「実話に基づく」SFホラー!? 喪失や恐怖に立ち向かうヒントをくれる『スターフィッシュ』

バイクのニュース / 2022年1月29日 15時0分

低予算ながら刺激的なプロットと鮮烈なビジュアル、効果的な音楽で様々な映画祭でじわじわと評価を高めていったインディー映画『スターフィッシュ』が、ついに日本でも公開中です。

■観客の経験や記憶がパズルのように反映される

　低予算ながら様々な映画祭でじわじわと評価を高めていったインディー映画『スターフィッシュ』が、ついに日本にも上陸しました。『ハロウィン』（2019年）などで知られるヴァージニア・ガードナーが主演。これが長編デビュー作となるA.T.ホワイト監督によるオリジナル脚本作品です。

「実話に基づく物語」と謳う本作に疑問を抱かずに観ていると、いかにも凶暴そうなモンスターの登場に面食らってしまうことでしょう。さらに、まるでゾンビ映画のように顔面を欠損した人間まで現れます。実話ベースだと思ったのに、いったい何を見せられているのか……と、軽くパニックに陥るかもしれませんが、本作は正真正銘、ホワイト監督の実体験をもとに描かれた物語です。

　もちろん、実際にモンスターに遭遇したわけでも幻覚を見たわけでもありません。監督が経験したのは耐え難い“喪失”であり、本作の主人公オーブリーも物語の冒頭で親友グレイスの“死”を突きつけられます。しかしオーブリーはその悲劇を受け入れられず葬儀を抜け出し、生前の気配が生々しく残る親友の部屋に忍び込みます。

　翌朝オーブリーが窓から外を覗くと、街は雪に覆われていました。しかも一歩外に出たら、恐ろしい形相のグロテスクなモンスターが襲いかかってきたのです。この街に何が起こったのか？みんな殺されてしまったのか？無線機から聴こえてきた謎の声に「モンスター撃退のヒント」を見つけるよう指示されますが、オーブリーは“人類滅亡の危機”からも目を逸し、そのまま何日間も引きこもってしまいます。

　本作はグレイスが遺した“世界を救う”信号が収められたミックステープが重要な役割を担っていて、劇中ではシガー・ロス、スパークルホース、グランダディ、ザ・ノーツイストといった90年代末～2010年代に盛り上がったUSインディー／ポストロック系アーティストの楽曲を多数使用しています。中には脚本のヒントになったのではと思わせる歌詞もあり、バンド活動もしているというホワイト監督の音楽センスに共感を覚える人も少なくないでしょう。

　なお本作は抽象的なシーンをアニメーションで表現しているのですが、なんと手塚プロダクションによるもの。さすがに単なる偶然とは思いますが、手塚治虫先生は70年代に「ひとでの秘密」という短編を発表しています。ちなみに監督は2012年の短編『Choose（原題）』の主演に日本人俳優の安部春香を起用していて、本作にもある役柄でクレジットされています。

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