WRCに勝利するために!途方もない速さとパワーを持って生まれた”悲劇のマシン”日産「パルサーGTI-R」とは
バイクのニュース / 2024年3月22日 12時10分
モータースポーツ界の生き字引、現役レーサーの木下隆之氏の新連載コラム「木下隆之のヒストリカルパレード(通称:ヒスパレ)」がスタート! 連載第4回目は、世界ラリー選手権に送り込むために誕生した日産「パルサーGTI-R」を解説します。
■日産のモータースポーツの歴史を彩る貴重な一台!
1990年に発売された「パルサーGTI-R」は、日産のモータースポーツの歴史を彩る貴重な一台ではありますが、一方で”悲劇のマシン”とも思えます。
1990年に発売された日産「パルサーGTI-R」(写真提供:ミハラ自動車)
ベースはファミリカーの4代目パルサーです。ごく大人しい日常ユースのコンパクトモデルがペースなのですが、そのボディに強力なSR20DET、直列4気筒2リッターDOHC4バルブインタークーラーターボが積まれ、モータースポーツの最前線、世界ラリー選手権(WRC)に送り込まれました。
当時日産は世界ラリー選手権でも輝かしい成績を残していました。”ラリーの日産”とも言われ、ラリーシーンで数々の勝利を飾っていたのです。
1990年といえば、1989年に復活したスカイラインGT-RがグループAレースで快進撃を初めていました。その勢いをラリー界で紡ぐためにパルサーGTI-Rが開発されました。スカイラインGT-Rと同じく、グループA規定のベース車両として開発されたのです
1990年に発売された「パルサー(4代目)」
ただし、スカイラインGT-Rが設計当初からグループAマシンを前提に開発されたのとは対象的に、パルサーGTI-Rは、ファミリーカーのパルサーの開発が進行している途中で急遽企画されたものでした。そのため、グループA前提で開発されたものよりは不利な状況だったのです。
グループAは年間5000台以上生産されたマシンをベースに、改装規定が厳しく決められていました。ですので、競技を優位に戦うには、市販車の段階で戦闘力を高めておく必要があります。ですが、パルサーGTI-Rは、その点で不利だったのです。
■筆者(木下隆之)は、パルサーGTI-Rの開発に携わっていた!
実は、当時日産契約ドライバーだった僕は、このマシンの開発に携わっていました。発売前の2年間、人目を避けた山の中で徹底的に走らせたのです。
ボンネット内の巨大なインテークはパルサーGTI-Rの力瘤(ちからこぶ)のような迫力がある(写真提供:ミハラ自動車)
インタークーラーは横置きです。本来ならばラジエターの前に風を受けるように組み込むのが冷却の点で効率が良いのですが、パルサーの開発途中で立ち上がったプロジェクトだったためにそれもままなりませんでした。
ですが、ボンネット内の巨大なインテークはパルサーGTI-Rの力瘤のような迫力があります。それがアイキャッチになっています。
リアの巨大な、鷲が羽ばたくようなウイングも、パルサーGTI-Rが実戦で戦うことを前提にされていたことを語ります。
タイヤは195/55R14インチでした。グループA規定では、タイヤハウスを改造することができず、従って市販車とほぼ同等の外径で走ることになりました。ですので、ライバルが15インチのタイヤを履くのに対してパルサーGTI-Rは小径の14インチです。大径のブレーキを組み込むこともできずに、その点でも不利だったのです。
1991年3月WRC第39回 サファリラリーに参戦したパルサーGTI-R
それでも1991年のWRCスウェデッシュラリーでは3位表彰台に登っています。最大のターゲットだったサファリラリーでの勝利を逃しました。善戦したといえるかもしれません。
ちなみに、改造範囲の狭いグループNクラスでは年間チャンピオンに輝いています。強力なパワーユニットが炸裂すると、途方もない速さを披露したのです。悲劇のマシンと言われましたが、日産の歴史を刻んだマシンとして今でも根強いファンがいるのも確かですね。
◾️日産「パルサーGTI-R」
<エンジン>
形式:SR20DET
種類:水冷直列4気筒DOHC16バルブICターボ
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
総排気量(cc):1998
圧縮比:8.3
最高出力(ps/r.p.m):230/6400
最大トルク(lg-m//r.p.m):29.0/4800
燃料供給装置:ニッサンEGI(ECCS)
燃料タンク容量(リットル):50
<寸法・定員>
全長(mm):3975
全幅(mm):1690
全高(mm):1400
ホイールベース(mm):2430
乗車定員(名):5
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