東京都世田谷区が独自に行なう「初めての子育て自転車安全講習」に見る安全への願い

子供と一緒に出掛けることができる子乗せ自転車は、子育て中の保護者にとっては心強い味方です。しかし、安全に利用するには正しい知識や交通ルールを知ることが重要です。子乗せ自転車をこれから利用する保護者を対象に、東京都世田谷区が実施している自転車安全講習を取材しました。

■毎日使うものだからこそ油断しない

　手軽に使えて徒歩よりも行動範囲が一気に広がる自転車は、幼稚園・保育園の送り迎えや、子供を連れてのお買い物、少し遠くの公園に出かける時など、子育て中の家庭にとっては日常生活に欠かせない力強い味方です。

会場には電動アシスト自転車の「子乗せ自転車」が用意された

　ただ「しょせん自転車」と思ってしまうと、そこに大きな落とし穴があります。これまでに乗ったことがない「子乗せ自転車」は、フレームの形状や、子供を乗せた状態でのバランスの取り方など、独特の操作方法や乗り心地を知っていないと、思わぬ事故に発展する可能性があります。

　そんな子乗せ自転車の安心・安全な利用のために、独自の取り組みを行なっているのが東京都世田谷区です。区が各所の子育て支援施設と共同で、子乗せ自転車にこれから乗り始める、また乗り始めたばかりの保護者を対象に行なっています。「初めての子育て自転車」という自転車安全講習で、話を聞いてきました。

これから子乗せ自転車を利用する保護者に向けて、交通ルールや自転車についての解説などがあった

　今回の会場となったのは、馬事公苑に隣接するけやき広場という並木道です。この日は10組ほどの親子連れが講習に参加していました。子供たちの楽しそうな笑い声が響くなかで、紙芝居形式で交通ルールや子乗せ自転車の種類を解説する座学と、実際に子乗せ自転車を試乗する体験会が開催されました。

　試乗会では、昨今の子乗せ自転車の主流となっている電動アシスト自転車（e-BIKE）の主要3メーカー（パナソニック、ヤマハ、ブリジストン）の各車両が用意され、参加者が各メーカーの特徴を乗り比べながら、実際の乗り心地を体験。自転車に乗るのは学生以来の人や、初めての電動アシストに戸惑う人など、和気あいあいと楽しそうに自転車に乗りながらも、これからの子育て生活を支えてくれる子乗せ自転車について、真剣に学ぼうとする姿勢が印象的でした。

自転車安全利用推進員の資格を持つスタッフより、子乗せ自転車の操作方法や乗り方などが細かく説明された

　そして驚かされたのは、試乗会には区内の自転車店から自転車安全利用推進員の資格を持ったスタッフが参加し、参加者たちに子乗せ自転車の操作方法や乗り方などを細かく説明していた点です。

　自転車屋は利用者が安心して自転車に乗れるように販売・整備などを行ないますが、自転車の安全利用を普及促進させることも重要な役目のひとつです。そのことを思い出し、頭の下がる思いでした。

　ちなみに、ほかの区でも自転車安全講習は行なわれていますが、主に警察署の交通課が主催するもので、区と子育て支援施設が共同で子乗せ自転車の自転車安全講習を行なっているのは世田谷区だけだそうです。その背景には、減ることのない自転車事故があります。

各メーカーの子乗せ自転車に試乗できる体験会が行なわれた

　担当者の方に話を聞くと、残念ながら世田谷区は交通事故・自転車事故の発生件数が2021年に都内ワースト1位になってしまうなど、深刻な状況を抱えているそうです。しかも、ほかの区では自転車事故に遭うのは比較的高齢者が多いそうですが、世田谷区では20代から40代の、子育て世代を含む若い層が半数を占めているそうです。

「ルールや使い方さえ知っていれば事故は防げる」と担当者が強調する通り、まずは自分が乗る自転車の特性や扱い方を把握し、交通ルールや道路の流れを知ることが重要ということでしょう。

　世田谷区では今後もこの活動を継続し、不定期ではありますが年に20回ほどの開催を予定しているそうです。

　一件でも痛ましい事故が減るように……という願いが込められたこの活動が注目され、今後も広がることを願うばかりです。