ヤマハが高校生とつくる電動スクーター「ELOVE」は、ユーザーも作り手という考え方
バイクのニュース / 2023年11月6日 19時40分
2023年10月25日から11月5日まで、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンモビリティショー2023」で、ヤマハが展示した「ELOVE(イーラブ)」は、ユーザーとともに開発された、新しい「つくりかた」を経た電動スクーターでした。
■原付スクーターで通学する、離島の高校生たちと共創
2023年10月25日から11月5日まで、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンモビリティショー2023」で、ヤマハが展示した「ELOVE(イーラブ)」は、ユーザーとともに開発された新しい「つくりかた」を経た電動スクーターでした。
「ジャパンモビリティショー2023」のヤマハブースに展示された電動スクーター「ELOVE(イーラブ)」(参考出展車)
二輪車安定化支援システム「AMSAS」を搭載し、フレームも含め、ほぼ全てこのバイクのために設計されています。ヤマハのブースでは、プロ車いすテニスプレーヤー眞田卓選手や、鹿児島県立沖永良部高等学校の生徒たちがヤマハと共創した、珍しい方法で作り上げられたモデルも展示されました。
「ELOVE」のデザインを担当したGKダイナミクスデザインディレクターCMFG動態デザイン部 (兼)経営企画部ブランドデザイン課の永井智さんに、この電動スクーターのデザインの出発点とゴールを聞きました。
「“未来は踏み出す勇気で変えられる”というのが、このプロジェクトのコンセプトの一部であり、AMSASという倒れにくい技術を使うことで、2輪に乗ることができなかった人たちや、乗るのが難しかった人たちも、2輪に乗ってもらえるものを作りたい、というのがスタートでした」
「また、ものづくりの方法として、今まではメーカーが作ったものをユーザーはただ買う、という関係性だったのですが、作り手と使い手に少しギャップがあったわけです。使い手が作り手側に入ってきて、一緒にものづくりをしていって、より満足度の高い商品を作り上げる。そして、それを長く使えればサスティナビリティにつながっていくのではないか、というのも、コンセプトのひとつとなっています」
「ELOVE」にかかわった沖永良部高校の生徒たち。写真右から、泉琉香さん、松下美波さん、藤田愛さん
では、共創のパートナーとして高校生を選んだのはなぜだったのでしょう。そこには、沖永良部島のカーボンニュートラルへの取り組みと、生徒たちの通学環境が要因にありました。
沖永良部島はゼロカーボンアイランドを掲げ、脱炭素への取り組みが行なわれています。また、沖永良部高校の生徒が、通学にバイクを使っている、ということがありました。この日、現場にいた沖永良部高校の3人の生徒に話を聞くと、3人とも16歳で免許を取得し、毎日、原付1種のスクーターで通学しているそうです。
雨に濡れると「ELOVE」のロゴにグラフィックが浮かび上がるという藤田愛さんのアイデア。雨の日をポジティブな気持ちに変換できないか、というところから考えられた
通学環境としては、バスはあるけれど1時間に1本程度の頻度で、坂が多く、道はでこぼこなのだそう……。おそらくはそうした状況を踏まえ、スクーターでの通学が許可されているのでしょう。いずれにせよ、非常に珍しい通学環境です。
「生徒さんたちが原付で通っているなら、電動スクーターにすることによって排出ガスを抑えられるということで、ヤマハさんから『E-Vino』(ヤマハの原付1種区分の電動スクーター)を提供、実証実験で使用してもらう、という関係性がもともとあったのです」
「このバイク(ELOVE)のコンセプトのひとつは、いろいろな人に乗ってもらいたい、というものでした。彼女たちはバイクに乗れる年齢でいちばん若いユーザーさんです。低年齢で最初にバイクに乗るときの怖さや、日常の通学で使っているときの不満、痛み、要望などを取り込むと、ものづくりとして新しいところにアプローチできるかな、ということで、もともと関係のあった沖永良部高校にアプローチさせてもらったのです」
「彼女たちも学校の取り組みとして、ゼロカーボンをどうしていこうかと、高校の商業科の授業のなかでやっています。そこで、ぜひ一緒にやりましょう、というかたちになりました」
絵を描くことが好きな生徒がいたため、メーター部分には簡易画版を装備。普段はスクリーンになる
こうしてカタチになったのが、「ジャパンモビリティショー2023」で展示された「ELOVE」なのだそうです。ヤマハブースではスタンダードモデルも展示されていましたが、写真は沖永良部高校の生徒と、プロ車いすテニスプレーヤー、眞田選手の要望が取り入れられたものとなっています。
ユーザーの満足度にさらに寄り添った製品をつくることができる、という点で、こうしたものづくりは、サスティナビリティという側面のひとつの方法なのかもしれません。ただ、サスティナビリティという観点を抜きに考えても、「自分が乗るモビリティに、ユーザーがかかわる」というスタイルは、新しいモノを生む可能性になるのだろう、とも感じます。
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