緊急避難の場合には、飲酒運転も認められるのか?
バイクのニュース / 2024年1月20日 11時10分
やむを得ない場合であれば、飲酒運転や無免許運転も許されることがあると言います。では、やむを得ない場合とは具体的にどこまでの範囲を指すのでしょうか。
■条件はかなり厳しい!緊急避難が成立し、罪に問われないケースとは
飲酒運転や無免許運転でも、緊急時であれば許される場合がある、という噂を聞いたことがある人は少なくないでしょう。
本来であれば飲酒運転や無免許運転は違反行為であり、処罰の対象です。しかし、一定の条件下においては緊急避難が認められ、行為の違法性が阻却されることがあります。
避難のためなら飲酒状態でバイクを運転することが可能なのか?
令和6年1月1日の夕方に起きた能登半島地震のタイミングで、飲酒をしていた人も多いでしょう。そんな時、避難のためなら飲酒状態で運転することが可能なのか、気になった人もいるはずです。
例えば、ある人が津波から避難する際に高台までの距離がある場合。津波の到達時間が迫っており、高台までは徒歩で到底間に合う距離ではなさそうです。ただしバイクやクルマのスピードなら、間に合うかもしれません。
では、飲酒した状態で、高台まで運転して避難することは認められるのでしょうか。
個々の事例について最終的に判断を下すのは裁判所ですが、いくつかのポイントを元に、緊急避難が成立するかどうかをある程度考えることは可能です。
そのポイントは、「現在の危難があること」「危難を避けるためのやむを得ない行為であること」「行為によって生じた害は、避けようとした害の程度を超えないこと」。
まず、ひとつめの「現在の危難があること」については、津波がそこまで迫っているなら十分満たしていると言えるでしょう。
次に、「危難を避けるためのやむを得ない行為であること」について考えます。
これは言い換えると、他にとれる手段はなかったのかということ。この例の場合、「運転してくれる他者はいなかったのか」「徒歩で行ける範囲に避難場所はなかったのか」等が争点になるでしょう。
避けようとした害は、自分が津波によって命を奪われること。無事故で高台に避難できた場合は、生じた害は飲酒運転だけとなり、生じた害は避けようとした害の程度を超えていないと言える
次に、「行為によって生じた害は、避けようとした害の程度を超えないこと」について。
今回避けようとした害は、自分が津波によって命を奪われること。無事故で高台に避難できた場合は、生じた害は飲酒運転だけになります。その場合、生じた害は避けようとした害の程度を超えていないと言えます。
これらの条件を全て満たさないと、緊急避難が成立することはありません。また、避難行為がやむを得ない範囲を逸脱していた場合は過剰避難という扱いになり、行為の違法性は阻却されません。ただし過剰避難の場合も、情状により、刑が軽減されたり免除されたりすることがあります。
過去、飲酒運転した際に緊急避難が成立するかを争った判例に、東京高裁の昭和57年11月29日判決があります。
被告人が家で飲酒していると、酩酊した弟が鎌を片手に暴れ込んできました。家の中にいると危険だと感じた被告は庭のクルマに逃げ込みますが、弟は外に飛び出して自分のクルマに乗り込みます。
被告人はクルマで弟から逃げ、市街地に出た後もそのまま20分間走り続けて警察署に到着、警察に助けを求めます。
一見やむを得ない行為のようにも見えますが、東京高裁は、この行為を「危難を避けるためのやむを得ない行為が行き過ぎたもの」であるとし、緊急避難は成立しないとの判断を下します。
被告人は市街地に出た時点で弟が追跡してこないかを確認し、電話で助けを求めることもできたとし、警察署まで運転する必要はないと指摘されています。
東京高裁は酒気帯び運転の罪の成立を認めつつも、過剰避難を適用し、刑を免除しました。
このように、「やむを得ない行為」であるかの判断は非常に厳しいものとなっています。しかし、本来違法である行為の違法性を阻却するという重い判断を下す以上、厳しく考えるのは当たり前のことだと言えるかもしれません。
※ ※ ※
ちなみに地震の際は、津波からの避難で一刻も早く高台に行かなければならない場合などをのぞいて、原則徒歩での避難が推奨されています。
これはバイクやクルマで避難すると、信号機の故障による交通麻痺や道路の崩壊による立ち往生などが想定されるためです。バイクやクルマで避難する際はリスクをしっかりと理解した上で避難するようにしましょう。
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