ロイヤルエンフィールド初の水冷エンジン搭載 すべてが新しくなった「ヒマラヤ」を解説
バイクのニュース / 2024年1月30日 8時10分
ロイヤルエンフィールドのアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」が新しくなりました。水冷エンジン、出力特性が変化する2つのライディングモード,スマートフォンと連動可能なカラーディスプレイなど、ロイヤルエンフィールド初の技術を多数搭載した、その新型「ヒマラヤ」を紹介します。
■そもそも「ヒマラヤ」とは?
まずはロイヤルエンフィールド(以下:RE)のアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」についてお復習いしましょう。
ロイヤルエンフィールド新型「ヒマラヤ」に乗る筆者(河野正士)
「ヒマラヤ」がデビューしたのは2018年。英語での表記は「HIMALAYAN」なので、日本以外では“ヒマラヤン”と呼ばれています。これはヒマラヤの語尾にanが付くことで “ヒマラヤ”という固有名詞から、文化や地域などヒマラヤに関連した事項に対して使用する形容詞になるんですね。
RE本社の人たちにモデル名の由来を聞くと、HIMALAYANは“ヒマラヤ生まれ”のバイクだから、その形容詞をそのままモデル名にした、と教えてくれました。ただし日本市場導入時には、日本語として馴染んでいる「ヒマラヤ」となったそうです。
新型「ヒマラヤ」の試乗会が行われたのは、ヒマラヤの麓の街インド・マナリ。そこは標高2000〜3000mの高地で、気圧や酸素量が変化し、性能が約20%低下するほど過酷な場所。しかしロイヤルエンフィールドは、あえてそんな場所でテスト走行を行った
そのモデル名からも分かるとおり、「ヒマラヤ」は標高5000mを超える山々が連なるヒマラヤ山脈を走りきるために開発されたバイクなのです。しかも普段はスクーターや小排気量バイクに乗ってる極々普通のライダーでも、安全に、そして確実にヒマラヤの山々を巡るツーリングが出来ること、というのが開発の第一目標だったそうです。
「ヒマラヤ」は、ヒマラヤの山々を走破することを目的に開発されました。ヒマラヤには舗装路もオフロードも、岩山も砂丘のような場所もあり、あらゆるコンディションで安全に、そして楽しくバイクをライディングできるように設計されている
というのも、REの拠点であるインドではツーリングが盛んで、なかでもヒマラヤの山々を巡るツーリングは、インド人ライダーの憧れ。山頂の雪が溶けてバイクが走れる8月頃からの約2ヶ月半の間に、とんでもない数のライダーがヒマラヤツーリングにやって来る。そして多くのライダーが、ヒマラヤの麓の街でバイクを借りて山の頂を目指すのです。
試乗コースに組み込まれていたオンロードのワインディングセクション。最低地上高は、旧モデルから30mmも高い230mmに設定されているのに、コーナーではステップが地面に接するほど深く車体をバンクさせることも可能
2018年にデビューした「ヒマラヤ」が、排気量411ccの空冷単気筒というシンプルエンジンを搭載していたり、アドベンチャーモデルとしては軽量コンパクトな車体を採用していたりしたのも、普段は街中を走るライダーたちの、一生に一度の冒険の旅をサポートするために選び抜かれたディテールだったわけです。
■すべてを刷新した新型「ヒマラヤ」
新しくなったフレームとエンジンの関係がよく分かるCADデーター。エンジンのシリンダーが前傾していること、そしてエンジンがライダーに近い位置に配置されていること、エアクリーナーボックスがエンジン真上に配置されていること、リアサスペンションはスイングアーム上に配置されていることなどが分かります
今回紹介する新型「ヒマラヤ」は、ヒマラヤの山々を巡る旅を完遂するというコンセプトはそのままに、すべてが新しくなりました。エンジンも、フレームも、外装も、すべてです。
そして、電子制御技術から距離を置いてきたREでしたが、この新型「ヒマラヤ」には、アクセル操作を電子信号で伝えるライド・バイ・ワイヤーを採用。エンジンの出力特性が変化する、「エコ」と「パフォーマンス」の2つのライディングモードも装備。その「エコ」と「パフォーマンス」にそれぞれ、リアABSのONとOFFがセットされ、都合4つのライディングモードをボタン操作で簡単に選択できるようになりました。
エンジンは、RE初の水冷。シェルパ450と名付けられたそのエンジンは、排気量452ccの水冷単気筒DOHC4バルブを採用し、旧ヒマラヤから一気にモダンになりました。
そしてシリンダーを前傾させることで、重いエンジンをライダーに近い位置に搭載しながら低重心化も実現。エアクリナーボックスを燃料タンクの中央に配置することで、いままでエアクリーナーボックスがあったシート下スペースにリアサスペンションを配置することができ、シート高を低く、さらにはシート幅も狭くすることも実現しています。
じつはシート高そのものは旧ヒマラヤから少し高くなった825mmなんですが、シート下のフレーム形状や、その上に乗る燃料タンク後端やシートの絶妙な形状によって、足つき性がとても良いのです。また水冷化して、ラジエターと呼ばれる冷却装置を追加しても、エンジンの総重量は旧ヒマラヤより10kgもの軽量化を実現。そのエンジンの軽さは、車体の扱いやすさに直結しているのです。
フレームは、ツインスパー・タイプ。エンジンをフレームの一部とすることで、フレームそのものの軽量化にも成功しています。じつは新型「ヒマラヤ」は旧モデルに比べ、車体そのものは大きくなっています。
エンジンの水冷化はもちろん、長距離走行における快適性や、オフロードでの走行安定性を高めるために、ホイールベースと呼ばれる前後ホイールの間隔を長く取っていることなどがその理由です。
でも新型「ヒマラヤ」に跨がると、その車体の大きさはまったく感じないし、逆に小さくなったんじゃない? と感じるほど。また車体は大きくなったのに、車重は3kgのダイエットに成功。サイドスタンドから車体を起こすときの軽さは驚くほどで、その車体の軽さを走行中にもしっかりと感じることができるのです。
■トルクフルなエンジン特性にも注目
シート高が低く足つき性が良いため、不安定なこんな路面では、こんな風に両足で地面を漕ぎながら走ることもできます。そんなときに、極低速でも力強いエンジンの出力特性もライダーをサポートしてくれます
走行中の車体の軽さを生み出す要因が、エンジンの出力特性にもあります。新型「ヒマラヤ」のために開発されたRE初の水冷単気筒エンジン/シェルパ450エンジンは、8000回転で40PSという最高出力を発揮します。
この最高出力は、旧ヒマラヤから約1.6倍も強力になっています。でも特筆すべきはトルク。分かりやすく言うと、瞬間的なチカラを表す最大出力に対し、トルクは車体を前に押し出すチカラ。その最大トルクが旧ヒマラヤから1.25倍力強くなっていることに加え、街中で常用する3000回転というエンジン回転数で、その最大トルクの90%を発揮するのです。
要するに、エンジン回転を高くしなくても、車体がグイグイ前に進んでいく。もちろんエンジンを高回転まで回して走れば十分に速いんですが、エンジン回転を高くしなくてもクルマの流れを十分にリードできるほど。
スタートして、ポンポンポンッとすぐにシフトアップして、3〜4速くらいを使って走ると、とても気持ちが良いのです。そして前車が減速したり、交差点が近づいたりすると減速しますが、そこから再度加速するときなどは、必要以上にシフトダウンしなくてもエンジンが低回転域で粘って、そこからゆっくりアクセルを開けると、トントントンッと単気筒エンジンらしい、シンダー内爆発を拾いながら加速していくのです。
■オン・オフどちらでもバランスのいい走破性を発揮
エンジン回転を上げなくても車体が前に進んでいく力強さは、オフロード走行時にも役に立ちます。とくに両足で地面を搔くように、バイクとライダーが一緒になって、不安定な路面を走る時などには、ライダーをしっかりサポートしてくれるのです。
さらに前後サスペンションも、オンロードでもオフロードでも、走りをサポートしてくれます。前後サスペンションは、日本のトップブランドであるSHOWA製を採用。リアサスペンションのストローク量を20mm伸ばして、オフロードでの走破性とともに、乗り心地も向上。
オンロードを走るときのサスペンションの小さな動きも、オフロードを走る時の大きな動きも、ともに滑らかでよく動きます。このオフロードとオンロードの両方の領域で、走破性と乗り心地を高めるのは至難の業なのですが、新型「ヒマラヤ」では、それが見事に調和させているのです。
■スマホとの連携も可能
ややオンロード寄りのタイヤの性格ながら、オフロードでの走破性もなかなか。かつて林道ツーリングにハマった筆者も、久しぶりにオフロードライディングを楽しむことが出来た
さらにはREのスマートフォンAppを利用すれば、スマホと4インチの丸型TFTカラーディスプレイの連携が可能。App内のナビゲーションシステムはGoogleマップのシステムを利用しているので、世界中でナビゲーションシステムが利用可能になります。
また、ディスプレイの表示画面は、エンジン回転計を中心としたメカニカルモードと、ナビの地図が画面の3分の2を占めるナビモードの2つの表示画面を選択可能。メカニカルモードを選択したときには、画面下に矢印で方向を示すターン・バイ・ターン式のナビゲーションシステムも利用可能です。
シート高825mmの新型「ヒマラヤ」に身長170cmの筆者(河野正士)が跨がった状態
排気量が452ccであることから、新型「ヒマラヤ」を日本で走らせるためには大型自動二輪免許が必要になります。したがって、もう少し排気量が小さければ普通自動二輪免許で乗れて、各メーカーが新型車をラインナップする小型アドベンチャーカテゴリーに入ります。
また、もう少し排気量が大きければ、800cc付近の排気量モデルが溢れる、流行のアンダー1000ccのミドルアドベンチャーカテゴリーに属します。
マーケティング的観点からすると、そのどちらかのカテゴリーで勝負する方が得策のように見えます。しかしREが「ヒマラヤ」を開発する目的は、ヒマラヤという特殊な場所での走破性や快適性を追求したモノ。そのニッチな市場での存在感を高めることが、グローバルな市場でも成功を呼び込むと信じているのです。
それに小型アドベンチャーモデルのほとんどが、同メーカーの大排気量アドベンチャーモデルの末弟的な立ち位置。価格も車格も抑え、パフォーマンスもそれに準じています。しかし新型「ヒマラヤ」はREアドベンチャーモデルのトップモデル。各部に妥協はありません。RE初の技術が満載されていることが、それを証明しています。
日本への導入タイミングや販売価格は未定ですが、もし日本上陸を果たしたら、是非試してみて下さい。その価値は、十分にあります。
■写真:高島秀吉
■衣装協力:クシタニ
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