公道用単気筒エンジンの究極形が満喫できる!? ガスガス「ES 700」と「SM 700」
バイクのニュース / 2023年7月29日 11時10分
スペイン発祥のバイクブランド「GASGAS(ガスガス)」がラインナップするストリートモデル「ES 700」と「SM 700」は、排気量697.2ccの単気筒エンジンを搭載するエンデューロモデルおよびスーパーモト(スーパーモタード)モデルです。多くの部品を共有する2台に試乗しました。
■一長一短がある2つのジャンルに、優劣はつけられない
スーパーモータード(スーパーモト、モタード)と呼ばれる車両の多くは、オフロードモデルの派生機種として開発されています。この2つのジャンルには一長一短と言うべきところがあって、安易な優劣はつけられないのですが、私(筆者:中村友彦)の場合は旧車好きで大径&細身のタイヤ好きだからでしょうか、これまではオフロードモデルのほうに好感を抱くのが通例でした。
GASGAS「ES 700」(2023年モデル)に試乗する筆者(中村友彦)
ところが、GASGAS(ガスガス)の「ES 700」と「SM 700」を同条件で比較した今回の試乗では、人生で初めて、スーパーモタードのほうに軍配を上げたくなりました。と言うよりも、残念ながら私の技量では「ES700」は楽しめなかったのです。
■KTM、ハスクバーナの兄弟車
本題に入る前に両モデルの概要を説明しておくと、この2機種はKTMの「690スーパーエンデューロR」と「690SMC R」、そしてハスクバーナの「701スーパーエンデューロ」と「701スーパーモト」の兄弟車で、クロモリ製のトレリスフレームや75psを発揮する水冷単気筒エンジンなど、主要部品の多くを共有しています。
なお、各車の前後ショックはいずれもWP製ですが、シート高は以下の通り差があるので、メーカーによって内部設定が微妙に異なるのかもしれません(単純にシート形状の差異という可能性もありますが)。
GASGAS「ES 700」935mm
KTM「690スーパーエンデューロR」929mm
ハスクバーナ「701スーパーエンデューロ」925mm
GASGAS「SM 700」898mm
KTM「690SMC R」892mm
ハスクバーナ「701スーパーモト」890mm
GASGAS「SM 700」(2023年モデル)に試乗する筆者(中村友彦)
では「ES 700」と「SM 700」の違いは何かと言うと、ひと目で判別できるのは足まわりで、「ES 700」はフロント21/リア18インチのスポークホイール+ブロックパターンタイヤ、「SM 700」は前後17インチのキャストホイール+舗装路に特化したハイグリップラジアルを装備しています。
そしてブレーキに注目すると、「ES 700」がウェーブディスクや片押し式2ピストンのフロントキャリパーを採用するのに対して、「SM 700」のディスクはオーソドックスな円型で、フロントキャリパーは近年の高性能オンロード車の定番になっているラジアルマウント式4ピストンです。
■現代のストリートバイクでは貴重な資質
両モデルに共通する魅力として、私が筆頭に挙げたいのは超刺激的でパワフルなエンジンです。改めて考えると、この2機種と前述した兄弟車が搭載する「LC4」エンジンは、現代のストリートバイクでは貴重な“本気で”動力性能を追求したビッグシングルであり、見方によっては究極の単気筒なのですから、楽しくないわけがありません。
GASGAS「SM 700」(2023年モデル)は前後17インチサイズのキャストホイールを装備するスーパーモタード(スーパーモト、モタード)スタイル。サスペンショントラベルはフロント215mm/リア240mm
なお単気筒でパワーを追求すると、他のエンジン形式より扱いづらさが顕著になりやすい……と私は昔から感じているのですが、「LC4」にそういった気配は皆無、至ってコントローラブルです。
例えば1980~1990年代に流行した国産チューンドシングル、あるいは2000年代前半以前のヨーロッパ製エンデューロレーサー/スーパーモタードマシンなどを知る人が「LC4」を体験したら、あまりの従順さと振動の少なさに驚くことになるでしょう。
一方の車体に関しては、軽快感と安定感を高次元で両立していることが、両モデルに共通する美点と言えそうです。もちろん足まわりの構成は各車各様なので、実際のフィーリングは同じではないのですが、いずれも乗り手の操作に対する反応はすこぶる忠実で、接地感やトラクションといった車体からのフィードバックは潤沢なので、早い段階から人車一体感が味わえます。
ちなみに、かつてのスーパーモタードは前輪の小径化による弊害、フロントまわりのクイックすぎる挙動やブレーキング時の急激なノーズダイブなどに違和感を抱くことが少なくなかったのですが、「SM 700」の乗り味は非常にナチュラルです。誤解を恐れず表現するなら、オーソドックスなスポーツバイク? と言いたくなる感触でした。
■ハードルが高い「ES」と、気軽な「SM」
そんなわけで2台の資質に関心した私ですが、冒頭で述べたように「ES 700」は楽しいという気持ちには至りませんでした。その理由はシートの高さで、今回の試乗では落ち着きの悪さや立ちゴケの不安を解消することができなかったのです。逆に「ES 700」を体験した後にシートが37mm低い「SM 700」に乗ると、思い切ったアクションを気軽に行うことができ、なるほど、自分の技量では「ES 700」の潜在能力を引き出せないのだな……と感じました。
GASGAS「ES 700」(2023年モデル)はフロント21インチ、リア18インチのワイヤースポークホイールを装備する公道走行可能なエンデューロモデル。サスペンショントラベルはフロント/リアともに250mmを確保
もっとも、普段からオフロード車に慣れ親しんでいる人、そしてアドベンチャーツアラーの重さと大きさに不満を抱く一方で250ccクラスのトレール車のパワーに物足りなさを感じている人にとって、「ES 700」は最高の相棒になり得るでしょう。
事実、私の周囲にいるオフロード好きに話を聞いてみると、「ES 700」、「690スーパーエンデューロR」、「701スーパーエンデューロ」の3機種を、“史上最強の林道ツーリングマシン”と称する声が少なくありません。
でもオフロードの腕前が万年中級の私の場合は「ES 700」にハードルの高さを感じ、その一方で究極の単気筒の性能が味わいやすく、ワインディングロードではリッターバイクと互角以上の勝負ができそうな「SM 700」に親近感を抱いたのです。
そして試乗後の私は、KTM、ハスクバーナ、ガスガスの3メーカーで兄弟車を販売するなら、1社くらいはローダウンバージョン、シート高を900mm以下に抑えた仕様を製作してもいいんじゃないか?……と感じたのですが、そういった中途半端なモデルの需要があるのかと言うと、あまり多くないような気はします。
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