【最終回】2輪系ライターの、仕事とお金 ~ベテランと中堅の狭間にいる伊丹孝裕の場合~ Vol.11
バイクのニュース / 2021年5月11日 11時0分
バイク専門誌の編集長を経て、フリーランスのライター(テストライダー)、ジャーナリストとして2輪メディア業界で活動する伊丹孝裕さんの、仕事とお金のリアルなお話、最終回です(全11話)。
■Vol.11 最終回「原稿は商品。それを売るという意識」
ライターの仕事がどうやって成立するのかと言えば、編集部から原稿の依頼があり、それを受けて納品し、規定の原稿料を頂く。これがほとんどすべてです。逆にライターからネタを編集部に提案することもあり、それが了承されれば、やはり規定の原稿料を頂いてひと区切りとなります。
一般的な原稿料がどれくらいかはVol.5で記しています。その価格は媒体側、つまり出版社や編集部が決めたものであり、ライターによって変動。いずれにしても、上位に立っているのは媒体側です。その理由は仕事を発注する側と、それを頂戴する側という意識からくるもので、上下関係が構築されているのです。
「だって、仕事ってそういうものでしょ?」と思うかもしれませんが、そうでしょうか。僕(筆者:伊丹孝裕)は、原稿というものはライターが生み出した「商品」だと考えています。商品ならば、その価値を見定め、価格を決定するのも生産者(=ライター)の役割であり、責任でしょう。
これはごく単純な話です。店に陳列されている商品には店主が決めた価格が表示され、客はそれを見て買うか買わないかを判断します。客の方から「これ500円くらいでいいよね?」とレジに持って行くことはなく、オークションやフリーマーケットだって、出品者側が価格を提示します。
売りたい人がいて、買いたい人がお金を出すというやり取りは、市場経済の最もシンプルな形ですから、それにはまず売りたい人(=ライター)が価格を決めること。それを買いたい人が適正かどうかを判断するのが自然でしょう。他に安価でお得なものがあれば、買い手はそちらに流れるでしょうし、欲しい人が多数いれば競争が生まれます。
媒体側上位の意識は、仕事の発注メール(もしくは電話)で簡単に分かります。その時、原稿料が提示されているか、いないかです。提示されていないということは、「それでも受けるよね?」、「いやなら他にまわすから別にいいけど?」というニュアンスが込められているのと同じ。こうしたスタイルが常態化しています。
これを逆に利用すれば、原稿料を聞かないままメモ書きレベルの雑文を納品し、50万円の請求書を出してもかまわないという理屈も通ります。「金額を決めるのは生産者」という立場に立てば、正当な行為だからです。
もちろん、互いの理屈を押し通そうとすればトラブルになるか、どちらかが泣き寝入りすることになるでしょう。そのため、僕は必ず事前に原稿料を聞いて取り掛かるようにしています。
想定より随分安かったとしても将来的なプラスを考えて受けることもあり、そういう場合は時期を見て原稿料の引き上げを交渉します。決裂することは珍しくありませんが、仕事の場面で主張し合うのは当たり前のこと。2輪メディア界とて例外ではないはずです。
2010年にスズキ「GSX-R600」でマン島TTレース(スーパースポーツクラス)に参戦。決勝は2回開催、いずれも完走
このあたりが曖昧なまま仕事を受け、愚痴をこぼしているライターはたくさんいます。身から出た錆と言うより他なく、自主的に便利な御用聞きになっていることに気づくべきです。
不思議なことに、とくに紙媒体の世界には「お金の話はあまりするものじゃない」という妙な高潔性があります。
「編集者もライターもお互い好きで飛び込んだ世界」
「伝えたいことがあるのだから、原稿料は二の次」
「なにより我々は文化継承の一端を担っている」
「その結果、倒れても一片の悔いなし」
こうした精神がごく普通に見られ、会社も編集部も個人も本当にバタバタと倒れているのが現実です。
媒体側から仕事を頂き、100%それに従っている間は、御用聞きでいいでしょう。なぜなら、原稿すべてに個人の主義主張が盛り込まれている必要はなく、媒体にとって都合がいい、もっと言えば媒体の後ろにいる広告主にとって都合がいい宣伝媒介になることも雑誌の役割だからです。誤解してほしくないのですが、だからだめだと言っているわけではありません。クライアントの要望に応えるのは、真っ当なビジネスだと考えています。
「そうやって読者をないがしろにするからダメなんだ」
「ライターの仕事は提灯記事を書くことなのか」
「原稿料は読者が支払った雑誌の代金で成り立っているんだぞ」
そんな声が聞こえてきそうですが、僕自身はライターの原稿料を支えているのは読者だとは考えていません。なぜなら、つまらない記事にはお金を出さない自由が読者にはあり、決して押し売りをされているわけではないからです。
ウェブの場合、読者がライターや記事を取捨選択することができ、しかも無料で読めるのが一般的です。一方、不特定多数の執筆者が関与する雑誌の場合は、好きなライターの記事にだけお金を払うわけにはいきません。本の代金が1000円なら、その全額を支払わなければならず、多くの無駄が発生することになります。
現在、僕が紙媒体の仕事を辞めている理由のひとつがそれです。もしも僕の原稿を読みたいという人がいるのなら、その人のためだけに適正な価格で届けたい。そう思っていても、雑誌という形態では、その人にとって不要な原稿がもれなく付いてきてしまいます。それゆえ、紙媒体の仕事をするなら、自分ひとりの記名原稿で丸々一冊を作り上げる、これを理想にしています。
ライターと編集とライダーを兼ねるのが通常スタイルの筆者(伊丹孝裕)。150万円ほどの資金でバイクを物色中、スズキ「スーパーキャリイ」と「バンバン」を購入した経歴がある
さて、それはさておき不確定な要素が多い2輪メディア界ですから、いつ何時、負の連鎖に巻き込まれるか分かりません。媒体の消滅や出版社の倒産は珍しいことではなく、いつまでもその存続に頼ろうとするのは無策が過ぎます。自分から発信し、市場へ売り込み、価値を見出してもらう手段を構築すべきでしょう。今やウェブ媒体はいくつもありますし、YouTubeやモトブログだって堂々たるチャンネルのひとつです。表現する場と手段はいくらでもあります。
もっとも、2輪そのものは趣味の世界ですから、当分無くなったりはしないでしょう。世の中がどんどん便利になり、どんどん自動化されるほど、人は余った時間を趣味に費やし、そこに喜びを見つけようとするからです。
たとえば、アマゾンが築いた物流ネットワークのおかげで必要なものがあればすぐに検索し、翌日には家へ届く環境が整いました。欲しいものを求め、半ば賭けのように探し回る必要がなくなり、その手間を他の娯楽に振り分けられるようになりました。その恩恵を2輪の世界も少なからず受けているはずです。
そんな中、どうしても文章を書いていたいなら、原稿という商品を娯楽のために売る立場になっていることです。情報を流すだけのライターはAIに取って代わられる可能性がありますが、独自性に徹していれば、他に代わるものがありません。この連載もその一環で、徹頭徹尾自分のことゆえ代役が効かない内容になっています。読者にとって有益かどうかは分かりませんが。
バイクのみならず、4輪の試乗会やレースに参加することも
というわけで、全11回に渡る連載はこれにて終了です。書きたいこと、書けることはまだまだたくさんあるのですが、ひとまずこのへんで。必要以上に夢や希望を語るものでもなければ、必要以上にさげすむものでもなく、2輪の世界で働く僕自身のことをお届けしてきたつもりです。
それでは、またいずれ。
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