『FIM E-XPLORER WORLD CUP』2024シーズン開幕 電動バイクによる新しいレースのかたち
バイクのニュース / 2024年2月27日 12時10分
大阪府の「万博記念公園」で行なわれた電動バイクによるレース『FIM E-XPLORER WORLD CUP』の会場には、いつもとは違う雰囲気が流れていました。そしてまた、レース観戦らしい、熱い空気もありました。それらの混在は、新しいレースのスタイルだったのかもしれません。
■まだ2年目の新しいカテゴリー、世界戦の開幕は大阪で
2024年2月16日(金)、17日(土)に、大阪府の『万博記念公園』に設けられた特設会場で『FIM E-XPLORER WORLD CUP 大阪大会』が行なわれました。「E-Xplorer(イー・エクスプローラー)」とは、2023年にスタートした電動バイクによるオール・テレイン・レースです。2024年は初めて日本で開幕戦が行なわれ、その後ノルウェー、フランス、スイス、インドと全5戦が開催され、例えばスイスの山頂、とある市街地、今回の大阪大会のように、都市の中に位置する公園まで、場所を選びません。
エキゾーストノートが無くとも、トップライダーたちのバトルはとても迫力があり、圧倒される
今大会には全8チーム16名のライダーが参戦しました。その中には、ホンダの電動モトクロスバイク「CR ELECTRIC PROTO」で参戦するファクトリーチーム「Team HRC」も含まれています。
各チームは男性ライダー1人、女性ライダー1人で構成されています。つまり、チーム戦でもあるわけです。
大阪大会のおおまかなタイムスケジュールは、以下の通りでした。
<2月16日(金)>
男子フリー走行1
女子フリー走行1
男子フリー走行2
女子フリー走行2
※「フリー走行」=練習走行のこと。
<2月17日(土)>
男子フリー走行3
女子フリー走行3
男子予選
女子予選
男子レース1
女子レース1
男子レース2
女子レース2
男子レース3
女子レース3
ブース出展エリアも用意された。こちらは電動モトクロッサー『SUR-RON(サーロン)』のブース。3チームがサーロンの「Ultra BEE」を起用していた
男性ライダーと女性ライダーは分かれてフリー走行、予選、レースを行ないます。レースは3回行なわれ、それぞれのレースで優勝者から順次ポイントが付与されます。
3回のレースのポイント合計によって、男性・女性ライダーそれぞれのトップ3が表彰される(優勝、2位、3位)というシステムです。
今大会では、男性ライダーも女性ライダーも、優勝は2023年の参戦でチャンピオンを獲得したチームのライダーでした。走りのポテンシャルに加え、電動バイクレースによる戦い方の経験値も一役買っていたようです。
また、男性・女性ライダーのポイントを総合して、最も多くのポイントを獲得したチームが優勝となります。今大会では「Team HRC」が優勝を飾りました。
■電動バイクだからこその新しい可能性。その印象は?
「E-Xplorer」の取材をスタートした16日の午前中、わたし(筆者:伊藤英里)にとって印象的な出来事がありました。このとき、我々の仕事場となるメディアセンターは建物の地下に位置していて、地上の風景を見ることはできません。そろそろ走行時間かと階段を上がると、すでに走行が始まっていたのです。おそらく、内燃エンジンのバイクなら、走行が始まったことに気付いたでしょう。
1レースは8分+1周と短く、バッテリー残量に気を遣うことなく全力で特設コースを駆け抜ける
わたしは電動バイクによるロードレース選手権である、『FIM Enel MotoE World Championship』を初年度の2019年から取材し続けています。電動バイクの静かさについては分かっているつもりでしたが、体に染みついた「バイク=音」を、あらためて認識した一幕でした。
「E-Xplorer」は、そのようにエキゾーストノートが無いレースです。エキゾーストノートが無いことで、興奮の半減を懸念するモータースポーツファンも多いかもしれません。しかし、わたしが今大会で感じたのは、「静かなモータースポーツ」の可能性でした。
例えば、予選が始まるころには、会場に入らない人も眺めている様子がありました。会場は万博記念公園の「お祭り広場」という場所で、とても開けています。チケットを購入した人はコースに近いスタンド席や芝生席で観戦しますが、その周辺の柵の外から、「E-Xplorerがあると知らずに来た」人も見ることができるのです。
柵の外側には、おそらく休日を家族で過ごそうと来たのでしょう、年齢を重ねた夫婦や、小さな子供をつれた家族がいました。会場では音楽が流され、合間にはDJステージなども行なわれていて、「バイクのレース」でありながら「イベント」という雰囲気も満ちているのです。
レース日(土曜日)には大阪府の吉村洋文知事が来場。じつは学生時代にバイクの免許をとり、ホンダが初バイクだったという。「CRエレクトリック・プロト」に笑顔でまたがった
芝生席では子供をベビーカーに乗せた家族が、ピクニックみたいにランチをほおばりながら、電動バイクが特設コースを走り抜ける様子を眺めています。
これまでのレース観戦とはまた違った、どこかのほほんとした雰囲気が流れているのです。その「レースとともに会場にいる丸ごとを楽しむ」雰囲気は、少し、ヨーロッパでの観戦スタイルに似ているようでした。
しかしレースが始まると、空気がピリッとしたものに変わったのです。ライダーの激しいバトルを、観客が前のめりになって見入っている雰囲気が伝わってきます。
観客を引き付けるのは、一流のライダーが本気で抜き、抜かれるトップクラスの戦いです。少なくとも観戦が至近距離となる会場で行なわれる電動バイクレースでは、音が無いことが、大きなネガティブポイントにはならないのかもしれません。
むしろ、エキゾーストノートという、慣れない人には緊張を感じる音が無いことで、モータースポーツが多くの人に──特に子供などには──開かれているようでした。
■エキゾーストノートが無いレース。ライダーはどう感じていたのか?
では、静かな電動バイクによるレースを、ライダーたちはどう感じていたのでしょう。トーシャ・シャレイナ選手(Team HRC/男性ライダー)とターニャ・シュロッサー選手(GRAVITY/女性ライダー)に話を聞きました。2人とも、レースでは後ろからの追い上げを受けたライダーです。
ホンダ「CRエレクトリック・プロト」を走らせるトーシャ・シャレイナ選手(Team HRC/男性ライダー)
「もちろん、全部がノーマルのバイクとは違っている。ほかのライダーとのバトルはとても難しい。(ライダーが)どこにいるのか分からないからね。でも、街中でのこういうレースができるのはいいことだと思うよ」(トーシャ・シャレイナ選手/男性ライダー総合2位)
「レース中は誰かが後ろにいるのかどうか、分かりにくかった。見ていたと思うけど、抜かれるときに接触したの。聞こえなかったから……。(内燃エンジンのバイクレースとは)すごく違っていて、チェーンの音、タイヤの音、サスペンションの音が聞こえる。それは、ノーマルのバイクでは聞こえない音でしょ。新しい音に慣れないといけない。最初は、チェーンとかタイヤの音などが聞こえるから、変な感じだった。でも慣れてしまえば、普通のバイクみたいな感じだよ」(ターニャ・シュロッサー選手/女性ライダー総合3位)
「ノーマルのバイクでは聞こえない音」があると言うターニャ選手に、さらに「チェーンなどそういう音で、後ろから来るライダーに気付くのですか?」と聞きました。するとターニャ選手は「慣れていけば、どこで集中すればいいのか分かるようになる」と答えていました。
激しいバトルを見せていたGRAVITY(グラビティ)の女性ライダー、ターニャ・シュロッサー選手。「E-Xplorer」は参戦1年目!
「慣れるにつれて、後ろにいるライダーの音が聞こえてくると思う。どう聞こえるのかが分かるから。慣れなくちゃいけないけど、慣れてしまえば普通のバイクよ」(ターニャ・シュロッサー選手)
ライダーは、自分にあるモノ、環境で全力を尽くすのが仕事です。電動バイクであることそれ自体は、彼ら彼女らにとって大きな問題ではなく、それに「いかに早く適応」して勝つか、ということになるのでしょう。
「E-Xplorer」は電動バイクによるレースであるだけではなく、レースのスタイルとしても、新しい可能性を含んだ選手権でもあると感じられました。
電動バイクには課題もありながら、今後のモータースポーツにとって新しい見せ方、ファンへの届け方という可能性も持っているのではないでしょうか。
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