BMW Motorrad新型「R 1300 GS」の乗り味は、至れり尽くせりで「鬼に金棒」だった!!
バイクのニュース / 2023年12月30日 11時10分
日本市場では2023年11月23日発売となったBMW Motorradの新型「R 1300 GS」は、先代よりすべてが刷新され、シート高が変化する自動車高調整機能まで搭載されました。日本の道路ではどのような乗り味なのでしょうか。
■年間販売台数は、「ハンターカブ」以上!?
最近のヨーロッパでは、どんなバイクが売れているんだろう? 少し前にそんなことを考えながらネットを検索した際に、私(筆者:中村友彦)が目を見張ったのは、多くの国のセールスランキングで、BMWモトラッドのフラットツインエンジンを搭載する「GS」が5位以内に入っていることでした。利便性に優れるミドルクラスや、A1ラインセンスが前提の125ccクラス、スクーターなどに割って入る形で、あるいは、それらを抑えて、250万円オーバーのアドベンチャーツアラーが上位に入る状況が、日本人の私の視点では相当な驚きだったのです。
日本では2023年11月23日発売となったBMW Motorrad新型「R 1300 GS」に試乗する筆者(中村友彦)
もっとも、静岡県伊豆市で開催された新型「R 1300 GS」の国内試乗会で、このモデルに関するさまざまな話を聞いた私は、その事実が腑に落ちました。
と言うのも、近年のフラットツインGSの年間販売台数は約6万台で(直接的な参考になる数字ではないけれど、日本で大ヒットしているホンダ「CT125・ハンターカブ」の2022年の総生産台数は約2万台)、infobikeいうメディアの調査によると、全世界の大排気量アドベンチャーツアラーの中で、フラットツインGSのシェアは約60%に達しているそうです。
具体的な数字を聞いた私は、「そこまで強かったのか……」という印象を抱くと同時に、「そこまで強かったんだよな……」とも思いました。
改めて振り返ると、これまでに私が経験した複数の大排気量アドベンチャーツアラーを集めての比較試乗では、パワーや軽さ、悪路走破性などで他機種に及ばなくても、トータルではフラットツインGSが1番、という展開が通例になっていたのですから。
■90%以上のパーツが新規開発
さて、前フリが思いのほか長くなりましたが、フラットツインGSの最新作「R 1300 GS」の乗り味を紹介します。本題に入る前にこのモデルの概要を説明しておくと、最も注目を集めているのは排気量を拡大してパワーアップを実現し(135psから145.5psへ)、さらには大幅な小型軽量化も果たしたエンジンでしょう。
排気量1300ccの空水冷水平対向2気筒DOHCシフトカムエンジンを搭載。最高出力107kW(145.5PS)/7750rpm、最大トルク149Nm/6500rpmを発揮
ただし、「R 1300 GS」の部品は90%以上が新規開発です。先代とはまったく異なるデザインになった鈑金シェル構造のメインフレームや、シリーズ初のアルミダイキャスト製リアフレーム、既存の構成を維持しながら抜本的な改革が行なわれた前後サスペンション、同社にとって初となるアダプティブライドハイトコントール(状況に応じて自動で車高を調整する機能。海外ではオプション扱いだが、日本ではツーリング仕様が標準装備)など、画期的な要素を挙げていったらキリがありません。
技術説明会でその詳細を知った私は、すでに先代が圧倒的な人気を獲得していたのに、またしても「そこまで大がかりな変更を行なうのか……」と思いました。
まあでも、近年のフラットツインGSは、10年前後でのフルモデルチェンジが定番で、2004年型と2013年型が登場した際も私は同様の印象を抱いたのです。
いずれにしても、BMWモトラッドにとって今回の刷新は自然な流れで、もちろん「R 1300 GS」が採用した新技術は今後、「R 1250」ボクサーエンジンを搭載する兄弟車にも投入されるでしょう。
静岡県伊豆市で行なわれたメディア向けの試乗会では、日本市場に導入する各仕様の「R 1300 GS」が用意された
日本仕様の「R 1300 GS」は、数多くの純正アクセサリーパーツを標準装備する「スタンダード」(284万3000円/286万6000円)、アダプティブライドハイトコントールや電動調整式スクリーンなどを装備する「ツーリング」(317万9000円/318万5000円、オプション719仕様は336万800円)、悪路走破性を重視した「GSスポーツ」(291万7000円)の3機種です。以下に記すインプレでは、日本の主力になると思われる「ツーリング」を使用しました。
■問題点を探してみたものの……
試乗会は、午前に慣熟を前提としたグループ走行、午後は媒体ごとにフリー走行、という流れで行なわれました。午前の走行を終えた時点で印象的だったのは、同業者全員が、満面の笑みで「R 1300 GS」を絶賛していたことです。その様子を見た私の中には「これでは全員のインプレが似たような内容になってしまう。せめて自分だけでも、異論を述べなくては」……という妙な使命感が芽生え、午後の走行は懐疑心を持って臨むことにしました。
BMW Motorrad新型「R 1300 GS」に試乗する筆者(中村友彦)。懐疑心を持って臨んだものの、すぐに魅了され、その完成度の高さに驚く結果に
もっとも、実際に私が発見した「R 1300 GS」の問題点は、エンジンパワーの増大に伴って強化されたクラッチの操作がちょっと重いこと、テールランプ一体式LEDリアウインカーの被視認性が相変わらずいまひとつなこと、先代の「R 1250 GS」より車重が12kg軽くなっていても(ヨーロッパ仕様のスタンダードで比較した数値)、やっぱり押し引きが楽ではないこと、くらいだったのです。
それどころか、午後の試乗を始めて30分ほどで懐疑心は消え去り、以後はこのモデルの魅力にひたすら感心することになりました。
じつは当初の私は、「90%以上の部品が新設計なのだから、完成度では熟成が進んだ先代に及ばないはず」と思っていたのですが、「R 1300 GS」は生まれながらにして、抜群の完成度を備えていたのです。
■尋常ではないフレンドリーさ
最高出力に加えて最大トルク(先代+7Nmの149Nm)も向上したエンジン、操舵と緩衝の分離を推し進めたテレレバー式フロントサスペンション、良好なトラクションを意識してロング化されたスイングアーム、空力性能向上が実感できるスクリーン+外装など、「R 1300 GS」の魅力はいろいろな視点から語ることができます。とはいえ、私がこのモデルで最も感心したのは「尋常ではない……」と言いたくなるレベルのフレンドリーさでした。
身長182cmの筆者(中村友彦)が、シート高が820mmに下がった状態で跨ると両足は地面に届き、膝にも余裕が生まれる。「アダプティブライドハイトコントロール」の装備により、ローダウンサスペンションの設定はなくなった
もっとも、先代だって十分にフレンドリーだったのです。でも新型の場合は、走り始めた直後から車体が小さく、細くなったように感じますし、右へ左へといった動きは明らかに先代より軽快です。
そしてエンジンは常に従順で優しく(とはいえスロットルをガバッと開ければ、フロントまわりが簡単に離陸する)、車体はどんな状況でも良好な乗り心地と濃厚な接地感を維持してくれます。
いやはや……これはもう「至れり尽くせり」と言って良いのではないでしょうか……。
そんな私の思いをさらに強くしたのが、アダプティブライドハイトコントールです。同様の機構はすでにハーレー・ダビッドソンが「パンアメリカ1250スペシャル」で採用していますし(ただし自動調整が行なわれるのはリアのみ。「R 1300 GS」は前後とも自動で上下する)、体格が大柄で巨大なバイクを苦にした経験があまり多くない私は、そういった機構の必然性を感じていなかったのですが……。
今回の試乗では、自動で行なわれる車高調整がムチャクチャありがたかったのです(停止時のシート高は820mmで、速度が50km/hを超えると約3秒で850mmに上昇し、25km/hを下回ると約1.5秒で820mmに下降。作動は素晴らしく滑らかで、下降時のハンドリングの違和感は皆無)。中でも、走行写真の撮影時の狭路でのUターンと、オフロードを走った際の安心感は特筆モノで、私の頭には「鬼に金棒」という言葉が浮かびました。
■小柄な女性ライダーでも楽しめる?
当原稿を書いている最中にふと思い出したのは、技術説明会の待ち時間に会場で流れていた動画です。この種のバイクの慣例に従い、プロモーション動画では快走路での疾走シーンやオフロードをガンガン攻める様子を見ることができるのですが、それとは別に、小柄で、そんなに経験豊富ではなさそうな女性ライダーが、オフロードをトコトコ走る動画が流れていました。
未舗装路でも感じる「フレンドリー」さ。よりアクティブに攻めたいライダーには、専用サスペンションや各プロテクション、別体式フロントウインカーなどのほか複数の装備がパッケージされた「GS SPORT」仕様が用意されている
現場でその動画を見た私は、どうしてこんな微妙なモノを? という気がしたのですが、いまになってみると2種の動画は示唆的で、「R 1300 GS」の開発には、経験豊富なエキスパートだけではなく、そういったライダーも参加したのではないかと思います。
だからこそこのバイクは、尋常ではないレベルのフレンドリーさ、至れり尽くせりにして「鬼に金棒」な乗り味が実現できたのでしょう。
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