正念場の高速道路「二輪定率割引」議論 国交省道路局・松本参事官が語る 来年の通行料金割引
バイクのニュース / 2023年12月15日 11時10分
車重、専有面積など車格と道路損傷に応じた通行料が、日本の高速道路料金の基本です。ただ、バイクは車重が2倍以上ある「軽四輪」と同じ料金区分です。割引制度によって是正を求める業界と、割引の減収を心配する国土交通省。来年の割引はどうなるのか? 高速道路行政を担う参事官に話を聞きました。
■割引導入しても増収にならない、減収分が、払拭できない?
高速道路の通行料金は、現行では5車種区分、バイクは「軽四輪車」と同じ料金です(二輪自動車は「軽自動車等」に区分される)。ユーザーは署名活動や要望を通じて、バイクに応じた料金区分を作るべきという10年以上に及ぶ粘り強い要望の末、2022年にバイクの料金区分を普通車の半額にする「定率割引」を実現させました。しかし、ETC車載器の搭載、対象となる曜日、距離、事前登録の制約が障壁となり、2年目で利用は失速しています。
高速道路料金政策を担う、国土交通省
ETC車載器の搭載率も四輪車より低く、バイク料金を設定して需要を喚起することで利用車はまだ延びると考える業界に対して、高速道路会社は前向きではありません。高速道路政策を担当する国土交通省道路局・松本健参事官に、これからのバイク料金割引施策について聞きました。
――高速道路会社の民営化の大きな目的は、利用車を増やして、より早く建設費などの借金を返済していくことです。その流れでいけば、バイク割引制度は、業界自らが新たなバイク利用を増やし、底上げをしようとしていることなので、むしろ使いやすくしたほうが利用は増えるのではないでしょうか。
松本健参事官(以下、同)「高速道路の二輪車割引は、定率割引と二輪車ツーリングプランを実施しています。その状況をよく見ながら、今後の対応については検討していきたいと思っています。
と言うのも、公明党・自民党とも懇話会、議連などが開かれて、いろんな形で業界からもご要望いただきましたので、それも踏まえた形で、今後の取り扱いを検討していきたいと考えています。
割引の状況で言うと、二輪車ツーリングプランについては、昨年に増してお使いいたき、定率割引についても昨年よりは若干少ないものの、多くの方にご利用いただいている状況のデータなども取れてきています。
利用実態とか踏まえて、来年の今後の取り扱いを考えたいと思います」
――割引の効果として、現状を変える、つまり利用車増を見込んで増収を目指す、ということが考えられます。ただ、与党での議論は、割引分だけ減収する前提で、議論が噛み合わないように思えます。登録台数の減少で利用車が減っていく中で、バイク割引の充実は、ひとつの施策となるのではないでしょうか。
「トータルとして、どうやって料金収入を増やしていくのかという話だと思いますが、基本的に割引を実施すると、利用者が増えて増収する部分と、料金引き下げで減収になる部分が出ます。両方の影響がある中で、一般的に言って料金が下がって収入が下がるという影響の方が大きいケースも、非常に多い。
料金の割引のあり方は、実際どういう政策目的、課題に対応してやっていくのかをよく考えながら、その効果も見ながらやっていく話かなと思います」
――減収部分が払拭できないと、割引は簡単には進まない、ということですか。
「そうですね。ただ、二輪の話は、すでに2種類の割引を実施しておりますので、実施状況をよく見ながら、いただいた要望を高速道路会社と話し合っていきたい」
■なぜ、同じ観光振興目的なのに、バイクだけに距離制限があるのか?
――バイクの割引制度は、いまだにバイクがどのぐらい走っていて、どういう状況になってる実態がわからないままに議論がなされています。この指摘をどう考えますか。
「データに基づいて利用実態を調べて、割引を適用しながら、いろんな議論をしていくことは、私もすごく重要な話だと思います。実施状況のデータを取って、よく分析をしていきたいと思います。
二輪車が全体としてどのくらい利用いただいているのか、なかなか把握しにくいところがありますが、データに基づいていろいろな議論をさせていただくことはおっしゃる通りだと」
――そこで、お尋ねしたいのが、現在のバイク定率割引に存在する「距離」、「曜日」、「事前登録」という制限です。改めて、なぜ必要なのでしょうか。
「2022年から定率割引を導入しているわけですが、より広域的な観光振興を想定して、100キロという要件を導入しています。(曜日の制限については)平日より土日祝日に、より広域的に観光していただくという傾向があると聞いております」
――登録をしなければならない理由は何でしょうか。
「通常とは違う料金をお支払いいただくことになるので、事前に登録をいただき、そこをしっかり分けて、料金の精算をしていく。また、初年度から調査をやっていますが、どういう動機でお使いになられたのですか? など、利用車の声を走行後にちょっとアンケート的なことを回収させていただく観点から導入しています」
実質上の高速道路「バイク料金区分」設置を目指して始まった「二輪車定率割引」は、2022年に普通車の50%割引を土・日・祝日に限り実施し、2023年も同条件で継続。「距離」、「曜日」、「事前登録」という制限がともなう。なにより、ETC車載器の搭載が大前提であり、高速道路を利用するすべてのバイクを対象とはしていない(実施期間:2023年4月1日~11月26日の土・日・祝日)
――100キロ以上という距離制限の話をもう一度したいのですが、ツーリングは高速道路移動するだけでは終わりません。「往復200キロ」+「一般道」を走破することを割引で課しているという話になると、日帰りでは体力的に持たない。ツーリングプランとは違う観光を振興することになるのでしょうか。
「実際、高速道路使って土日祝日に観光に出かけているというのは事実かと思います。100キロというのは先ほど申し上げましたが、より広域の観光で効果を出したいという政策的な流れを示しています。通勤など日常の移動距離を考えると、それよりさらに超えてという意味合いを持つと思います。
ただ、東京から沼津を超えないと割引対象とならない。その手前のところはどうなのか? みたいな話をいただいているので、そうした声はしっかり踏まえて来年度を考えたいと思います」
――一方で、大型車を除く四輪車も対象となる「土・日・祝日割引」があります。この割引もバイクの定率割引と同じ「観光需要を喚起し、地域活性化を図るため」です。片方は100キロ以上という制限があり、片方には無い。観光振興というのであれば、バイクだけ、より遠くにという話ではなく、四輪車も含めて、100キロ制限をかけたほうが、観光振興に役立ったのではないですか。
「そうですね。二輪車のこの定率割引の件についてはご要望いただいてるとこもありますので、扱いは検討していきたいと思います」
■単に利用車を増やすという視点で、割引制度を語ることはできない?
――今後、道路の保守や自動運転などいろんな形で高速道路の支出は増えていくことが見込まれますが、モータリゼーションの時のように爆発的に利用車が増える可能性は低い。何らかの形で利用車を増やす努力が必要です。バイク業界が後押ししている割引制度は、利用車を増やす好事例として、国交省や高速道路会社もベクトルを合わせるべきではないですか。
「二輪車を利用しやすい環境を整備することは重要です。業界の皆様による高速道路の利用促進に向けた取り組みについては敬意を持っており、引き続き一緒に取り組みたいと考えています。
高速道路を運営する上で収入はすごく重要な視点になりますが、一方で公共の財産としての役割、例えば地域経済にとっての重要なインフラとしての側面や、物流や産業、観光を支える側面も総合的に考えていかないといけない。公共の財産としての役割とバランスをとる必要があります」
――高速道路には旅客だけではなく、物流がある分だけ複雑だということですね。
「そうですね。やっぱりいろんなことは考えていかなければならない。単に収入だけではないと思いますが、いろいろな声、要望を頂いているところなので、しっかり考えていきます」
※ ※ ※
2024年のバイクの割引はどう変わるのか。その議論に、業界と利用者は注目しています。
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