1月25日発売のスズキ「GSX-S1000GX」 なぜ旧型エンジンがベース? 電子制御サスは何がすごい? 開発陣に聞いてみた
バイクのニュース / 2024年1月25日 7時10分
2024年1月25日より販売開始となったスズキの新型アドベンチャーモデル「GSX-S1000GX」について、海外試乗会に参加した鈴木大五郎さんが開設します。
■「Vストローム」と「GSX-S1000GT」、その中間を担うモデル
ポルトガル・リスボン近郊にて開催されたスズキの新型モデル「GSX-S1000GX」(以下: GX)ワールドプレステストでは、日本からの開発関係者が17人、我々ジャーナリストを出迎えてくれました。
スズキ「GSX-S1000GX」に乗る筆者(鈴木大五郎)
GXが区分されるクロスオーバーというカテゴリーも含め、アドベンチャーモデルの我が国での盛り上がりは、世界のそれに比べればまだまだ少ないと言えるでしょうが、このマシンに対するスズキの熱い思いとともに、世界的にみたこのカテゴリーの盛り上がりを感じずにはいられません。それは試乗会に参加する各国ジャーナリストの熱い視線からも感じられました。
スズキ「GSX-S1000GX」のシート。前面のサイドをスリム化することで良好な足つき性を実現しています
スズキにはVストロームという人気アドベンチャーシリーズがありますが、GXはスポーツネイキッドモデル「GSX-S1000」をベースとしたロード志向のキャラクター。すでにツアラー志向のGTもラインナップされていますが、GXはVストロームとGTのちょうど中間ともいえるキャラクターとして作り込んだとのことで、ライディングポジションもGTに対してアップライトで膝の曲がりもやや緩め。
前後のサスペンション ストロークが長いだけでなく、シート自体の肉厚もあり、快適性にはかなり拘っていることが伝わります。
反面、シート高が高くなってしまうことは避けられませんが、そこは妥協しなかったとのこと。一方で、シート前面のサイドをスリム化し、数値でイメージするよりも足つきは良好となっていました。
スズキ「GSX-S1000GX」
デザインはシャープで近未来的。兄貴分と言っていいのか微妙なところですが、GSX-S1000が採用する縦2眼のヘッドライトレイアウトを踏襲しつつ、フルフェアリング化しています。
また、このフェアリングはデザインのみならず、空力をしっかりと考えて設計されたとのことで、高速域ではダウンフォースを生み出す効果も盛り込まれているといいます。
ちなみに、北米ではオプションとなるパニアケースを装着した状態で販売されるとのことです。
通常、パニアケースを装着することで空力バランスは大きく崩れる可能性がありますが、GXではスズキが誇る世界屈指の長いストレートを持つ竜洋テストコースで徹底的に走り込んで設定したとのこと。
竜洋テストコースがあることによって、スズキ製バイクの特徴ともいえるタフなエンジンと剛性感高い強靭な車体が作り上げられていますが、GXも例外のない仕上がりとなっています。
ちなみにVストロームシリーズではオプションながらも、トップケースも含んだ3ケース装着も想定して設計されているとのことですが、GXではマシンのスタイリッシュなイメージには合わないという理由から3ケース装着を想定せず、耐荷重6キロのリアキャリアを装備しています。
■なぜ旧型の「K5」エンジンがベース?
スズキ「GSX-S1000GX」に搭載された「K5」由来のエンジン
ベースモデルとなるGSX-S1000とはエンジンに関してはセットアップも含め、共通とされています。
GXのエンジンは、長きに渡りファンの多い名機・2005年式のスーパースポーツ「GSX-R1000」に搭載されたK5と称されるものが由来。年式を考えるとやや旧く思われがちですが、現在スズキが持っている4 気筒エンジンのなかで、もっとも相応しいキャラクターであることが選択の理由でもあるといいます。
開発関係者に最新型のエンジンを使うという選択肢はなかったのか聞いてみたのですが、 もちろんコスト的なこともあるものの、パワーや軽さ、そして数値には現れないフィーリン グの良さ等、トータルバランスが優れていることが選択理由となっているとのこと。
例えば最終型GSX-R1000Rのエンジンがより高回転でパワーを絞り出す設定なのに対し、ロングストロークのK5エンジンは常用回転域でもトルクフル。ほぼ使う機会のないハイパワーよりも、日常で使う領域が充実している性能を重視しているのです。
実際に試乗すると、その選択は正解だったと感じられ、いまもって扱いやすいだけでなく、味わい深いとも言える魅力的なフィーリングをもっていました。
■専用設計の制御系とスズキ製バイク初の電子制御サスペンション
エンジン自体と出力特性は同じであっても、制御系に関してはGX専用のものが採用されています。
スズキ「GSX-S1000GX」。6軸IMU(慣性計測ユニット)を新たに搭載することで、より細かなマシンコントロールを実現しています
GXでは6軸IMU(慣性計測ユニット)を新たに搭載し、より細かいマシンのコントロールを行っていますが、例えばGSX-S1000やGTでは5段階+オフだったトラクションコントロールは7段階+オフとさらにワイドレンジに。
スズキ「GSX-S1000GX」に乗る筆者(鈴木大五郎)
6〜7は雨や著しく路面が滑りやすい状況に向けてかなりマージンをもって設定されているとのことです。
もっとも介入の少ないのは1で、マシンを深くバンクさせている状態からわざとスロットルを大きく開けてその作動を確認するも、大きくリアタイヤが滑る前に出力がコントロールされ挙動を乱すことはありません。
サーキットも走らせるようなスポーツバイクと異なり、マシンの挙動を大きく崩すことのない設定としているとのことです。
これは同時にウィリーコントロールにも言えることで、腕のたつライダーであれば「ちょっと介入が早いかな?」と感じられるものですが、なによりも安全が損なわれず怖さを感じさせない作り込みをしたといいます。
もちろんトラクションコントロールをオフにすれば、2速でも高々とフロントホイールが宙に浮くというパワフルさと同時に、制御の確かさを確認。また、加速時だけでなく、減速時にはコーナリングABSも備わり安全性もさらに高められています。
スズキ「GSX-S1000GX」に搭載された電子制御サスペンション。スズキのモーターサイクルとして初めて採用されています
スズキのモーターサイクルとして初めて採用された電子制御サスペンションは、前後150ミリという長いストロークを様々な状況で有効に使うための装備であるといえでしょう。 ユニット自体は日立アステモ製SHOWA EERA(ショーワ・イーラ)を用いていますが、時間をかけてスズキ独自のセットアップを施しているといいます。
スズキ「GSX-S1000GX」に搭載された電子制御サスペンション
減衰力は1000分の1秒という超高速で検知された情報をもとにアジャスト。実際1000分の1秒で検知したとしても、アジャストには少しのタイムラグが発生します。
そのタイムラグが違和感につながることもありますが、GXは処理能力も速く、そのフィーリングも自然なものとなっていました。
GXはソフト、ミディアム、ハード、そしてさらに細かいアジャストの出来るユーザーモードが選択可能。開発陣に「選択することなく、全てに対してアジャストしてくれるほうが有り難くいのでは?」と聞いてみましたが、ワイドレンジのなかでアジャストしていくことも可能ではあるものの、ある程度設定を絞ることでよりはっきりとキャラクターの変化を楽しんでもらうための装備でもあるとのことです。
事実、それぞれの設定で大きくキャラクターが変わることで、1台で何通りものマシンを味わえるという驚きと楽しみが存在していたのも事実です。
また、その変更操作自体がシンプルに出来ることで、性能を手軽に味わえるのもメリットでしょう。
スズキ「GSX-S1000GX」に搭載された電子制御サスペンション。リアショックのプリロード調整も電動で行なわれます
さらにGXのサスペンションは、ダンピングのみならずリアショックのプリロード調整も電動で行なわれます。
任意にソロ、ソロ+積載、タンデムとプリロード量が変更出来ることに加え、オートモードではサスペンションの沈み込み量を元にベースのプリロード量を設定。
これは走行中も絶えず検知されるとのことですが、減衰力と異なり、リアルタイムで瞬時に設定変更するのは難しいとされています。しかし、大きく前後の重心バランスが崩れて連続走行するシーン等では適切な姿勢に落ち着かせるとのことです。
また、欧州に多い石畳等、ラフな道路状況が長く続くような状況においてはスズキロードアダプティブスタビライゼーションが作動。マシンの挙動を抑えるべく設定範囲を超えた減衰調整が行われることに加え、ギャップによってスロットル操作がラフになった状況を回避すべくエンジン出力もコントロール。
開発陣によれば、日本の道路で作動する機会は殆どないだろうとのことでしたが、マシンのキャラクターからの走行シチュエーションを考えれば、非常に有効性の高い装備と言えるでしょう。
スズキ「GSX-S1000GX」
過去最高に電子制御が詰め込まれたマシンとなったGX。しかし、同時に血の通ったスズキらしさもしっかりと感じさせるマシンに仕上がっていました。GXに乗ることで、スズキがバイク作りに取り組むブレのない姿勢を再確認することが出来たのです。
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