レース数と観客の多さに度肝を抜かれた「ブランズハッチ」 ブリティッシュ・スーパーバイク紀行
バイクのニュース / 2024年1月13日 12時10分
イギリスに6カ月ほど滞在している間、絶対に観戦したかったのが『ブリティッシュ・スーパーバイク』です。ロンドンから電車とバスを乗り継ぎ、シーズン中盤の第6戦が行なわれたブランズハッチを訪れました。
■手に汗握る大興奮! ブランズハッチで過ごした1日
2023年の3月下旬から約6カ月間、MotoGP取材のためにイギリスのロンドンを拠点としていたわたし(伊藤英里)には、どうしても見たいものがありました。それは、イギリス国内の2輪ロードレース選手権『BRITISH SUPERBIKES(ブリティッシュ・スーパーバイク)』(以下、BSB)です。
BSBのプログラム。持ち歩きにちょうどいいサイズに感動!
イギリスの国内選手権ということで、日本ではなじみが薄いかもしれません。ただ、近年は高橋巧選手、水野涼選手が2021年、2022年に参戦し、過去には清成龍一選手、加賀山就臣選手などの日本人ライダーが参戦していました。
また、市販バイクによる世界最高峰、スーパーバイク世界選手権(SBK)にはBSBを経て参戦するライダーも多く、どのような選手権なのか、純粋に興味があったのです。
わたしはMotoGPなどの取材スケジュールの合間を縫ってBSB第6戦を観戦すべく、7月23日(日)に「Brands Hatch(ブランズハッチ)」というサーキットへと赴きました。今回は取材ではなく、1人の観客としての観戦です。
ブランズハッチは、ロンドンから見て南東に位置しているサーキットです。ロンドンのターミナル駅であるビクトリア駅から電車に揺られること1時間。スワンリー駅に到着すると、サーキットとの往復バスに乗り込みました。往復のバスチケットはインターネットで事前に購入可能で、バスは8時から20時の間、30分間隔でサーキットとスワンリー駅を往復しています。
ブランズハッチのピットウォーク。ストレートにすごいカントがついている!
ガタガタと揺れるバスには、同じようにブランズハッチに向かう人たちがまばらに乗っていました。
イギリスのバスはかなり揺れるので、三半規管が弱いわたしはじっと窓の外を眺めてやり過ごします。道路の路面状況が悪いのか、車体が古いのか、サスペンションの問題なのか、あるいはその全てなのか、あまりにガタガタと揺れるので、簡単にクルマ酔いしてしまうのです。でも、文句は言えません。日曜日のみの運行とはいえ、終日運行してくれる直行バスがあるだけで、アクセスがかなり楽なのですから。
ブランズハッチは非常に歴史の長いサーキットで、サーキットのホームページによると、100年以上の歴史があるそうです。過去にはSBK、F1、NASCARが開催されてきたとのこと。
実際にサーキットを見てみると、「なるほど」とその歴史を感じます。現代になってつくられた、計算されたレイアウトのサーキットではなく、地形などを用いたレイアウトなのだろうと感じるのです。こうした印象は、イギリスの他のサーキット、ドニントンパークやシルバーストンでも感じました。ドニントンパークは100年近く、シルバーストンは70年以上の歴史を持っています。
今のイギリスでは、モータースポーツやバイクの人気はそこまで高くはないのかもしれません。しかし連綿とつむがれてきた歴史の長さは確かに端々に潜み、その認知度は決して低いわけではない……。イギリスで様々な光景に触れるうち、そう感じていました。
スタンド裏。とにかく人が多い!
実際のところ、BSBはスポーツイベントとしてかなり成功しているように見えます。今回訪れたブランズハッチは第6戦で、全11戦のシーズンの中盤です。けれど、とてもたくさんの観客が来ていました。その数に、とにかく驚きました。スタンド裏を歩けばびっしりと人がいて、さながらMotoGPのパドックのように、前に進むのにも苦労するほどなのです。
歩く人たちは老若男女問わず、小さい子供を連れた家族から、バイクで来たのだろうライディングウエア姿で歩く若者もいます。ピットロードに入ってライダーと交流できるピットウォークというプログラムでも、たくさんのファンが列をなしてその時間を待っていました。キャンピングカーで観戦に来ている人も多く、レース観戦が、週末の過ごし方として根付いているのだろうと思わされました。
さて、今回は指定席チケットを買って観戦してみました。と言っても、どこがエキサイティングな観戦ポイントなのか全くわからないので、無難に1コーナー側のスタンド席を購入しました。結論から言えば、この席は「アタリ」でした。1コーナーの激しいブレーキング、ポジション争いを間近で見ることができたのです。
レースは10時半ごろから始まっていくのですが、とにかくレース数が多い! BSBはレース数が多いとは聞いていましたが、本当でした。日曜日だけでも9レース、土曜日を含めると、この週末だけで16レースもあったのです!
メインレースのブリティッシュ・スーパーバイクに至っては、13時35分に20周のレースを行ない、その3時間後の16時35分にもう一度、20周のレースを行なうという、信じられないスケジュールでした。ライダーの体力は、一体どうなっているのでしょう……。
1コーナー近くのスタンドに席をとった。ここから見ても、かなり高低差のあるコースだとわかる
そんなレースは、どれも本当に興奮必至でした。手に汗握る展開に、緊張をはらむポジション争い。カントがついたストレートから入る1コーナーは見ているだけでも怖いほど下っているのですが、ライダーはおかまいなしに、1コーナーのブレーキングでがんがん勝負を仕掛けます。
わたしは目の前のレース映像を映すスクリーンと、公式サイトが配信するライブタイミング、実況のラジオを交互に見聞きしながら、夢中になってレースを追っていました。ライダーが減速をしながら1コーナーに飛び込んできます。ポジションが入れ替わると拍手が起こり、きわどいバトルに、思わず歓声を上げていました。
全てのレースが終わるころには、18時を過ぎていたと思います。イギリスの夏は日が長く、まだまだ明るい時間です。けれど、太陽が傾くにつれて、絶えず吹いていた風はどんどん冷たくなっていきました。
脳裏には先ほどまでのバトルと、それを楽しむたくさんの人の様子がぐるぐるとめぐり、BSBというレースに触れた興奮であふれています。そしてそのまま、またガタガタと揺れるバスに乗り込んで帰路に着いたのでした。
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