バッテリーのシェアリングサービスにも採用される「Honda Mobile Power Pack e:」 今後の課題とは
バイクのニュース / 2023年11月2日 12時0分
2023年10月26日から11月5日まで、東京ビッグサイトで開催の「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースでは「Honda Mobile Power Pack e:」が展示されました。着脱、持ち運びが可能なこのバッテリーは現在第2世代目。今後どのような進化が必要なのでしょうか。
■交換式バッテリーの普及に向けた、長い道のり
「ジャパンモビリティショー2023」のホンダブースで展示された「Honda Mobile Power Pack e:(ホンダモバイルパワーバッテリーイー)」は、主にホンダが開発し、内部のバッテリーシステムや電池についてはホンダとLGとの共同開発により、着脱、持ち運び可能なバッテリーです(着脱式可搬バッテリー)。第1世代は2000年初頭に生まれ、たとえば企業や個人事業主、官公庁限定のリース車両だったホンダの電動スクーター「PCXエレクトリック」に搭載されました。「ジャパンモビリティショー2023」で展示されている「Honda Mobile Power Pack e:」は第2世代となり、量産化に向けたものはこの4~5年で開発されたそうです。
ホンダの市販電動スクーター「EM1 e:」(原付1種)には、「Honda Mobile Power Pack e:」を1個搭載する
「Honda Mobile Power Pack e:」は、現行のラインナップとしては、原付1種の電動スクーター「EM1 e:」に搭載されています。
また、2022年4月1日には電動バイクの共通仕様バッテリーのシェアリングサービスと、そのためのインフラ整備を目的とする会社「Gachaco(ガチャコ)」が、エネオスホールディングス、本田技研工業、カワサキモータース、スズキ、ヤマハ発動機によって設立され、「Gachaco」の共通仕様バッテリーとしても採用されています。
こうしたバッテリー交換システムを使うことで、充電時間のロスと短い後続距離という電動バイクの弱点をカバーすることができるでしょう。とはいえ、今後の電動バイクの普及や利便性の向上にはバッテリーの性能向上が必要であることは間違いありません。
第1世代から第2世代への改善点について、「容量やサイズ。それから持ちやすくなってもいます」と、答えてくれたのは本田技術研究所先進パワーユニット・エネルギー研究所PUシステム開発室第1ブロックアシスタントチーフエンジニアの小山博史さんです。
「耐久性もひとつの観点になっています。モビリティに搭載すると振動もありますし、充電も繰り返します。様々な過酷な環境にさらされますので、そういったなかで、しっかり稼働できるように開発されたものです。(バッテリーを)長く使えるほど、お客様にとってメンテナンスなどのコストメリットも出てきます。そういった観点からも、耐久性はとても大事なところだと思います」
ホンダブースに展示されたバッテリー交換ステーション「Honda Mobile Power Pack Exchanger e:」(ジャパンモビリティショー2023)
モビリティのEV化を考えたとき、今のバッテリーには容量やサイズといった課題があります。今後の開発では容量を増やすことはもちろん、「情報をいかに使うか」だと小山さんは言います。
「バッテリーの中に入っているユーザー情報、例えば走行距離や、どういう使われ方をしているかなど、そういう情報をシステムとして使い、お客様にどういうサービスで提供できるのか、というところまで考えるか。そこがミソかなと思っています」
「このHonda Mobile Power Pack e:の特徴ですが、単なる電池ではなく、脳みそが積まれているようなイメージなのです。情報を取り出し、ホンダテクノロジー、クラウドでそういったシステムを管理し、サービスを提供できるのも、ひとつのメリットです」
また、汎用性の高さも求められることのひとつでしょう。前述のように「Honda Mobile Power Pack e:」はバッテリーのシェアリングサービスに採用されています。
たとえば、同会場でスズキが参考出品している電動スクーターの実証実験車「e-BURGMAN」では、「Gachaco」を利用することが想定されており、「Honda Mobile Power Pack e:」を搭載しています。ヤマハも、3月中旬に行なわれた次世代電力ネットワークの展示会「第13回国際スマートグリッドEXPO 春」で、同バッテリーを搭載したパーソナルモビリティのコンセプトモデル「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」を展示しました。ホンダの着脱式可搬バッテリーには、メーカーの垣根を超えた互換性が必要ということになります。
バッテリー交換ステーションで使用可能なバッテリーは、ライトの点灯で分かるようになっている
「バッテリーは使われるモビリティで要求値が変わってきますので、バッテリー単体の問題ではありません。各メーカーにそれぞれのモビリティがあり、大元の使う側に応えないといけない。要求値がたくさんあるのが、難しいところかなと思います。
耐久性ひとつとっても、ホンダはこの振動でよかったけど、ヤマハさんはこの振動じゃなきゃだめだとか。もとの要求が変わってくると、全てに合わせこむ、というのは最大公約数をとることになりますので、難しいとは思いますね」(小山さん)
高い汎用性が求められるバッテリー。それは、ハイレベルな走行性能よりも利便性が重要視されるスクーターなどであれば、確かに「交換式バッテリー」というスタイルはひとつの最適解かもしれません。
ただ、趣味性の高いバイク、例えばスポーツタイプやネイキッドなどに搭載されるバッテリーとしては、疑問が浮かびます。より走行性能が求められるバイクには、そのバイクのためのバッテリーが必要になるはず……。
市販化に向けて開発中の電動スクーター「SC e: Concept」(原付2種)が、「ジャパンモビリティショー2023」で世界初公開された
今後、スポーツタイプやネイキッドの電動バイクにこの「Honda Mobile Power Pack e:」が搭載される可能性はあるのでしょうか? と質問すると、回答は「名言はできません……」というものでした。
「ゼロではないと思うのですが、お客様がどちらの方が使いやすいのか、ということを考えながら、商品を提供できればと思っています」
専用バッテリーが搭載される可能性もある、と考えて良さそうです。
「今後に向けてバッテリーの容量を大きく、重量を軽くするために、今、何がネックなのでしょうか?」と質問すると、「両方あると思います」と小山さん。
あくまでも小山さん個人の見解では、バッテリーが内燃機関のバイクと同等の電費を発揮するためには「相当時間がかかるのではないかと思いますね。エネルギー密度が全く違うからです」と語っていました。
バッテリーは今後、どのような進化を遂げるのでしょうか。「Honda Mobile Power Pack e:」をはじめ、ひとつの方法としての交換式バッテリーに、今後も注目です。
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