スズキ「GSX-S1000GX」 シリーズ最新のアドベンチャーモデルの実力を考察
バイクのニュース / 2023年12月30日 7時10分
スズキの新型アドベンチャーモデル「GSX-S1000GX」に試乗した鈴木大五郎さんが同モデルの魅力について考察します。
■「GSX-S1000」シリーズの待望の新型モデル
2023年のEICMA(ミラノで開催されているバイクの見本市)でアンベールされたスズキのニューモデルには、昨年のEICMAで発表されたネイキッドモデル「GSX-8S」をベースにフェアリングを装着した「GSX-8R」と、スポーツネイキッドモデル「GSX-S1000」をベースにロングストロークの足まわりを装着しフェアリングを纏った「GSX-S1000GX」の2機種あります。
11月下旬にポルトガル・リスボン近郊で行われた「GSX-S1000GX」のワールドプレス試乗会に参加する機会を得たので、早速そのポテンシャルを筆者(鈴木大五郎)が探ってみました。
スズキの新型モデル「GSX-S1000GX」に乗る筆者(鈴木大五郎)
GSX-S1000シリーズには、すでにツーリングシーンでの快適性を高めた兄弟モデルGTが存在します。
今回あらたにシリーズに加わったGXは同じくツーリング性能に重きが置かれているものの、前後のサスペンションストロークはより延長され、ライディングポジションもアップライト。
おおきくカテゴライズすればアドベンチャー、さらに細分化すればクロスオーバーなどと称されるジャンルに分類されます。
その位置関係のライバルモデルでいえば、カワサキの「Z1000」に対しての「Ninja1000」、そして「ヴェルシス1000」の関係性に似ているといえるでしょう。
スズキ「GSX-S1000」シリーズの派生モデル「GSX-S1000GX」。シート高845mmのノーマルシートのほか、快適性を犠牲にしないローシートも用意されています
スタイリングはツアラーイメージの中にもスポーティさを上手く融合させています。
また、今回の試乗会では左右にパニアケースを装着しての走行を基本に行われたことからも、パニア込みでのデザイン性の追求、および走行性能がなされていることが想像されました。
シート高は845mmに設定。闇雲にシート高を下げることをせず、しっかりと厚みを持たせて快適性を確保しています。
今回はオプションとなるローシートを装着してのテストも行いましたが、こちらはGTに装着されている標準シートと同じものとのこと。
よって、足つきを良くするために闇雲にスポンジを削ったものとは中身が異なります。国内仕様がどのようになるのかは今の時点では不明ですが、ローシートが標準となったとしても快適性が大きくスポイルされないことと、さほどライディングポジションが変わらないことが確認出来ました。
スズキの新型モデル「GSX-S1000GX」に搭載された4気筒エンジン。トルクフルでユーザーフレンドリーな味付けとされています
アドベンチャー的アプローチをしてきてもGXはスポーティさをしっかりと打ち出していました。
GSX-R1000をルーツとする水冷並列4気筒エンジンを搭載していることからもそれは伺えます。
人気を博す同社のアドベンチャーモデル「Vストローム」シリーズが基本的にツインのエンジンを搭載し、どこかに土の匂いを感じさせるイメージとは異なり、はっきりと棲み分けがされています。
世界的にツインエンジンが人気を博しているように思われますが、スムーズなトルク特性、他にないサウンド、そして絶対的なパワーと4気筒エンジンの魅力は色褪せることがありません。
このエンジンはGSX-1000SやGTとすべて共通とのことですが、足回りのストローク量が増えたことによるものなのか、アクセル操作に対する反応がよりマイルドに感じられました。
3種のライディングモードを変更することで、様々なキャラクターを演出できるのもまた楽しみに繋がっているのでしょう。
スーパースポーツ系のエンジンとしてはトルクフルな特性、回せ回せと急かされることのないキャラクターがツーリングシーンのみならず、幅広いシチュエーションでの走りを支えてくれます。
同エンジンは、150馬力と額面では驚くような数値ではないものの、実際にはサーキットやアウトバーンでの最高速アタック以外では不満を感じさせないであろうパワフルさを持っていますし、逆にオーバースペック過ぎないことが扱いやすさやフレンドリーさをもたらしているといったこともあるのでしょう。
スズキの新型モデル「GSX-S1000GX」に乗る筆者(鈴木大五郎)
アップ&ダウンに対応したクイックシフターの装備も快適性に繋がっていました。
もともとは少しでも速く走らせるためのレースシーンでの機能であったクイックシフターですが、昨今では快適性にもつながる機能面が注目されツアラーモデルにも採用されています。
基本性能としては自由度が高く、迫りくる様々な状況に対応しやすいキャラクターで、これはアップライトなマシン全体に言えることでしょうが、足回りのソフトな感触が乗り心地とともにライダーに安心感を与えてくれました。
例えば、ある一定のコーナーを舞台とした撮影シーンでは、何度も走行するうちに慣れが生じて徐々にバンク角が深くなり、極端にいえばサーキット走行に近いような走り方となっていきますが、こうなった場合にもっと安心感の高いマシンは数知れずあります。
しかし、まさに「アドベンチャー」途中に遭遇する様々なコーナーをクリアしていく所作にこのマシンの真価が発揮されるのです。
スズキのモーターサイクルとして電子制御のセミアクティブ・サスペンション(SAES(スズキ・アドバンスド・エレクトロニック・サスペンション・システム)を初搭載した新型モデル「GSX-S1000GX」
この性能をさらに後押ししてくれるのがスズキのモーターサイクルとして初採用された電子制御のセミアクティブ・サスペンション(SAES(スズキ・アドバンスド・エレクトロニック・サスペンション・システム)の装備でしょう。
1000分の1単位で計測されるサスペンションの状況から減衰力をアクティブにコントロール。ソフトを選択すればイメージ通りの優しいフィーリング。そしてハードを選択すればやはりそのイメージ通りの手応えが得られます。
走行ペースの速い状況ではハードを選択することが多かったのですが、開発陣によれば、日本の道路状況であればソフトやミディアムを使う機会がより多くなるだろうとのこと。いずれにしても、簡単にキャラクターを変更出来ることがこのマシンの魅力に繋がっていました。
また、凸凹な路面状況が続いた際には、それによってアクセル操作がラフになり、速度調整を誤ってしまうような状況を阻止するために、スロットルの制御および車体が挙動を乱さないように減衰力が適正化されるSRAS(スズキ・ロード・アダプティブ・スタビライゼーション)も装備されています。これも一般的走行環境で作動することはないとのことですが、保険として装備されていることにメーカーの良心を感じます。
欧州名物の石畳(これも特に荒れている箇所)では、モニター上で作動していることが確認出来ましたが、マシン自体がそれまでと異なった動きをしたように感じることは皆無。逆にいえば作動自体が自然であったということでしょう。
スズキの新型モデル「GSX-S1000GX」。スズキらしいバランスの良いマシンに仕上げられています
スズキが採用する新テクノロジーは後発となることが少なくないですが、GXに採用された電子制御サスペンションも、スズキのモーターサイクルとしては初となるものの、多くのライバルメーカーがすでに採用しています。
しかし、GXに採用されたものはテクノロジーのベースは同じであったとしても、独自にセットアップを繰り返すことで、このマシンに相応しいフィーリングとなっています
電子制御盛りだくさんということばかりがトピックにあげられそうなGXですが、実際に試乗するとパッケージングとしての完成度をなによりも大切にする、スズキらしいバランスの良いマシンに仕上げられていたことを体感できました。
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