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エネルジカが電動バイクレース「MotoE」のサプライヤーを終了する理由と、ドゥカティが参入するわけ

バイクのニュース / 2021年11月5日 11時0分

電動バイクによるチャンピオンシップ『FIM Enel MotoE World Cup』のワンメイクマシンサプライヤー『エネルジカ』が2022年限りでその任を降り、ドゥカティが名乗りを上げました。エネルジカがMotoEから撤退する理由、一方ドゥカティが電動バイクレースに参入する訳とは?

■エネルジカが2022年限りで『MotoE』サプライヤーを終了

 MotoGP第16戦のエミリア・ロマーニャGPを控えた2021年10月20日、『FIM Enel MotoE World Cup』(以下、MotoE)のワンメイクマシンサプライヤー『Energica Motor Company(エネルジカ・モーターカンパニー)』が、2022年限りでその任を降りることが発表されました。そしてその翌日にはドゥカティが2023年から4年間、MotoEのワンメイクマシンサプライヤーとなることが明らかとなっています。エネルジカが2022年をもってMotoEから撤退する理由、一方、ドゥカティが電動バイクレースに参入する訳とは……?

 イタリアの電動バイクメーカーであるエネルジカは、MotoEの初年度である2019年から電動レーサー『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』を供給しているマシンサプライヤーです。現在のMotoEはワンメイクマシン、つまり1モデルのバイクによって争われており、参戦する全18名のライダーがエネルジカ「エゴ・コルサ」を駆ってシーズンを戦います。

 当初、エネルジカがMotoEにバイクを供給するのは2019年から2021年までの3年間でしたが、振り返ってみれば、その道のりは平たんなものではありませんでした。

 MotoEがスタートした初年度、2019年には3月に行なわれたスペイン・ヘレスでのテスト中にバイクや機材を保管するパドックで火災が発生。「エゴ・コルサ」全台、ライダーのレーシングスーツなどのすべてが焼失し、開幕戦は5月上旬から7月上旬へと変更されました。

 そして2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため会社やサプライヤーが閉まり、開発の歩みを止めざるをえなかったのです。

 未開の地への挑戦には乗り越える壁がつきものだとは言え、MotoEというチャンピオンシップにとってはもちろん、エネルジカにとっても困難な状況を乗り越えながら3シーズンを送ってきたと言っていいでしょう。そうした中でも、3シーズンは予定されたレース数を終了しています。

 2020年10月には契約が1年間延長され、2022年までエネルジカがMotoEのサプライヤーを務めることになりました。しかし2021年10月20日に、2022年限りでエネルジカがMotoEのマシンサプライヤーを終了すると発表されたのです。

2019年からエネルジカがMotoEに供給する『エゴ・コルサ』

 なぜ、エネルジカはMotoEから撤退するのか……発表があった当日、エネルジカ・モーターカンパニーはCEOであるリヴィア・チェヴォリーニ氏によるオンライン取材会を実施し、ジャーナリストの質問に回答しました。チェヴォリーニ氏はその理由について、次のように答えています。

「私たちは常に新しい挑戦をしたいと思っています。そして、これ(MotoE)はもう、新しいことではないのです。私たちは、MotoE最初のサプライヤーとしてスタートし、チャンピオンシップを成長させることができました。しかし、周りを見回して、もっと違うことができるのではないか、と考えたのです。

 私たちが今、MotoEで行なっていることは、すでに誰にでもできることです。それでは、私たちエネルジカ・モーターカンパニーの戦略の意味がなくなってしまいます。ですから、私たちは自分たちが行なっている別のプロジェクトに目を向け始めたのです。スクーターや電動バイクのような小型モビリティの分野にもアプローチしています。様々なマーケットにアプローチしているのです」

 これまで培ってきたノウハウをもとに、別分野にエネルギーを注ぎたい、とチェヴォリーニ氏は説明しています。

「ドルナと話し合いをもったとき、彼らも新しい顔ぶれで新しいことをしたいと考えていたのです」(チェヴォリーニ氏)

 チェヴォリーニ氏は明言していませんが、こうした決断の背景にはひとつ、プロモーターである『ドルナ・スポーツ』の方針があったのではないか、とも考えられます。というのも、現在のMotoEマシンであるエネルジカの「エゴ・コルサ」はこの3シーズン、前述したような背景があったにせよ、革新的と言えるほど大きな進化をしてきませんでした。ドルナは、この最初の段階ではMotoEというチャンピオンシップを成熟させることが重要であると考えたからです。

 2019年のバレンシアGPでMotoEエグゼクティブディレクターのニコラ・グベール氏にインタビューした際、MotoEマシンのセッティング可能な範囲がとても狭いのはなぜか、と質問したときのことです。グベール氏は「エゴ・コルサを早く理解できるので、2020年もそれは変わりません。チームスタッフの人数も少なく済みます。バイクが複雑になれば、メカニックやアナリストなど、多くのスタッフが必要になり、コストもかかります。チームはそれを望んでいません」と回答していました。

 そして、2021年5月、MotoE開幕戦後にエネルジカ・モーターカンパニーのCTO、ジャンピエトロ・テストーニ氏にインタビューしたときの話も加えましょう。彼は「ドルナは、チームやその他すべてに、大きな変更を望んでいません」と語っていました。

2021年のエネルジカ「エゴ・コルサ」にはエアロダイナミクスなどのアイデアもあったというが、現状は取り入れられなかった

 チェヴォリーニ氏の話に戻りましょう。取材の中で2022年の「エゴ・コルサ」の進化について質問すると、チェヴォリーニ氏は「ドルナとの合意で、あまり(バイクを)進化させないことになっています」と回答しました。

「チャンピオンシップを成長させたいからです。ライダーにとってもチームやメカニックにとっても、(MotoEは)すべてが新しいですからね。あまりにも(バイクを)進化させると、チームやライダー、メカニックにとって難しくなってしまいます。変わったものはありますが、常にそれは小さな進化でした。目標は、チャンピオンシップ全体に信頼性、信用を与えることだったからです」(チェヴォリーニ氏)

 MotoEを興業レースとして成長させることを考えれば、チャンピオンシップを成熟させるという観点において、この方法は正しいと言えるでしょう。一方で、エネルジカのようなマニュファクチャラーにとって、という側面で考えれば、事情は少し異なってきます。

 彼らがサプライヤーとなるメリットのひとつは開発です。そのため、レースの現場での技術投入に“待った”をかけられれば、彼らにとってのメリットが失われてしまうことになります。繰り返すようですが、これはチェヴォリーニ氏がそうと明言してはいないことです。ただ、これまでのMotoE取材を通じて、エネルジカが2022年をもってMotoEサプライヤーを終了する“ひとつの”要因ではないか、とも考えられるのです。チェヴォリーニ氏はこうも語っています。

「(電動バイクレースが複数のメーカーで争われることは)間違いなく、私の夢です。少なくともパワーユニット部分で多くのマニュファクチャラーに開かれた選手権になれば、また(MotoEに)戻ってきたいと思っています。ただ、今はチームやライダー、メカニックが電動バイクに慣れることが必要なのです。けれど数年の間に可能になるとは思いますよ。私の夢は、電動のMotoGPを実現することであり、一日も早い実現を願っています。私たちは技術を愛していて、挑戦が必要なのです。そしてそうした挑戦のためには、たくさんのブランドが必要です」

■ドゥカティが2023年から4年間、MotoEのワンメイクマシンサプライヤーに

 エネルジカが2022年をもってMotoEから撤退すると報じられた翌日の10月21日、ドゥカティが2023年から2026年にかけてMotoEのワンメイクマシンサプライヤーとなることが発表され、エミリア・ロマーニャGPの開催地であるイタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで、ドルナ・スポーツのCEO、カルメロ・エスペレータ氏と、ドゥカティ・モーター・ホールディングのCEO、クラウディオ・ドメニカリ氏による記者会見が行なわれました。

ドルナ・スポーツのCEO、カルメロ・エスペレータ氏(右)とドゥカティ・モーター・ホールディングのCEO、クラウディオ・ドメニカリ氏(左)

 ドメニカリ氏は「ドゥカティの信念は、スタイル、洗練性、パフォーマンスです。我々は、トップであるレースから電動モビリティに参入することにしました」と、MotoEのワンメイクマシンサプライヤーとなる理由を語っています。

 大きな注目は、ドゥカティがどんな電動レーサーを造るのか? ということでしょう。ドメニカリ氏によれば、最大の課題は軽量化にあるということです。バッテリーを積む電動バイクは一般的に車両重量が重いものですが、現在のMotoEマシン、エネルジカ「エゴ・コルサ」も例外ではなく、車両重量は262kgあります。この重量はリスクをはらんでおり、転倒時、その重さゆえにバイクがコース上に留まることが度々ありました。また、ライダーと接触するようなアクシデントの際の衝撃も、その重さの分大きくなります。安全性のためにも、軽量化はクリアすべき課題なのです。

「私たち(ドゥカティ)が電動モビリティを意識し始めたのはずいぶん前のことですが、ドルナとの話し合いが始まったのは最近で、合意したのは本当につい最近のことです。

 実際には、合意に達してから、プロジェクトに本格的に取り組み始めたのです。そのため、実際にサーキットに出るまでにはまだ時間がかかるでしょう。2022年には、マシンの開発とサーキットでの走行を終え、すべての開発を完了させる予定です。

 2023年には、すでにテストを終え、安全基準がすべて満たされている状態で迎えたいと思います。それはとても重要なことです。しかし、それと同じくらい重要なのが ドルナから依頼されたパフォーマンスを発揮したいということです。つまり、電動バイクであってもできるだけ軽量化します。また、MotoGPで培ったソフトウェアやノウハウをそのまま反映させ、高性能な製品を造ることも考えています」(ドメニカリ氏)

ドゥカティのMotoEマシンのスケッチ。2023年のMotoEはどのようなチャンピオンシップになるのだろうか

 MotoEのチャンピオンシップが成長すれば、それにともないバイクの進化も大きくなっていくでしょう。エネルジカが「エゴ・コルサ」最終年となる2022年にどのような電動バイクを投入するのか、そして2023年から始まるドゥカティの電動バイクによるMotoEはどのようなシーズンになるのか、注目したいところです。

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