EVの静かさは精神状態にも大きく影響する!? ホンダ一般向け電動スクーター『EM1 e:(イーエムワンイー)』試乗
バイクのニュース / 2023年9月20日 12時10分
信号待ちから、音もなく加速。電動ならではの静かさを存分に味わいつつ走行すると、普段よりなぜだか優しい気持ちに。運転がより丁寧になるなど、乗り手のメンタルに対する影響も大きいと、バイクジャーナリストの青木タカオさんは感じました。じつに興味深いところです
■110ccクラス並みのゆとりある車体
ホンダの電動スクーター『EM1 e:』(イーエムワンイー)に乗りました。フロント12インチタイヤを履き、110ccクラス同等のホイールベースとなる車体は、フロアボードが前後330mmと広くフラットで、シートスペースも余裕があります。
ホンダの電動スクーター『EM1 e:』に試乗する筆者(青木タカオ)
ベースとなっているのは、2021年に中国で発売された五羊ホンダ『U-GO』で、軽量で高効率なインホイールモーターを採用。『Honda モバイルパワーパック e:』と名付けられる着脱式可搬バッテリーは、シート下に後傾させて配置。フロア下に配置する『U-GO』に対し、搭載位置を変更しています。
■ガソリン車と比較しても遜色のないスムーズな発進
登録は50cc以下のガソリン車と同じ原付1種(原動機付自転車)。実際に走らせると、30km/hまでの加速感は従来のガソリンエンジンを積む50ccスクーターと極端には変わりません。
ストップ&ゴーをキビキビこなすのは電動ならではと言える
ただし、停止時からの発進はよりスムーズで、アクセルを僅かにでも開ければレスポンス良く加速し、ストップ&ゴーをキビキビこなすのは電動ならではと言えるでしょう。
■環境や周囲の生活に対し配慮している気分が嬉しい!
静粛性の高さは特筆もので、早朝や深夜も気兼ねなく乗ることができ、環境や周囲の生活に対して配慮できていることが、なんだか嬉しくなります。運転がやさしく丁寧になるのは、なぜでしょう。
『EM1 e:』は交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を動力用電源に採用
カーボンニュートラルを目指しモビリティの電動化が進み、さまざまな議論がされていますが、音が静かであることは運転する人の精神状態も変える気がしてなりません。
クルマより車体サイズの小さいバイクの場合、より存在に気づかれにくいといったデメリットもある一方で、地球環境にどれほど貢献しているのか本当のところは分からないにせよ、静かに乗り物を走らせるという行為における運転手の“気持ち”は、大きな排気音を出しているときは明らかに違うのです。
筆者は内燃機エンジンの排気音が大好きですので、それに対する良し悪しを語っているのではなく、精神状態が異なるということをここでは言っています。脳科学などで立証されていないのか、気になって仕方がありません。
■小回りの利く車体
ハナシを戻しましょう。『EM1 e:』は左右各47度の大きなハンドル切れ角とすることで、狭い路地での取り回しや混雑する都会の道も軽快に走ります。
シート高は740mmと低く、足つき性がとてもいい
シート高は740mmと低く、足つき性がとてもいい。車体重量は92kgと『ジョルノ』や『ダンク』より10kg以上重いのですが、重量物を低い位置に配置するなどバランスを最適化しているのでしょう。数値ほどの重さは感じられません。
重さと言えば、およそ10kgあるバッテリーを持ち運ぶときに、取っ手を持つ腕にずっしりときます。電源コンセントが遠いと、大変かもしれないと想像できます。
■30~40km走行で充電が必要
気になるのは航続距離ですが、ゼロから満充電までは家庭用100V電源で約6時間で完了。国土交通省に届けるカタログスペックの30km/h定地走行では53km、アクセルのON/OFFを加味し、実際の走行により近いWMTCモードで41.3kmとなっています。
電力消費の少ない「ECONモード」に切り替えると、スロットル操作に対するモーター出力がよりマイルドになり、バッテリー消費を抑えることができる
補足すると、30km/h定地走行は体重55kgの人が30km/hで一定走行した場合。WMTCモードは体重75kgのライダーが加減速を繰り返すもので、欧州での届出値となります。
モード切替機能が備わり、電力消費の少ない「ECONモード」に設定すると、スロットル操作に対するモーター出力がよりマイルドになって、バッテリー消費を抑えることができます。
開発責任者の後藤香織さん(本田技研工業株式会社電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部)によれば、「STDモードに対して、一充電あたり約15%航続距離を伸ばすことができ、初めて二輪に乗る方でも扱いやすくスムーズな出力特性になります」とのこと。
開発責任者の後藤香織さん(本田技研工業株式会社電動事業開発本部 二輪・パワープロダクツ電動事業開発統括部)
メーターでバッテリーの減り方を見ながら都内を走りましたが、早めの充電を心がけたとしても片道15km往復30kmくらいなら不安なく走れるのではないでしょうか。
また、静粛性に優れる電動バイク。開発責任者の後藤さんは「振動やきしみ音が気になりやすいので、ガソリン車以上に配慮しました」と教えてくれました。
■従来はビジネス向けのみ
もはやEVと聞いても、驚く人は少なくなったでしょう。
「ベンリィ e:」に試乗する筆者(青木タカオ)
これまで『PCXエレクトリック』であったり、『ベンリィ e:』などをココでも紹介してきましたから、新型が登場しラインナップが拡充したんだなって思う程度かもしれません。
しかし、従来とはちょっとだけ違うのです。じつはこれまでのホンダ電動二輪車たちは、企業や個人事業主に向けたリース販売であるなど“ビジネス向け”モデル。対して新型の『EM1 e:』は、ホンダでは国内初となる一般向け市販電動バイクとなります。
■国内でいち早く電動バイクを量産
そもそもホンダは、国内でいち早くEVバイクを販売しています。環境負荷低減を目指し、1994年3月10日、官公庁や地方自治体などに限定200台で発売したのが「CUV-ES」(シーユーヴィ・イーエス)でした。
官公庁や地方自治体などに限定200台で発売した電気スクーター「CUV-ES(1994)」
価格は85万円をベースに、3年間のリース販売方式。当時の『ディオ』をベースに、フロアステップ下にニッケルカドミウムタイプ(86.4V-20Ah)いわゆるニッカド電池を積み、フル充電8時間で狐族可能距離は61km(※30km/h定地走行)としていました。
先進性を主張するかのように“電気スクーター”と車体側面にあり、電気プラグのイラストが施されています。販売数が少なかったこともあり、一般の人が目にする機会はほとんどありませんでした。
2009年には『EV-neo』(イーブイ・ネオ)、そして2018年の『PCXエレクトリック』は日本だけなく東南アジア各国向けにリース販売。2022年5月に生産を終了しています。
ビジネス用電動二輪車「BENLY e:」、ビジネス用電動三輪スクーター「ジャイロ e:」、屋根付き電動三輪スクーター「GYRO CANOPY e:」
そして、2019年には法人企業向けにビジネス用電動二輪車「BENLY e:」を発表。また、2021年にビジネス用電動三輪スクーター「ジャイロ e:」、屋根付き電動三輪スクーター「GYRO CANOPY e:」が発表されました。
■なぜビジネス用だけだった?
一般ユーザー向けは今回の『EM1 e:』が初となりますが、開発責任者代行の内山 一(はじめ)さん(本田技研工業株式会社二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部)は「過酷な使用用途のビジネス領域から電動化し、使用状況や使い勝手、交換式バッテリーの有用性について知見を積みたかった」と、振り返ります。
開発責任者代行の内山 一さん(本田技研工業株式会社二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部)
48V系の電力を三相交流に変換してモーターへ供給するEVシステムをはじめ、交換式バッテリー『Honda モバイルパワーパック e:』の普及に向けた取り組みをはじめ、使用済みバッテリーを全て責任をもって回収し、リサイクル、リユースなど再活用するなど、販売後も考えた体制を着実と構築してきました。
■補助金が利用できる
『EM1 e:』の車両本体価格は29万9200円で、内訳は車両本体が15万6200円、交換式バッテリーが8万8000円、そして専用充電器が5万5000円です。同じホンダの50ccスクーター『タクト』が17万9300円~、『ダンク』が22万9900円であることを考えると、割高なイメージを抱くかもしれません。
国の補助金を購入後の申請で利用できる『EM1 e:』
しかし購入後の申請により、国の補助金として次世代自動車振興センターによる「CEV補助金」や一部の地方自治体による補助金が利用でき、たとえば東京都に住んでいる場合は実質約24万円で購入可能となります。
詳しくは「Honda二輪EV取扱店」で。デザインも都会的で洗練されていますし、新しいものが好きな人にはたまらないはずです!
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