2輪系ライターの、仕事とお金 ~ベテランと中堅の狭間にいる伊丹孝裕の場合~ Vol.7
バイクのニュース / 2021年4月13日 11時0分
バイク専門誌の編集長を経て、フリーランスのライター(テストライダー)、ジャーナリストとして2輪メディア業界で活動する伊丹孝裕さんの、仕事とお金のリアルなお話です(全11話)。
■Vol.7「紙からウェブへ」2輪系ライター、伊丹孝裕さん(筆者)のおはなし
速いライダーは、バイクの限界を引き出し、凡庸なライダーには感じ取れない本質に近づくことができます。ゆえに速いライダーの言うことは正しく、もし理解できないとすれば、あなたの能力がそのステージに達していないということ。謙虚に受け入れ、自分を見つめ直し、努力を怠らず、日夜研鑽を積まれるがよい。喝……。
バイクの雑誌業界には、多かれ少なかれこうした価値観がべったりと張りついています。フィジカルを要する乗り物ですから、あながち間違いでもなく、限界性能が高ければ高いほど、ライダーの技量が求められるのは事実です。
例えば、ホンダ入魂のスーパースポーツ「CBR1000RR-R FIREBLADE SP」の先進性を語るなら、然るべき領域で走らせ、機能を引き出さなければなりません。法定速度で流しているだけなのに「MotoGPマシン由来のウイングレットが抜群の直進安定性に貢献」とか、交差点を曲がっているだけなのに「緻密なトラクションコントロールのおかげでコーナーも安心」とか書いてあったら興ざめでしょう?
かつては、限界性能を試す場として公道がごく普通に使われました。街中でウィリーし、ワインディングでヒザを擦り、高速道路でリミッターを効かせる。バイク雑誌を15年もさかのぼれば、そんな写真がいくらでも掲載されているはずです。そして、今も一部は相変わらず。写真はなくても、本文中に「高速道路を180km/hで巡航していると……云々」みたいなことが公然と書かれていたりします。
僕(筆者:伊丹孝裕)とて例外ではなく、編集部に所属していた時はレーシングスーツを着て箱根に出没し、可能な限りバンクしている様を幾度となく撮影。それが誌面的に必要だと思っていましたし、自分の価値だと考えていました。気恥ずかしいことに。
2021年の今、そういう時代は過去のものになっています。そりゃあ、速かったり、上手かったりすることに価値はあると信じていますが、そこに固執してはいけないでしょう。
ライターとして文章を書くことも、ライダーとしてバイクに乗ることも仕事です。ドライなイメージを強調するなら商売であり、ビジネスです。それは、いかに読者のニーズに応え、満足度を広げていけるか。そこに注力する行為を意味します。
2017年秋にハスクバーナモーターサイクルズの2ストロークマシン「TE250i」(排気量250cc)を購入し、突然エンデューロにハマった筆者(伊丹孝裕)。10レースほど出てみたものの、成績はだいたい最下位近辺
2020年で紙媒体の仕事からほぼ撤退し(2輪専門ではない媒体を一誌だけ残していますが)、当サイトを筆頭とするウェブ媒体に移行したのは、その一環です。
なぜなら、ウェブの世界には多くの読者がいて、つまりそこに多くのニーズがあるからです。そのニーズとは、少なくともフルバンクさせることではありません。
紙媒体で稼いでいるギャランティのランクは、今がおそらくピークでしょう。これ以上、上がることはなく、5年もしないうちにマーケットの衰退と加齢が進行し、自分の価値はどんどん下降していくはずです。その時が来る前に一度キャリアをリセットし、10年先でも求められる自分を再構築している最中です。
そう思うに至ったのは、ウェブ媒体には「日当」の概念がほぼ存在しないことが分かったからです。紙媒体の世界では「ライダーの伊丹さん」として扱われることが多く、「そこそこ上手に乗れる人」というポジションにいましたし、いれました。平均的な同業者よりも原稿料や日当が高かったのもそのおかげで、ある意味、楽な状態だったと言ってもいいでしょう。
しかしながら、ライダーとしてのスキルにニーズがあるのは全体の中ではごく一部であり、それをフルに活かすのならサーキット走行会のインストラクターや試乗会の先導といった現場があります。必ずしも誌面である必要はありません。
ならば、圧倒的に読者が多いウェブ媒体でポジションを高めた方がビジネスとして有意義なのでは? と考えた次第。日当はなく、原稿料にも差はないでしょうから、現状は全員が横並び。そこから頭ひとつ、ふたつ、みっつと抜け出していけたなら、きっと見晴らしがいいに違いありません。
そういう思いで、今もこうしてキーボードを叩いています。
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