未来のバイクデザイナー育成プロジェクト 『第11回 二輪デザイン公開講座』が開催
バイクのニュース / 2023年9月26日 7時10分
バイク人気再燃とも言われる昨今、実際にユーザー数も増加傾向にありますが、仕事としてのバイク業界は魅力的ではないようです。バイクメーカーにとっても、人材不足は頭の痛い問題なのだそうです。今回紹介する『二輪デザイン公開講座』は、バイクデザイナー育成を目的としたリクルートイベントです。ですがその内容と志は、ありがちな労働力の青田刈りとは全く異なります。バイク産業に関わる人々の、バイクへの愛情が感じられるイベントなのです。
■バイクの未来を守るため、若い才能の発掘を目指す
2023年8月24日、25日の2日間、新潟県の長岡造形大学で公益社団法人 自動車技術会 デザイン部門委員会が主催する、『二輪デザイン公開講座』が開催されました。この講座は、美術系大学でインダストリアルデザインを学ぶ学生を対象にして、バイクのデザイン工程で実際に行なわれている作業を体験してもらい、将来の進路にバイクデザイナーという仕事を加えてもらうことを目的としたイベントです。
『二輪デザイン公開講座』の模様。受講生は4グループに分かれ、用意された4つの課題すべてに取り組めるようスケジュールされています
自動車技術会は、バイクや四輪車に関わる研究者や技術者を中心にして構成されている学術団体です。モビリティの技術発展により、生活を豊かにすることを目的としており、国内全てのバイクメーカーも企業会員として名を連ねています。
その自動車技術会が、なぜ二輪デザイン公開講座というイベントを開催しているのか。そこには日本のバイク産業が抱える、思わしくない現状があるのです。
日本は世界一のバイク大国であり、バイク産業は日本の基幹産業のひとつです。ですが、現在バイクメーカーで働こうと考える若者は減少傾向にあります。このままでは、日本のバイク産業は成り立たなくなってしまいます。バイク産業への人材流入の手立てを考えねばなりません。
そこで、自動車技術会の部門のひとつである、デザイン部門委員会が立ち上げたのが二輪デザイン公開講座です。今年で11回目の開催となるこの講座、すでに過去の受講生の中から少なからぬ人数がバイクメーカーに就職し、若手バイクデザイナーとして活躍しています。自動車技術会の努力は、確実に身を結びつつあるのです。
『第11回 二輪デザイン公開講座』に参加した受講生の皆さん。この中から新たなバイクデザイナーが誕生するに違いありません
今回の受講生は24人。対象としているのは美術系大学生で、基本的にまだ進路が確定していない1年生、2年生です。また、会場での受講が叶わなかった学生のために、リモートでの受講も可能とされていました。
参加者はバイクデザイナーを志している人から、興味本位で参加した人まで様々です。バイクには全く興味がないという人まで参加していました。ですが、講座を終了する頃には、どの受講生もバイクデザインは面白いと口を揃え、バイクという乗り物そのものにも興味を抱くようになっていたようです。それも、内容の濃い講座のカリキュラムと、運営スタッフの熱意の賜物でしょう。
カリキュラムは、手描きでバイクをスケッチする「フィジカルスケッチ」、パソコンと画像編集ソフトを使用する「デジタルスケッチ」、二次元のデザイン画を立体化する「クレイモデリング」、バイクのカラーリングや仕上げを考える「CMF」の4つです。
それぞれひとつの課題を完成させるもので、ひとつの課題について2時間で仕上げます。どれも専門的な内容なので、実際の業務レベルの課題では学生が体験するには難易度が高く、作業内容の一部分を切り出した形に調整されていました。それでも、未経験の作業は難しいようで、受講生たちは皆真剣に取り組んでいました。
黒いTシャツを着用しているのがインストラクター。懇切丁寧にレクチャーしながら、プロの華麗な技も披露していました
各カリキュラムのインストラクターを務めたのは、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーと、国内きってのインダストリアルデザイン会社であるGKデザインの現役バイクデザイナーの皆さん。運営もバイクメーカーやそのOB、美術系大学の教員が行なっています。
そのスタッフ数は、参加者の倍ではききません。手弁当で協力している会員もいますし、バイクメーカーはもちろんのこと、バイク産業に関わる多くの企業も協賛しています。
二輪デザイン公開講座からは、日本のバイク産業の火を消してはならないという、関係者の熱い想いが感じられます。
実車を目にして、興味津々な様子の受講生の皆さん。バイクに乗ったことがないという受講者も多かったのですが、講座を受講しバイクに触れたことで、バイクの免許を取る! と宣言した人もいました
もちろん、産業としての重要性、自らの仕事を守るという部分もあるでしょう。ですが、現場の熱気に触れ、スタッフと言葉を交わす内に確信したのは、二輪デザイン公開講座に関わる人は、皆バイクが大好きであるということです。日本のバイク産業は、バイクを愛する心で支えられています。取材(筆者:淺倉恵介)を通じて、そのことを強く感じました。
日本人ライダーとして、日本のバイク産業を応援したい。改めてそう思わせてくれたイベントでした。きっと、今回の二輪デザイン公開講座からも、新たなバイクデザイナーが誕生するに違いありません。
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