並列3気筒エンジン搭載のMVアグスタ「ドラッグスター800 RR SCS」 クラッチワーク不要のSCSに感心しきり!?
バイクのニュース / 2021年2月3日 11時0分
MVアグスタ「ドラッグスター800 RR SCS」は、並列3気筒エンジンにスマートクラッチシステムを搭載する、特徴的なデザインのネイキッドバイクです。いったいどのような乗り味なのでしょうか。
■ブルターレ800より難しい……
2014年に初めて「DRAGSTER 800(ドラッグスター800)」に乗ったときのことは、今でもよく覚えています。当時の私(筆者:中村友彦)は車名から勝手にドラッグレーサー的な乗り味、長いホイールベースと低いシートによる親しみやすさを想像していたのですが、実際の「ドラッグスター800」にそういった気配はなく、むしろエンジンとシャシーの基本設計を共有する「BRUTALE 800(ブルターレ800)」より扱いが難しい? と感じました。
その主な原因は、極端なショートテールと独創的なセパレートハンドルの採用によって、ライディングポジションの自由度が低くなったことですが、マッチョなイメージを追求してリアタイヤを180mmから200mmに拡大したことも、好印象を抱けなかった一因のようです。
ただし、そんな私の印象とは裏腹に、「ドラッグスター800」シリーズはレギュラーモデルとしての地位を確立し、現在では6機種がラインナップしています。今回はその中から、スマートクラッチシステム(SCS)を採用した「ドラッグスター800 RR SCS」を試乗するのですが、当然ながら私はこのモデルのインプレにあまりノリ気ではなく、話題の中心はSCSにしようと思っていました。ところが……。
■初代と現行モデルの乗り味は別物
久しぶり対面した「ドラッグスター800」は、相当にフレンドリーになっていたのです。まず懸案のライディングポジションは、ハンドルの幅広化とシート座面のフラット化によって、自由度が大幅に向上しました。そのおかげで上半身はリラックスしやすく、前後輪の接地感は2014年型より明らかに感じやすくなっています。
MVアグスタ「DRAGSTER 800 RR SCS」前後17インチサイズのホイールは特徴的なワイヤースポークを装備
もっとも、シート高が2014年型より約30mm、現行「ブルターレ800」シリーズより15mm高い845mmになったことには、異論を述べる人がいるかもしれません。とはいえ、200mm幅のリアタイヤを履きながら、「ブルターレ800」よりキビキビしたハンドリングが味わえるのは、このシート高だからではないか……と私は感じました。
ライディングポジションの見直しに加えて、前後サスペンションの作動性が改善されたことや、並列3気筒エンジンの吹け上がりが滑らかになったこと、クイックシフターの精度が上がったことなども、現行「ドラッグスター800」の特筆すべき要素です。そしてそういった変化を認識した私は、MVアグスタの熟成を甘く見ていた自分を反省することになりました。後に調べてみると、「ドラッグスター800」シリーズの大改革が行なわれたのは2018年で、前述した要素に加えて「ブルターレ800」と歩調を合わせる形で、ディメンションやエンジンマウントの刷新も行なわれ、以後も地味な熟成は続いているようです。
ただし現時点でも、私は「ドラッグスター800」シリーズが“ベストMVトリプル”だとは思っていませんし、不特定多数のライダーにオススメするつもりもありません。オールラウンドに使えるMVトリプル(MVアグスタの3気筒エンジン車)が欲しいなら、「ブルターレ800」や「ツーリズモベローチェ」シリーズ、速さを追求するなら「F3 800」シリーズを選んだほうが良いでしょう。
逆に言うなら「ドラッグスター800」シリーズは、大幅刷新を受けた最新型でも立ち位置が微妙なのですが、アグレッシブなルックスと切れ味抜群のハンドリングは、刺さる人にはグサッと刺さるのではないかと思います。
■デメリットが見つからない、革新的なSCS
当初の予定とは変わって、車両の印象が長くなりましたが、続いてはSCS(スマートクラッチシステム)の話です。
排気量798ccの“MVトリプル”水冷並列3気筒エンジンを搭載。SCSによりクラッチレバー操作不要でシフトチェンジ可能(アップ&ダウン)
この機構の狙いは、既存のミッションとシフト機構を維持しつつ、面倒なクラッチ操作からライダーを解放すること、発進&停止時や渋滞路でのイージーさを獲得することで、停止時にギアが入ったままでもエンストはしないし、発進時や極低速時の半クラッチは不要になります。そのあたりはホンダの「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)」や、ヤマハの電子制御シフト「YCC-S」に通じる要素ですが、左足でのギアチェンジは必要なので、操作感はホンダのスーパーカブ的と言えそうです。
いや、その表現だと誤解を招くでしょうか。シンプルな自動遠心式クラッチのスーパーカブに対して、MVアグスタのSCSは、オフロード界で名を馳せたリクスル社の自動遠心式クラッチをベースにして、独自の電子制御を積極的かつ効果的に介入させているのですから。と言っても、SCSの構造も決して複雑ではなく、電子制御以外の一般的なMT車との相違点はクラッチの一部のみで、重量増はわずか36gに収まっています。
もっともこの種の便利機構に対して、世の中には“自分のバイクライフには関係ない”と言うライダーもいるでしょう。じつは私もその1人だったのですが、SCSの出来にはひたすら感心するばかりで、デメリットは一切見つかりませんでした。それどころか、クラッチワークが不要になることで(クイックシフターのおかげで、走行中のギアチェンジでもクラッチレバーを握る必要はありません)、こんなにもライディングは快適になるのかと驚き、同時に一般的なMT車と同じクラッチ操作も受け付けるSCSの懐の深さを知った時点で、これは革命的な機構じゃないか……という印象を抱きました。
現在のMVアグスタのラインナップでSCSを採用する車両は、「ブルターレ800RR」、「ドラッグスター800RR/RC」、「ツーリズモベローチェ800RC/ルッソ」の5機種のみです。その背景にどんな事情があるかは定かではありませんが、SCSはスーパースポーツでも、と言うより、前傾姿勢を強いられるスーパースポーツのほうが、美点が大きく感じられる気がします。
SCSの出来に感心。その恩恵は大きい
昨今のスーパースポーツ市場では、ライバル勢の後塵を拝している感があるMVアグスタですが、F4/F3シリーズにSCSを導入したら、情勢はガラリと変わるのではないでしょうか。
※ ※ ※
革新的なSCS(スマートクラッチシステム)を搭載するMVアグスタ「ドラッグスター800 RR SCS」の価格(消費税10%込み)は257万4000円です。
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