交通安全教育をしない理由になる? 「3ない運動」は高校生を危険にさらす“呪文”か!?
バイクのニュース / 2023年4月4日 17時0分
日本自動車工業会をはじめとするバイク関係団体は、2030年までにバイク死亡事故を半減する目標を掲げました。運転免許を保有する高校生にも安全教育の対象を拡大し、事故防止につなげたい、と学校教育にも協力を求めるが、そこに立ちふさがるのが「3ない運動」を理由とする生徒指導。バイク関係団体は運動の全廃を求めて各地の教育委員会などと対話をはじめたものの、思うような成果が得られません。なぜでしょうか。
■「隠れ乗り」でも、学外では安全教育を受けられるようにすべきではないか
日本自動車工業会などバイク関係8団体と、経済産業省など行政は、2030年にバイク事故死者数を半減することに取り組んでいます。この目標達成手段のひとつが「安全運転教育を前提とした3ない運動の撤廃」です。
日本自動車工業会をはじめとするバイク関係団体は、2030年までにバイク死亡事故を半減する目標を掲げ、実施施策のひとつとして「一般ライダー向け安全運転教育の充実と啓発」「二輪車利用高校生への安全運転教育の充実と体制強化」「二輪車利用事業者・通勤利用者への安全運転教育の強化」を示している
「3ない運動」は1982年、全国高等学校PTA連合会が全国決議。これを受けて高校教育現場が「免許をとらない、バイクを与えない、運転させない」ことを全国的に徹底し、40年を経過した今でも、全国の約半分の地域で事実上の「3ない運動」が続いているとみられています。一方で、道路交通法は「3ない運動」という強い抵抗を受けても、誰でも16歳から運転免許が取得できることを許してきました。
問題は教育現場がバイクを禁止しても、法律は16歳からの免許取得を許しているため、学校に黙って免許を取得する、いわゆる「隠れ乗り」が後を絶たないことです。この状態で何が起きるか。取材の中でも、ある教師がこんなことを話していました。
「私も教え子をバイクで亡くしている。彼女は気の毒だった」
彼女は、退学した元男子生徒に誘われて学校に無断でバイクに乗るようになった。そこで事故にあった。バイクに乗るような不良にさえ誘われなければ、校則を守っていれば亡くなることはなかった――と同情したのです。
「3ない運動」が続く地域では、高校生免許保持者の事故は、交通事故とは受け止められていません。公安委員会から免許の交付を受ける行為が生徒指導の対象なのです。現代でも場合によっては停学や退学という厳しい処分で問題を沈静化させて、高校生の命を守っている、という姿勢です。
学校現場では教育を荒廃させたバイクブームに対する不信感が、制度として生き続けています。
■「3ない運動」は、交通安全教育をやりたくないための口実か
教育現場が時代の総括を先送りしたまま生徒指導を続ける一方、運転未熟な若年ライダーの死亡事故が、毎年一定数発生することに危機感を抱いているのがバイク関係者です。無免許運転で違法とするのではなく、免許を取得した高校生の全体像を適正に把握し、安全教育をすべきだという主張です。
日本自動車工業会・日髙祥博副会長も「“不都合な真実”と隠せる時代ではない」と話すが――(撮影=中島みなみ)
「3ない運動」を展開する地域の高校生は、免許取得が学校に発覚することを恐れます。「隠れ乗り」のままなので、白昼堂々と乗ることができません。せめて、生徒指導をやめて、学外では免許取得を認めて、生徒が希望する交通安全教育を受けることができれば、社会で必須とされる安全に運転する技術を身に着けて、社会に出ていくことができるのではないかと、バイク業界は提言するのです。
しかし、バイク業界も教育現場と同じように「3ない運動」に囚われています。日本自動車工業会二輪車委員会は次のように話します。
「教育委員会や学校から(日本二輪車普及協会などバイク業界団体に)依頼があれば、(指導員を派遣するなど)対応することができます。個人の依頼はだめです」(安全教育分科会)
「3ない運動」を続けている地域だからこそ「隠れ乗り」が生まれているのに、教育委員会や学校から依頼がないと高校生には安全運転講習ができない、というバイク業界団体の姿勢に矛盾はないのでしょうか。
2022年までの3年間、日本自動車工業会などバイク業界団体は三重、静岡、愛知、山梨、大阪の教育委員会と話し合いを持ちました。しかし、結果は「三重県では検討委員会を開き、バイクに乗る生徒に教育を実施することを決議。教習所協会にご協力をいただけることになりましたが、そのほかの地域では検討委員会の発足も未定です」(前同)
安全に運転することは、社会人に必要な生きる力です。しかし、すでに40年にわたって「3ない運動」は、交通安全教育をしなくてもいい理由になっています。
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