ホンダ初のスクーター「ジュノオK型」は雨でも濡れずに乗れる画期的な“2輪乗用車”だった
バイクのニュース / 2023年10月30日 19時40分
1954年に発売されたホンダ「JUNO K(ジュノオK型)」は、世界的に見てもユニークな最新の技術と素材で作られた、豪華な“2輪乗用車”でした。ローマ神話の女神「JUNO(ジュノオ)」の名を冠した美しいボディラインのスクーターを紹介します。
■第2次スクーターブームに新登場、世界初のセルモーターにFRPボディとは!
スクーターの歴史を紐解いてみると、1910年代に前輪にエンジンを装備したキックボード風の2輪車が始まりとされています。その後、1920年代にエンジンが後輪上に設置されたスクーターがヨーロッパで流行するも、第1次世界大戦の影響もあり、一旦収束します。
1954年に発売されたホンダ初のスクーターモデル「ジュノオK型」は、排気量189ccの空冷4ストローク単気筒エンジンと3速マニュアルミッションを搭載していた
次の流行は1946年に発売されたイタリア製のスクーターから始まります。同時期、日本メーカーも第2次世界大戦時に米軍兵が持ち込んだ車両を模倣してスクーターの生産を開始します。戦争後の復興の足として、あるいはより気軽な庶民のコミューターとして人気となり、世界的に第2次スクーターブームとなりました。
1950年代には、日本でも約10社の2輪メーカーからスクーターが発売されました。年間10万台以上が生産され、スクーター市場が膨らみ切ったタイミングの1954年1月に、ホンダは満を時して同社初のスクーターモデル「JUNO K(ジュノオK型)」を発売します。
ホンダはスクーター市場参入にあたり、独自のデザインとともに新しい機能と技術、さらに新素材などを満載し、斬新で独創的、かつ豪華なスクーターを目指しました。
雨風だけではなく眩しい太陽光からもライダーを守る、全天候型風防を装備していた
「ジュノオK型」では、「ドリームE型」で採用した排気量189ccの空冷4ストロークOHVエンジンと、マニュアルミッションの3段変速機を採用しています。そして2輪車では世界初となる、エンジン始動用セルモーターを採用した点も注目です。
豪華装備の「ジュノオK型」は、全天候型の大型風防を装備していました。3枚の透明アクリル樹脂パネルで雨風や太陽光の眩しさを防ぎ、ライダーを守る構造となっています。
また何と言っても、最大の特徴はその造形美です。ボディパネルにはFRPを使用し、独創的なスタイルを実現しています。FRPはポリエステルとグラスファイバーによる強化プラスチックです。当時の最も新しい科学素材で、乗用車ではアメリカのスポーツカーに世界初採用されたばかりでした。大量生産技術はまだ発展途上で、原料はアメリカから輸入していました。
ハンドル下のダッシュボート部分にラジオの装着も可能とした。まさに“2輪乗用車”的な発想
車体にはウインカーが採用され、手による右左折の合図が不要となりました。「ダッシュ」と呼ばれたハンドル周りには、オプションでラジオを装備することもできます。見栄えが良く、豪華装備の「ジュノオK型」は、まさに“2輪乗用車”と呼べるほどの出来栄えだったのです。
スクーターの歴史の中では、バイクとは異なる2輪乗用車的な方向を目指し、その特徴を売りにしたスクーターは何種類もありました。「ジュノオK型」の到達点は、最も乗用車に近い2輪車であり、当時のホンダの思想や技術が色濃く反映されています。
一方、苦労して開発したFRPの生産技術でしたが、軽量化するはずのボディパネルは予想以上に重く、大型風防などの重さも影響して車両重量は170kgにもなりました。その重量に対してエンジンの最高出力が7.5HPではさすがに非力で、走りも軽快とは言えなかったようです。放熱性の低いFRPボディに囲まれていることもあり、オーバーヒートが頻発しました。
テールセクションを見ると、フィン形状のウインカーデザインや、アイアンバンパーが乗用車的
また、当時からスクーターは自動変速が好まれており、「ジュノオK型」のクラッチ操作はユーザーに煩わしいと敬遠されたようです。
モデルチェンジ後の「KA型」からは、エンジンが排気量220ccの最高出力9HPとなり、装備を簡素化した「KB型」の車両重量は160kgとなりましたが、当時のスクーターブームには乗り切れず、1年半の生産期間で累計販売台数は5856台、当時の販売価格は18万5000円でした。
1961年11月には、その後継機として排気量124cc、後に169ccの水平対向2気筒エンジンを搭載し、価格を初代より下げた、再びホンダらしい機能満載の「ジュノオM型」が発売されました。
■ホンダ「JUNO K」(1954年型)主要諸元
エンジン種類:空冷4ストローク単気筒OHV
総排気量:189cc
最高出力:7.5HP/4800rpm
最高速度:70km/h
変速機:3段変速
全長×全幅×全高:2070×800×1025mm(全高は風防を含まず)
車両重量:170kg
燃料タンク容量:7.6L
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
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