1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ

加速度的に進化するヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」 そこから広がる可能性

バイクのニュース / 2023年10月27日 19時40分

ヤマハは電動トライアルマシン「TY-E 2.2」を、『ジャパンモビリティショー2023』で展示しました。2023年シーズンの全日本トライアル選手権シリーズに、黒山健一選手とともに参戦中の車両です。2018年から世界選手権、今季は全日本を戦う「TY-E」は、どんな進化を遂げてきたのでしょうか。そして、そのテクノロジーはどこに、どのように反映されているのでしょうか。

■実戦で培ってきたノウハウが、電動ならではの進化を続ける

『ジャパンモビリティショー2023』のプレスデー(10月25日)に行なわれたヤマハのプレスブリーフィングは、ライダーが操るバイクが中央ステージに登場する演出から始まりました。ステージを囲む報道陣たちの手前でブレーキングしたかと思えば、ステージ奥に設置されたセットを駆け上がる──。トライアルライダー黒山健一選手とヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」によるデモンストレーションです。人馬一体となってひらひらと「TY-E 2.2」を走らせる黒山選手のパフォーマンスに、バックミュージックが響きます。東京ビッグサイトという屋内で披露されたそれは、間違いなく電動トライアル車ならではのパフォーマンスでした。

トライアルライダー黒山健一選手とヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」によるデモンストレーション。東京ビッグサイトの屋内ステージで華麗な技を披露したトライアルライダー黒山健一選手とヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」によるデモンストレーション。東京ビッグサイトの屋内ステージで華麗な技を披露した

 そんなデモンストレーションを披露したヤマハの電動トライアルマシン「TY-E」について確認しましょう。

 そもそもは、ヤマハの研究開発統括部で業務のうちの5%を利用できる「Evolving R&D」活動のひとつで、それがプロジェクト化されて生まれたのが「TY-E」です。

 レースへの参戦は2018年が初年度。トライアル世界選手権併催の「Trial E Cup」に黒山選手とともに参戦し、フランス大会では優勝を飾りました。2019年も参戦しましたが、2020年、2021年は休止しています。

 2022年はトライアル世界選手権Trial2クラスに参戦。このシーズンから「Trial E Cup」はなくなり、内燃機関のマシンと混走になりました。

ヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」ヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」

 2023年シーズンは全日本トライアル選手権に初めて電動マシンをエントリーさせ、国内最高峰クラスであるIAスーパークラスに、内燃機関のマシンと混走の形でフル参戦しています。なお、2018年、2019年までは「TY-E」、2022年は「TY-E 2.0」、2023年は開幕戦から第4戦までが「TY-E 2.1」で、第5戦北海道・和寒大会から「TY-E 2.2」が投入されました。

 レーシングマシンのため、当然ながらシーズンのたびに細かなアップデート、あるいは技術規則に合わせた変更があるわけです。

■軽量化よりフォーカスしたもの

 今回、そんなヤマハの電動トライアルマシンについて話を聞きました。伺ったのは、ヤマハ発動機MS統括部MS戦略部レース支援グループ主査、また、ヤマハ・ファクトリー・レーシングチームの監督を務める佐藤美之さんです。

ヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」は、2023年シーズンの全日本トライアル選手権第5戦北海道大会から投入されたヤマハの電動トライアルマシン「TY-E 2.2」は、2023年シーズンの全日本トライアル選手権第5戦北海道大会から投入された

「初期の2018年、世界選手権でデビューした時から比べると、フレームが大幅に変わりました。また、モーターユニット関係とバッテリー。大きく分けると、この3つがアップデートされたという形です」

 佐藤さんは初期型からの進化についてそう語ります。アップデートに関して最も改善されたのは、航続距離の向上を目的としたバッテリー性能でした。なお、バッテリーについては「TY-E」が1個搭載だったところ、「TY-E 2.0」から2個搭載になっています。

「トライアルは1日2回レースがあります。2018年型では1ラップ10セクションの途中でバッテリーの交換をしなければならなかったのですが、現行マシンに関しては、バッテリー性能が向上したことで、バッテリーを交換しなくても1ラップを戦えるようになりました。というのも、世界選手権では2019年からバッテリーを途中で交換してはいけない、というレギュレーションになったからです。そのために交換の必要がないよう、バッテリー性能を上げました」

 今回はパワーの向上もひとつの改善ポイントで、軽量化ではなくあえて出力向上にフォーカスしたということです。

 現在、多くの電動バイクが抱える課題のひとつに車両重量があります。それはレースマシンであっても同様で、例えばロードレース世界選手権MotoGP併催の電動バイクレース『FIM Enel MotoE World Championship』のワンメイクマシン、ドゥカティ「V21L」は、レーシングマシンでありながら車両重量は225kgです。参考までに、同等の車格を持つMotoGPマシンは、最低重量が157kg。スーパーバイク世界選手権は168kg。これらを比べれば、電動マシンの車両重量の課題に思い至ることができます。

トライアルは高い壁や岩などを駆け上がっていくこともあり、コンポーネントが下部になりすぎると障害物に当たってしまう。しかし重心はできるだけ下部に置きたい。モーターユニットなどはほとんど隙間なく配置されているトライアルは高い壁や岩などを駆け上がっていくこともあり、コンポーネントが下部になりすぎると障害物に当たってしまう。しかし重心はできるだけ下部に置きたい。モーターユニットなどはほとんど隙間なく配置されている

 ここで疑問が浮上します。トライアルとは、ロードレースのように速さを競うのではなく、岩や大木などの障害物をバイクに乗ったまま、いかに足を着かずに乗り越えていくか、という競技です。より軽量なマシンが求められるはずですが、それよりも出力向上に重点を置いたのはなぜだったのでしょうか。

 これにはレーシングマシンならではの、そして黎明期の電動レースらしい背景がありました

「2019年までは世界選手権に電動クラスがあったのですが、2022年からなくなってしまったのです。エンジン車との混走になったことで、エンジンと電動の真っ向勝負になります。よって、エンジンと戦えるモーターユニットを作らなければならない、という話になり、エンジン車と戦っていけるようにモーターユニットを開発してきたのです」

 また、電子制御についても改善が進んでいます。「ライダーの感性とマシンの特性を合わせる適合が、特に電動マシンには必要不可欠です」と、佐藤さんは語ります。

「レース会場には電子制御専門のスタッフがいるほどです。TY-E 2.2はギアが付いていないので、オートマチック車のようにスロットルを開けるとマシンが前進します。電動はエンジンと違って一気にトルクが出るのですが、こういう軽い(トライアル)バイクだと、完全に立ってしまうほどのパワーが出るんです。(ライダーの)アクセルコントロールに加えて、機械の制御によってさらにその出力を滑らかにしているんです」

「選手が坂を上るとき、1回なのか、2回に分けて上りたいのか。そのときのアクセルコントロールとリアタイヤの回転がどれだけ一致するか、が重要になるんです。ライダーの感性とマシンの特性を合わせるのが、電子制御です」

「また、電動マシンはガソリン車と違って、だんだんエネルギーが小さくなっていくのです」と、佐藤さんは電動マシンならではの難しさにも言及しました。

 内燃機関マシンの場合、ガソリン量の減少により重量が変わり、走りに影響が出ることはありますが、電動マシンの場合はそうではありません。バッテリー残量が減るとパワーも落ちていきます。一般的に、電動バイクの場合、バッテリー100%の状態と20%の状態では、同じようにアクセルを開けても得られるパワーは同じではないのです。

「トライアルのように高い坂を上っていかないといけない競技では、バッテリーの残量に左右されます。それから、バッテリーが高温になると性能を出しにくくなる、ということもあります。電動にはそういう難しさがありますね」

■黒山選手も驚く、「TY-E 2.2」の進化

 電動トライアルマシンとともに全日本トライアル選手権シリーズを戦う2023年シーズンで、第5戦から「TY-E 2.2」を駆る黒山選手は第7戦を終え、現在ランキング3番手。第4戦和歌山・湯浅大会では全日本史上初めて電動マシンによる2位表彰台を獲得し、以降、4戦連続で表彰台に立っています(第4戦まではTY-E 2.1を使用)。

ヤマハのプレスブリーフィングで披露された、黒山選手のパフォーマンスヤマハのプレスブリーフィングで披露された、黒山選手のパフォーマンス

 じつは、佐藤さんは「最初はかなり厳しいだろうと思っていた」と言います。しかし実際には、良い意味で予想を裏切る好結果。これには「TY-E」を初期の2018年から走らせてきた黒山選手による電動マシンへの適応と、加速度的に進んでいる開発も一因にあるとのことです。

「去年、世界選手権フランス大会に行ったとき、エンジン車に敵わなかった。結果が厳しかったんですね。それを踏まえると、今年、全日本ではそう簡単に勝てないだろうとは思っていたんですが、開発がかなりのスピードでマシンを開発してくれたんです。選手も電動マシンに慣れてきて、我々が思っていた以上の成績を収めています。チーム一丸となって、黒山選手に勝てるマシンを提供しようと、開発が急ピッチでマシン性能を上げてくれたことと、黒山選手が慣れてくれたということでしょうね」

「エンジン車のときは、どちらかと言えば戦略部の中で(開発を)していました。しかしこのTY-Eに関しては、開発の担当者がバッテリー担当、モーターユニットを担当する人などに分かれていて、そういう人たちがみんなでひとつひとつをつくり、アップデートしようとしてくれているのです。だから、スピーディに進化しました。黒山選手もびっくりするくらいのマシン進化、アップデートがありました」

「TY-E 2.2」のモーターユニットが搭載された電動ミニバイク「E-FV」「TY-E 2.2」のモーターユニットが搭載された電動ミニバイク「E-FV」

 ヤマハは2023年からの3年間で、「TY-E」でチャンピオンを獲得すると宣言しています。そうしたモータースポーツとしての成功のみならず、得られた知見はヤマハの各カテゴリーへ投入されているのです。

 例えば、初期の「TY-E」に使用されていたモーターユニットは電動スクーター「E01」に投入され、最新型の「TY-E 2.2」のモーターユニットは、新たなプロジェクトとして誕生した電動ミニバイク「E-FV」に搭載されています。

「開発と戦略側としては、開発されたパーツ、モーターユニット関係も、いろいろなところに提供できるようにしたいと思っています」と、佐藤さんは語っていました。この「TY-E」から、ヤマハの電動バイク(あるいはモビリティ)の世界はさらに広がっていくのでしょう。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください