BMW Motorrad「R 18」 メーカーの歴史を象徴する姿と現代の走りに悦びの連鎖が止まらない!?
バイクのニュース / 2021年1月30日 11時0分
BMW Motorrad「R 18」は、BMW Motorrad史上最大となる排気量1801ccの水平対向2気筒エンジンを搭載する大型クルーザーです。その作り込みと走りを確かめます。
■よくぞ造った……この大きな車体に凝縮された魅力がたまらない!?
BMWモトラッドの「R 18(アール・エイティーン)」は、驚くべきバイクでした。まずはこの存在感を見て下さい。BMWが1923年にはじめて売り出したモーターサイクル「R 32」が持つスタイルをモチーフとし、現代的解釈でいえばクルーザーのそれです。しかしBMWのデザイナーはクルーザーではなく“ヘリテイジ”モデルと定義しています。なるほど、その中には、往年のモデル達が持つ歴史的な意匠、カタチが点在しています。
エンジンから後輪へと駆動力を伝えるドライブシャフト(カルダンシャフトとも呼びます)が回転する様がそのまま見える伝達方式、そのシャフトが伝えた駆動力の方向を90度変えるファイナルドライブケースの鋳物の膚、スイングアームの締結方法、リジッドフレームを模したスイングアーム、ティアドロップ型の燃料タンク、新設計となった「R 18」用空冷水平対向2気筒エンジンの各部の造形はもちろん、レイアウトに至るまであちこちにです。
今回試乗した「R 18 First Edition」の燃料タンクをみても、側面を縁取る白いラインはBMWが一時代、盛んに取り入れてきたもの。職人がフリーハンドで描くピンストライプは、その筆圧の変化まで間近で見ると楽しめます。
エンジンも同様に、物語が詰まっています。現代のスタンダードにしてもっとも厳しい最新の環境規制、ユーロ5に適合した空油冷エンジンは、107.1mm×100mmとういボア×ストロークから1801ccを得ています。また、クランクシャフトの上にカムシャフトをレイアウトするのも、1960年代までの歴史の韻を踏んでいるのです。
吸気、排気それぞれバルブを駆動するためのプッシュロッドを納めた2本のケースがシリンダー上側で光り、ライダーの視野にも入るということです。
BMW Motorrad史上最大となる排気量1801ccの空油冷水平対向2気筒エンジンを搭載
エンジン、乾式単板クラッチ、ミッション、ドライブシャフトという駆動系レイアウトも、BMWがビンテージ世代から「R nineT(アール・ナインティ)」系モデルに搭載される水平対向エンジンへと受け継がれた伝統のレシピ。唯一違うのは、過去最大の排気量を持つ点や、ヘリテイジをセルフカバーしているはいえ、その目的にクルーザーマーケットへの参入とプレゼンスの発揮は隠しようがありません。
目の前にすると、2.5mに迫る全長や345kgの車重に畏怖の念を抱きます。じんわりとした緊張は690mmという気抜けするような低いシートに腰を下ろし、幅広いハンドルバーと両足を使って車体をサイドスタンドから起こすと、フっと消え去りました。右のスイッチボックスにあるイグニッションボタンを押し(ライダーはハンズフリーキーを持つていればOK)スターターを回した瞬間、再び「R 18」のものすごさに直面します。
エンジンが始動した瞬間、エンジンが持つ回転力で車体は強烈に傾くのです。一瞬の出来事ながらライダーは一生忘れない記憶を刻まれます。これはスゴイ。
フットボードとシーソータイプのシフトペダルは、ライダー視点からはシリンダーに隠れて見えません。走行前にその位置をつま先と踵に覚えさせ、クラッチを離すと始動時の「威嚇」が嘘のようにスルリと走り出します。ライディングモードにはレイン、ロール、ロックがあり、レインはその名の通り。ロールがいわゆるツーリング、ロックがスポーツか、という程度の認識でスタートさせました。
最初の角を曲がる時にクルーザーらしいな、と思ったのはフロントブレーキよりも積極的にリアブレーキを駆使するほうがスピードコントロールをしやすいこと。同時に、リアブレーキペダルを遠慮なく踏んづける作法でその性能に奥行きを確かめられるコトも同様です。
BMW Motorrad「R 18 First Edition」は、燃料タンクとリアフェンダーに2本の白いピンストライプを描き、ハンドルまわりやブレーキキャリパー、エンジンまわり、ペダルなど、各部にクロームメッキ部品を標準装備
大きく重たい車体ながら、ハンドリングは素直で、幅広いハンドルバーの左右に切れる動きを妨げないようにさえすれば、進みたい方向に向きを変えてくれます。正直、着座位置、ステップの位置、ハンドルバーの幅は、一定以上の体格を選ぶのもクルーザー的と言えばその通りです。
スムーズでマイルドなアクセルレスポンスを見せるロール。レインではさらに大人しく、まるでビンテージBMWが持つエンジン特性を今に再現しているようですらあります。排気量1800ccというサイズからは連想できないフレンドリーさの極みです。それでいて左折の時などトルク不足で倒れそう、などと言うことは一切なく、しっかり車体とバランスが取れています。ロールはレインの延長線上にあり、レインよりも各段にパワーとトルクを簡単に引き出せますが、あくまでスムーズなパワーデリバリーです。
しかしひとたびロックを選択すると、アイドリング時点から雲行き変わります。それまでもたしかにアイドリングで一定量のバイブレーションありました。エンジンの鼓動です。それがロックに切り替えた瞬間、他のモードより50から100回転ほどアイドリングが低くなり、まるで生命体のように不規則な回転マナーになるのです。ライダーの視界にあるハンドルバーはゆさゆさと不規則に揺れ、いったいなんだろう? と心にハテナが浮かびます。
スタートさせると、レイン、ロールとはケタ違いのパフォーマンスで「R 18」は突進を開始し、マフラーから吐き出される音すら迫力を満ちたものに変化します。文字では冷静に書いていますが、思い出すだけで目は据わり口角が片方だけ上がる企みを持った薄笑いを浮かべる自分(筆者:松井勉)。走っている時はもうそれを抑えようがありません。
モードの切り替えひとつで「R 18」は走りの表情が変わる
振動と音だけで、一瞬で乗り手のマインドを変えてくる「R 18」。その後は加速と減速を楽しみ、中でも高めのギアでアクセルをワイドオープンしたときの加速など「口の中で溶けるように味わいが広がる……」と表現される世界の珍味を口にした時にも似た驚きと悦びの連鎖が止まらないのです。
市街地もワインディングも、モードを切り替えるだけでワルにも優等生にもなれる……。スイッチを切り替えるようにパワーとトルクで支配するこの機械に、私は正直メロメロです。BMWが造ったこれは、タダの機械ではありません。充分に気をつけて下さい。
※ ※ ※
価格(消費税10%込み)は「R 18」が254万7000円、今回試乗した「R 18 First Edition」が297万6500円です。
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