長野から世界へ! 地域密着チーム「信州活性プロジェクトTeam長野」に聞いた全日本ロードレースチームの作り方
バイクのニュース / 2021年4月16日 13時0分
2021年、全日本ロードレース選手権の最高峰クラスであるJSB1000クラスに、信州活性プロジェクトTeam長野というチームが参戦を開始しました。鈴鹿8時間耐久ロードレースに挑戦する地域密着チームとして発足したという同チームが、なぜJSB1000クラスへのフル参戦を決めたのか、全日本ロードレースに参戦するためのチームの作り方と合わせて、聞いてみました。
■地元に応援されながら、地元を盛り上げていける地域密着型チームを目指して
全日本ロードレース選手権の最高峰クラスであるJSB1000クラスに、2021年から信州活性プロジェクトTeam長野というチームが参戦を開始しました。
同チームは「長野県から世界に挑戦!」をコンセプトに、世界耐久選手権の1戦であり、日本最大のバイクレースでもある鈴鹿8耐に挑戦する地域密着チームとして発足。今季は、全日本ロードレース選手権に参戦しながら全国を周り、さらに大きな規模で地元長野県をPRすることを目的に、JSB1000クラスへのフル参戦を決めたそうです。
そんな地元密着型チームが、全日本ロードレース選手権へ参戦するためには、どのような苦労があったのでしょうか。チームの立ち上げメンバーでありライダーでもある、櫻山 茂昇さんに話を聞いてみました。
―――チームの主要メンバーはどのような人たちですか?
主要メンバーは4名。職業は自営業、公務員、フリーランスなど様々です。
全員レースが好きですが、チーム運営の経験はまだまだ浅いです。
―――まず、このチームを作った経緯をおしえてください。
20代の頃、プロを目指してレース活動をしており、全日本ロードレース選手権にフル参戦をしていた時期もありましたが、一旦レースから離れていて、2016年に鈴鹿8耐にライダーとして誘ってくれたチームがあり、そこに出たのがきっかけです。
日本で一番有名なレースである鈴鹿8耐に参加するにあたり、私の地元である長野県をPRできないかと考えました。そこで、自分が住んでいる小諸市の市役所に掛け合い、小諸市のチームとして参戦をしたいと許可を頂き、小諸市の公認チームとして参戦しました。
―――それは、小諸市がスポンサーということですか?
お金は頂いていないのでスポンサーではありません。地元である小諸市をPRするために、公式にPRする許可を頂いています。
その後、レースの時に市の観光パンフレットを配り、のぼりを立てるなどのPR活動を始めたところ、県内外の方から反響がありました。もしかしてこの活動は地域おこしになるのでは?と考え、翌2017年には長野県の後援も頂き、3人のメンバーで「チーム長野」の活動をスタートしました。トランスマップレーシングとのコラボで、鈴鹿8耐に参戦したのが始まりです。
その後、2018年には独立したチームとして活動を始めましたが、いきなり鈴鹿8耐参戦というのは少し厳しかったので、鈴鹿8耐と併催される鈴鹿4耐に参戦。2019年には鈴鹿8耐にも参戦し、今年は全日本ロードレース選手権のJSB1000クラスへのフル参戦を決めました。
信州活性プロジェクトTeam長野のメンバーでありライダーでもある、櫻山 茂昇さん(右前)とチームのメンバー
―――元々、レースチームが作りたいという想いがあったのですか?
チームを作りたかったというよりは、野球やサッカーなど、ほかのスポーツは地域密着的なチームが多いじゃないですか? 地元の人たちに応援してもらうことで、地元を盛り上げながら、スポーツをするというスタイルだと思うのですが、モータースポーツにはそういうチームが無いんです。
モータースポーツは企業が開発を兼ねて活動をする事もあり、状況によっては短期間で活動を打ち切ってしまう事もあり得ます。個人で活動する場合は資金面の壁などもあり、長く活動を続けることが難しい世界です。
そこでTeam長野は地域を盛り上げることに主軸をおいた地域密着型のチームにし、レースだけではなくイベント活動もあわせて行うことにより、活動を長く継続できる体制を作っていきたいと考えました。
―――地域をPRしながらレース参戦をする活動資金は、どうしていますか?
活動資金は正直なところ不足しています。スタッフも全員ボランティアで、費用も持ち出しで参加しているのが現状です。ですが、みんな、レースに出ることで得られる経験などを求めて、納得した上でボランティアでも良いと参加してくれています。
私達のスポンサーは長野県内の企業さんが多いです。正直、実績もないのに「僕達レースやりたいのでお金をください!」では、地元の企業さんたちも話を聞いてくれないですよね。そこで、地域のイベント等に参加することで活動を知ってもらう事から始めました。ようやく認知度が上がってきたのか、応援してくれる方も少しずつ増えてきた実感があります。
いまはすごく苦しいですが、ゆくゆくはそういった皆さんの応援の力だけでレースができるチームになりたいというのが目標です。
―――長野県をPRするという意味で、目指すビジョンはありますか?
ありがたいことに県内のテレビや雑誌などのメディアにも取り上げていただく機会も増え、チーム長野の活動が少しずつ浸透してきた実感があります。長野県にこういう面白そうなことをやっているチームがあるということを、もっといろんな人に知ってもらいたいですね。そして、今まで以上に長野県を全国にPRし、長野県に訪れてくれる人を増やしていきたいと思います。
長野県は、日本全国からツーリングに来てくれるライダーさんも多く、観光地でもあるので、そういった部分をメインに、バイクに乗って行けるおススメスポットを広めたり、バイクに乗らない人にも、長野県の魅力をどんどん知ってもらって、長野県を盛り上げることで、バイクに乗る人を増やしたい。そして、長野からバイク業界を盛り上げたいというのが目標です。
■JSB1000とST1000への参戦、どちらが低コストかは考え方次第
―――チーム員はどのように集めたのでしょうか?
基本的には、長野県出身者や長野県在住者、長野県にゆかりのある人がほとんどです。
地元でおこなったイベントで話しているうちにチーム長野のコンセプトに共感し、なにか手伝えることがあれば手伝いたいと声をかけてくれた人などが、集まっています。
信州活性プロジェクトTeam長野のレース用バイクを走らせるライダーの東村 伊佐三選手
―――全日本に参戦するためのチームの作り方を教えてください。
最初は右も左も分からない手探り状態で、僕はライダーだったので、乗ることはできるけど、ほかのことは出来なくて……。
なので、周りに「困っています!助けてください!」と常に声をかけていたら、手伝ってくれる人が増えて今に至るという感じです。お恥ずかしい話ですが、危なっかしくて見ていられない!と言って助けてくれた人もいます。
とはいってもレースは資金が無いと動かないので、最初に始めたのは地元の企業さん回りでした。
初めは伝手もなにもなかったので、地元の市役所に行って「こういう活動をしているので、地元の企業を紹介してください」とお願いし、ご紹介いただきました。当時は実績もないのに、ほぼ飛び込み状態で企業さんに連絡をしていましたね。もちろん最初はお断わりされました。ですが、何度か通っているうちに話を聞いていただけるようになり、他の企業も紹介してもらえる事も増えました。そこからスポンサーが1社決まり、2社決まりという感じでスポンサーが増えていきました。本当にいろんな人の協力を頂きながら、少しずつスポンサー活動を広めていきましたね。
―――そうやって地道に作ってきたチームでの全日本フル参戦を決め、レースWEEKを迎えるまでの準備で一番大変だったことはなんですか?
一番大変だったのは、人集めですね。やはり全日本となると、平日におこなわれる事前テストからとおしで参加できる人が必要なのですが、そんなに自由にスケジュールを何週間もあけられる人はなかなかいないので……。
そういった人を確保するのが大変だったのと、全日本となると、それなりの機材も必要となるので、それをどうやって揃えるかというところですね。だから、この2、3か月は休みなしで走り回っていました。
―――全日本フル参戦チームとして初めての開幕戦のレースWEEKを迎え、大変だったことはありますか?
いままでは鈴鹿8耐への参戦をメインにしていたため、年に数回のレースに参戦していましたが、シリーズ戦に参戦することが初めてです。全てが手探りで、経験もお金も時間も何もかも足りないことだらけ。想像以上に大変でした。
信州活性プロジェクトTeam長野が使用するBMW S1000RRベースのレース用バイク。JSB1000クラスのレギュレーションに準じた仕様となっています
―――参戦カテゴリにJSB1000クラスを選んだ理由は?
最大の目標として鈴鹿8耐のEWCクラス参戦を掲げているのですが、そうするとマシンの仕様が全日本ではJSB1000クラスのレギュレーションということになるからです。
鈴鹿8耐のSSTクラスや全日本のSSTクラスは改造範囲を狭くすることでイコールコンディションでレースをすることを目的にしているため、コストを抑えらるイメージですが、JSBクラスでもレース専用パーツを効率的に使用することでコストを抑えることが出来ます。また、耐久仕様のパーツは専用品ですのでピット作業を少なくすることができます。
STやSSTは純正そのままなので、タイヤ交換などが複雑で、経験の浅いスタッフばかりだとやることが増え、ミスが起きるリスクが増えるという懸念があります。
そういうピット作業の確実さもメリットだし、SSTやSTクラスは改造範囲が狭く、制限も多いためレース用パーツを使えないところは、消耗が早く交換サイクルが短期間になる場合もあります。
だから、例えばブレーキパットも、レーシングキャリパーなら無交換で8時間走れても、純正パットでは当然、8時間は持たない。でも、毎回交換していると、コストがだいぶかかってしまいます。
STやSSTクラスは改造範囲が狭いため、車体のコストが抑えられていますが、消耗部品の交換サイクルが短期間ということなども考慮すると、JSBやEWCクラスと変わらない部分もあると思います。
といっても、うちのマシンはJSBには参戦していますが、エンジンはノーマルのままだし、足回り以外はほぼ純正なので、そういう最低限必要なパーツを交換したレベルでのEWCやJSBでの話ですけどね。JSBマシンやEWCマシンは、お金をかけようと思えば、無限にかけられちゃうカテゴリなんで(笑)。
私達はまだまだマシンの良さを引き出せていません。その為にライダーにも苦しい思いをさせてしまっている状態です。ですが、確実にレースをこなし、完走してポイントを積み重ねていくことで、前進できるのではないかと信じています。
※ ※ ※
全日本に参戦している数あるチームのなかでも、信州活性プロジェクトTeam長野は、読者の皆さんの感覚に一番近いチームであり、やる気と行動力があれば、一般の人でもこれだけできるということを形にしているチームだと話す櫻山さん。
レースをとおして長野の魅力を伝えたいという信州活性プロジェクトTeam長野が、どこまで成長していけるのか……全国ロードレースや鈴鹿8耐での活躍を、是非応援してみてはいかがでしょうか。
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