クルマとバイクで異なる「鼓動」の世界とは? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.140~
バイクのニュース / 2022年5月4日 17時0分
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、「鼓動」の概念がクルマとバイクでは異なると言います。どういうことなのでしょうか?
■鼓動の概念が異なる、それぞれの世界
「NVH」という専門用語を耳にしたことがあるだろうか。「NVH」とは、Noise、Vibration、Harshnessの頭文字をとった呼称で、日本語にすれば、雑音、振動、突き上げであり、クルマの世界では忌み嫌われるワードだ。
バイクではシングルやVツイン、3気筒など、エンジンによる独特の鼓動が魅力とされている
「NVHが気になる」と言われれば、それは否定的な表現になる。クルマを走らせると嫌な雑音が耳に届き、不快な振動が絶えず体を揺らし、路面の突起を拾って激しく突き上げられるといった意味として使われる。
だからクルマの開発では徹底的にNVHが削ぎ落とされる。エンジンの振動は丁寧に抑えられ、回転計の針を確認しないと、エンストしているのかアイドリングしているのかさえ判断できない。
カムやバルブがガシャガシャと噛み合う音や擦れる音がするはずもない。ごく一部のスポーツカーを例外とすれば、クルマは総じて静かなのである。
だがこれが、ひとたびバイクの世界になると話は別だから面白い。3気筒やV型2気筒エンジンには独特の振動が発生しており、それが魅力なのだ。ハーレー・ダビッドソンのVツインでは、いまにもエンストしそうなほどに「ストトントン、ストトントン」と響かせるのが粋だという。
「いい三拍子、刻んでますねぇ」
それが最大の賛辞。キャブ車では調整を微妙に悪化させるのが腕の見せ所だというのだから面白い。
単気筒ならばなおさらで、絶えずエンジンは振動源となって車体をブルブルとさせる。これがバイクの魅力だというのだから不思議である。時にはそれを「鼓動」と言って重宝がられるのだ。
マツダのカタログをペラペラとめくると「魂動(こどう)」の文字が目に付く。「鼓動」ではなく「魂動」というデザイン哲学だという。マツダのエンジンはすこぶる良くできているから、不快な振動は無く、いたって紳士的に、静かに回転している。魂動と称するのは、そのデザインなのだ。
「引き算の美学」「余白の豊潤」
マツダのデザインは、そんな“筆さばき”で形にされる。線や突起を極力減らすことで面の美しさを追求し、結果的に芸術作品のような造形美ができあがる。光によってクルマの表情が見えてくる、生命感あふれるダイナミックさまで感じられ、視覚的な雑味などは一切無く、それが人の魂をも震わせる。だから「魂動」なのだ。
クルマとバイクでは、鼓動の概念がこうも変わるものかと、つくづく乗り物とは奥が深いと思う。
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