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「アシスト&スリッパークラッチ」ってナニ? そのメカニズムとは

バイクのニュース / 2024年1月23日 11時10分

日々進化するバイクのメカニズム。英文字やカタカナで表記される最新機構も数多く、いったいどんな機構で、バイクに乗る上でドコに役立つのかいまひとつ解らない「コレってナニ?」という装備が盛り沢山です。今回はその中から「アシスト&スリッパークラッチ」について解説します

■レースでの必要性から生まれた、スリッパークラッチ

 最近の国産バイクで装備車が増えている「アシスト&スリッパークラッチ」ですが、直訳するとアシストは「補助」、スリッパーは「滑らせる」といった意味になります。いったいナニを補助してナニを滑らせているのでしょうか? そしてライダーにとって、どんなメリットがあるのでしょうか?

(※アシスト&スリッパークラッチは、バイクやクルマのクラッチで大きなシャアを誇る株式会社エフ・シー・シーの登録商標です)

【クラッチの概念図】クラッチプレート(トランスミッション側)とフリクションプレート(クランクシャフト側)を、クラッチスプリングの張力で密着させて駆動力を伝える。クラッチレバーを握るとクラッチスプリングが縮まり、クラッチプレートとフリクションプレートが離れて駆動力が切り離される。図ではクラッチプレートとフリクションプレートが1枚ずつだが、多くのバイクが採用する「湿式多板クラッチ」は、それぞれのプレートを互い違いに複数枚装備している【クラッチの概念図】クラッチプレート(トランスミッション側)とフリクションプレート(クランクシャフト側)を、クラッチスプリングの張力で密着させて駆動力を伝える。クラッチレバーを握るとクラッチスプリングが縮まり、クラッチプレートとフリクションプレートが離れて駆動力が切り離される。図ではクラッチプレートとフリクションプレートが1枚ずつだが、多くのバイクが採用する「湿式多板クラッチ」は、それぞれのプレートを互い違いに複数枚装備している

 それを理解するために、まずはクラッチの役割や仕組みをおさらいしましょう。

 バイクはエンジンがかかっている間はクランクシャフトが常に回転しているので、もしクランクシャフトと後輪が直結していたら、信号などで止まることができません。

 エンジンのクランクシャフトと後輪の間に備わるトランスミッション(変速機)を「ニュートラル」にすればバイクは動きませんが、そのニュートラルに入れるのもエンジンの回転がトランスミッションに伝わったままの状態では困難です。

 そのため、クランクシャフトとトランスミッションの間に、エンジンの回転を伝えたり切り離したりする「クラッチ」が装備されているのです。

 本題の「アシスト&スリッパークラッチ」の名称とは順番が逆になりますが、先に登場したのは「スリッパークラッチ」の方で、その歴史は意外と長いです。

バックトルクリミッターを2輪市販車で初めて装備したホンダ「VF750F」(1982年発売)バックトルクリミッターを2輪市販車で初めて装備したホンダ「VF750F」(1982年発売)

 シフトダウンした際に、一瞬「キュッ」と後輪がロックした経験があるライダーも多いのではないでしょうか。これは、シフトダウン前はエンジンの回転が後輪を回していたのに対し、シフトダウンによる変速比の変化で「後輪がエンジンを回す状態(これを「バックトルク」と呼ぶ)」、すなわちエンジンブレーキが強く効いたために起こる現象です。

 とくに高回転から急減速した際のシフトダウンで起こりやすく、極端な場合は一瞬のロックでは収まらずに、ポンポンッと後輪が跳ねるホッピングを起こすこともあります。

 エンジンを高回転まで回してハイスピードで走るレースで起こりがちですが、コーナーに入る前のシフトダウンで後輪がロックやホッピングしたら、その間は車体を傾けることができないため、曲がり始めるタイミングが遅れてしまいます。

 そこで過大なエンジンブレーキ、すなわちバックトルクをコントロールするために「バックトルクリミッター」という装置が生まれました。

 名称は異なりますが、クラッチを意図的に滑らせることで過大なバックトルクを抑制するという機能と目的は、現在のスリッパークラッチと同じです。このバックトルクリミッターを2輪市販車で初めて装備したのが、1982年に発売されたホンダ「VF750F」です。

■スリッパークラッチの仕組みは……

 シフトダウン時の後輪ロックやホッピングを抑制するバックトルクリミッター、すなわちスリッパークラッチの仕組みは……少々難解ですが「後輪がエンジンを回す状態」になると、クラッチを構成するパーツの中の「スリッパーカム」が作動し、クラッチプレートとフリクションプレートを密着させる力を弱めます。互いのプレートが半クラッチのような滑った状態(スリップ)になるので、スリッパークラッチと呼ぶわけです。

■スリッパーの技術から生まれた、アシスト機構

 バックトルクでスリッパーカムが斜めに滑ることで、クラッチプレートとフリクションプレートを密着させる力を弱めますが、ここから逆転の発想で、かつ副次的な効果として誕生したのが「アシストカム」です。これは加速などエンジン側の回転トルクが増すと、斜めのカムが噛み込むことでクラッチプレートとフリクションプレートの密着力を増幅させる機構です。

アシスト&スリッパークラッチの作動原理(ホンダHPより)アシスト&スリッパークラッチの作動原理(ホンダHPより)

 クラッチは冒頭で解説したように、クラッチスプリングの張力によってクラッチプレートとフリクションプレートを密着させています。そのため、排気量が大きくパワーやトルクも大きなエンジンになるほど、クラッチも強化する必要があります(クラッチ容量が足りないと駆動力に負けて滑ってしまうため)。

 クラッチを強化(クラッチ容量の増加)するには、クラッチ板の直径を大きくすることがもっとも効果的ですが、それだとエンジン自体が大きくなってしまいます。

 次にクラッチの枚数を増やす手法がありますが、これも重量やエンジンのサイズ増加につながります。

 そこで現実的なのが、反発力が強いクラッチスプリングを使う方法です。……が、この手法はクラッチレバーの操作力が重くなるというデメリットがあります。

 しかしアシストカムによって、エンジン側のトルクが増すと自動的にクラッチプレートとフリクションプレートの密着度が増す仕組みによって、反発力の強いクラッチスプリングを使う必要が無くなりました。そのためクラッチの操作力、いわゆるレバーの重さは、エンジン排気量や型式にもよりますが、従来の20~40%も軽くなりました。

 まさにライダーの握力をアシストしてくれるクラッチ、というわけです。

「アシスト&スリッパークラッチ」は、もはや現代バイクには必須の装備と言える。ホンダ「CBR250RR」も装備している「アシスト&スリッパークラッチ」は、もはや現代バイクには必須の装備と言える。ホンダ「CBR250RR」も装備している

 元々はレース用のメカニズムで登場した「バックトルクリミッター」=「スリッパークラッチ」が、さらに機能を増して「アシスト&スリッパークラッチ」に進化したワケです。

 スポーツライディングの上で有効なスリッパー機能と、普段乗りやツーリングでも快適なアシスト機構を持つ「アシスト&スリッパークラッチ」は、現代バイクには必須の装備と言えるでしょう。

 ちなみに、ホンダ、ヤマハ、カワサキは「アシスト&スリッパークラッチ」を装備する車両がありますが、スズキは同様のシステムで「SCAS(スズキ・クラッチ・アシスト・システム)」を用意しています。

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