2013年に米国のカスタムショー「ボーンフリー」に出展された1台のチョッパーとSNS社会との関係性
バイクのニュース / 2021年4月19日 11時0分
現在、日本のチョッパー・シーンは世界から高い評価を受けています。そうしたこともあり、今では日本人ビルダーが海外のショーへゲストとして招聘されるケースも珍しくはありませんが、その先駆けといえる存在が2013年に米国のショーへ招待された京都のラックモーターサイクルの杉原雅之氏でしょう。どのような理由で招聘されたのでしょうか。
■高い評価を受ける日本のチョッパー・シーン
現在、世界から注目を集め、高い評価を受けている日本のチョッパー・シーンですが、その要因を考察してみると「ハンドメイドを駆使した造形力の高さ」や「車体のバランス」、そして「スタイルと走りの両立」など様々な要素が思い浮かびます。
1990年代後半から日本人らしい「繊細な造形」で生み出された「ハンドメイドのワンオフ(一品もの)」が世界のチョッパー・シーンで注目されだし、それがパーツをボルトオンでカスタムする手法が主流だった当時のカスタム・シーンの中で見直され、現在の「オールドスクール」ブームに繋がっていくのですが、その中で高い評価を受けるビルダーが、ここに紹介する京都のラックモーターサイクルの杉原雅之氏です。
ここに見る車両は、そのラックモーターサイクルが米国、カリフォルニアで開催されたカスタムショー、“Born Free Motorcycle Show(以下ボーンフリー)”に出展する為、2013年に製作された1台なのですが、じつは一般的な展示ではなく、インバイト(招待)ビルダーとして同ショーに招かれ、それに向けてカスタム・ビルドを行ったものです。
現在でこそ日本人ビルダーが海外のショーに招かれ、ゲストとして扱われることも少なくないのですが、当時ではまだそうした状況は珍しく、いわば先駆的な意味を持つ車両といえるでしょう。
ちなみに“ボーンフリー”とは2009年からカリフォルニアでスタートしたカスタム・ショーであり、現在は世界的に高い注目を集めるイベントに成長した催しなのですが、ここ数年は同ショーのチャンピオン・マシンが年末にパシフィコ横浜で開催されるYOKOHAMA ホットロッドカスタムショーにゲストとして招かれるのが、一つの流れとなっています。
■日本のチョッパーのクオリティを知らしめたマシン
その本場のショーに逆に招かれたラックによる1台は、まさに「日本のチョッパーのクオリティ」を広く知らしめるマシンといっても過言ではないフィニッシュに仕上げられているのですが、改めて眺めてみても入念に手が加えられた細部といい、各パーツのデザインの統一感といい、そして何より全体のバランスも見事に尽きるものです。
チョッパーのバランスの良し悪しはリアビューから見ると顕著に表れますが、このマシンはご覧のとおり。タンクのマウント位置や“ラックらしさ”を感じさせるテール周りの処理などは絶妙です
またラックの杉原雅之氏曰く「ディテールを“足し算”するのではなく、出来るだけ無駄なものを削ぎ落して、車体のバランスを追求すること」がカスタム・ビルドにおけるポリシーとのことですが、確かにその言葉どおり、このマシンは凝った造形でありながら、基本的にはシンプルなデザインでまとめられており、飽きの来ない雰囲気のもの。これは「たとえばもし、オーナーさんがカスタムのスタイルに飽きた場合、他の方向性にもモデファイ出来るように」という意志が込められているとのことです。
こうしたマシンのクオリティを見る限りでも「何故、日本のチョッパーが世界から注目を集めるのか」がご理解頂けるでしょうが、今の時代はそれがフェイスブックやインスタグラムなどのSNSによってダイレクトに世界中に伝わるようになっています。実際に杉原氏もボーンフリーの主催者からコンタクトがあったのがインスタのダイレクトメールとのことで、そうした部分から「時代の変化」を感じるのも正直なところです。
ラック製ワンオフのタンクを飾るペイントは米国のChemical Candy Customsが担当。定番のフレイムスとドラゴンの鱗を思わせるグラフィックが美しい仕上がりです。また車体の随所と共通するデザインが与えられたタンクキャップもセンスを感じさせます
今の時代、チョッパーの世界ではカスタムショーに出展された車両が来場者によって撮影され、それがSNSなどを通して瞬く間に世界中に伝わるという構造になっているのですが、そうした情報の伝達も現実世界で帰結しなければ意味を持ちません。
杉原氏も、実際にアメリカに渡り、ショーに出展したからこそ「この時、20代の頃に修行していたアメリカに久しぶりに行ったんですが、現地だからこそ、あの国ならではの解放感を感じることが出来た」とも語ります。
確かにインターネットによる情報の伝達は世の中を便利にしましたが、しかし、どんな物事であろうとも実際に体感した経験には叶いません。カスタムマシンやチョッパーにしても写真や映像より実際に目の当たりにした方が確実に創り手の情熱や感動は伝わります。
昨年はボーンフリーにせよ、YOKOHAMAホットロッドカスタムショーにせよ“コロナ禍”の影響で中止となってしまいましたが、今年こそはここに見るようなマシンを肉眼で見て、生で「あの空気感」を味わえるようになることをひたすらに祈るばかりです。
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