。
ホンダ「NS500」とフレディ・スペンサー(1983年)
ただし、これ以降はレース最高峰の舞台で3気筒が目立ったことはありません。モデナス「KR3」やアプリリア「RS3」といったマシンが送り込まれつつも、主役は4気筒でした。時折、2気筒(ホンダ「NSR500V」やアプリリア「RSV」)がツメ痕を残し、世界GPからMotoGPへ様変わりした当初は5気筒が活躍していますが(ホンダ「RC211V」)、現在はすべてのマシンが4気筒を採用しています。
このように、MVアグスタ黄金期を除いて、飛び道具的に登場しては消えていくのが3気筒でした。量産市販車の世界でも、モトグッツィ、ラベルダ、ベネリ、BMWといったヨーロピアンメーカーの他、国産4メーカーからも3気筒マシンが登場。とはいえ、ほとんどが短命に終わったのです。
あまりのじゃじゃ馬っぷりによって、都市伝説めいた逸話を数多く持つカワサキ「750SS」(1971年)、先進的な水冷エンジンを採用していたスズキ「GT750」(1971年)も例外ではありません。そのエンジンをベースに持つカワサキ「H2R」やスズキ「TR750」といったレーシングマシンは数々の優勝を記録しながらも、排ガス規制やオイルショックの影響もあって長続きしなかったのです。
カワサキ「750SS MACH IV」(1971年)
なにより、2気筒や4気筒には熱狂的なファンがいる一方(もちろん単気筒も)、なにがなんでも3気筒じゃなきゃ困る、というユーザーが多くなかったことも無関係ではないでしょう。
3気筒の立場に立つと「同じ排気量なら2気筒よりエンジンが回ってパワーを出しやすく、4気筒よりトルクがあって軽量コンパクト」という言い分が成り立つ一方、裏を返せば「2気筒よりも重くてトルクが薄く、4気筒ほど回らずパワーもない」……という見方もできるわけで、存在意義がいまひとつ弱い。言ってみれば、中途半端なエンジンというイメージが消えなかったのかもしれません。
そういう意味では、絶滅しても不思議ではなかったエンジンですが、信念を持っていたのがトライアンフです。1968年に初代「トライデント」(排気量750ccの並列3気筒エンジン)を発表すると、そのエンジンはデイトナ200マイルやマン島TTでも勝利を収めるなど大活躍。そのまま大排気量時代を牽引……すればよかったのですが、ホンダ「CB750フォア」やカワサキ「Z1」といった国産4気筒勢に駆逐されてシェア争いに敗北し、後に工場閉鎖を余儀なくされたのでした。
だからといって投げ出さないのがイギリス人で、1990年代に復活した時も3気筒を全面に押し出して、新生トライアンフのオリジナリティをアピール。その後も手を変え、品を変えながらトルクとパワーがバランスした優位性を主張し続けたのです。
それが功を奏し、今ではMoto2クラス(MotoGPに次ぐクラス)に、トライアンフがエンジンを独占供給するほどの信頼を獲得。排気量765ccの3気筒のサウンドが、世界中のサーキットに響いています。
2019年よりトライアンフの並列3気筒エンジン(排気量765cc)がMoto2クラスへ独占供給
このトライアンフの成功がなければ、MVアグスタもヤマハもわざわざ3気筒をゼロから開発していなかったかもしれません。結果的に、全域でバランスがいいトライアンフ、低回転で一気にトルクが出るヤマハ、高回転のパワーがエキサイティングなMVアグスタという棲み分けもなされ、3気筒といっても様々なキャラクターが手にできるようになりました。
単気筒、2気筒、4気筒にはそれぞれ異なる魅力があるものですが、未体験の人はぜひ3気筒もお試しを。今までにない刺激が得られるかもしれません。
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